1.12 主人公に向いているのだ
レン君はだいたい五時~六時ぐらいに起きます。凄いよね。自分なら二度寝しちゃうよ。
「……ん……」
朝。僕はゆっくりと目を開ける。
そして抱きついていたハヤタさんから離れ、ベットからゆっくりと出る。
トスットスッ
そして小さな足音を立て、パジャマのフードの部分を脱ぎ、前に付いているボタンを一つ一つ外しながら洗面所へ向かった。
洗面内で緑色の上着と白いシャツ、そしてパンツに着替えてから、
ジャアッ
無言で蛇口から水を出して顔を洗う。そしてサラッと伸びている中に微かに飛び出ている数本の髪の毛を整える為に、虚空からクシを取り出しながら目の前にある鏡に目を向けた。
「うーん。今日は髪の毛結んでおけば?」
「んんっ!……結ぶ、ですか?」
その時、後から来たハヤタさんにそう言われた。
いや、簡単に言うけども……
「結ぶって言われましても、僕はずっと髪は下ろしてやってきたので……」
「下ろすが選択肢の一つみたいな言い方」
視線を下げ、そう呟く。
結び方など全く分からない。そもそも、ルルちゃんはロングヘアーが好きなんだもん。あんまり結びたくないよ。
「うん。いいね。似合ってるよ。可愛くて良いんじゃないのかな?」
「……はい……?」
ふとそんな声が聞こえ、バッと顔を上げる。
鏡にはハヤタさんによってポニーテールにされた僕が映っていた。お尻まで伸びていたはずの髪の毛が、腰辺りまでしかない。
あれ? ちょっと待って?
「……」
「ほらほら、よーく見てみなさいな。可愛い可愛い男の子だよー」
ハヤタさんにそう言われる。
可愛い……そうですか……うん……ふざけないでよこのやろう。
僕は真横に来て鏡を見つめているハヤタさんに向けて、怒りを込めた視線を向ける。
「フーフフンッフン、フンフンフン」
が、こちらに一切興味が無いと言ったふうに、自分の髪の毛を弄っていた。
ほったらかし!? まさか本当にこのまま行けっていうの!? というか……
「フーフフフーフフフンフンフン――
「わぁ、鼻歌歌ってる……」
「僕が歌うのそんなに変なのかな?」
「いや、似合いすぎて何か……って思っただけです」
「あははは。なにそれ、ディスり?」
ただなんかイメージどおりだなって思っただけ。少なくてもバカにはしていない。
「……あれ? 前髪、上げるんですか?」
僕は、ヘアゴムを咥えながらゆっくりと髪をかきあげていたハヤタさんに聞く。
くぅっ。咥えてるだけなのにさまになるとか、羨ましいったらありゃしない!
「うん。さすがに、顔がよく見えない正体不明の人と話すのは誰だって怖いからね」
「ほへぇ……」
「何その反応」
何って言われてもね。ただ単に隣に立つんじゃねぇよという気持ちがさらに強くなっただけだけども。
「まぁ、ある程度慣れたら下ろすつもりだけどさ」
「ハヤタさんは美少年なんですから、上げたままでも良いと思いますけどね」
「……まぁ、あんまりやろうとは思わないかな」
「そ、そうですか」
いつもなら、スッ、と答えるのに少し間があった。
何か言いたくないことがあるのかな……? まぁ、無理に聞く気は無いけども。
「朝食はどうするのかな?」
「冷蔵庫に食パン八切れと一リットルの牛乳一パックが入ってました」
「わぁお」
その後、僕とハヤタさんは、王の部屋の前へ向かった。部屋の前には既にミチルちゃんとフルキさんがいて、
「遅いです、HとR」
「……あ、イニシャルか。分かりにくいよ」
ミチルちゃんが僕とハヤタさんのことをイニシャルで呼んだ。
一瞬何のことか分からなかったよ。この子もハヤタさんみたいに突発的に変な事を言うからなぁ……
「何を言ってるんだ。結構分かりやすかっただろ」
「そもそも僕のイニシャル間違ってたけど」
少なくても僕はそうは思わかなかったなぁ。一瞬考えちゃったもん。ハヤタさんならもっと分かりやすいこと言うよ。それと僕のイニシャルはLだから。
「フルキさんはミチルちゃんにちょっと甘いと思うよ。僕のイニシャル間違ってたし」
「僕達は別にお笑い芸人を目指してるわけじゃないからさ。おふざけの評価なんて適当でいいじゃんさ」
そうだけどさ。そうだとしてもさ。それでも分かりずらいことを言われても、反応に困っちゃうじゃん。
「そうなのです。HなRは黙ってミチルの言うことを聞いてれば良いのです」
「言うことを聞いてればとはなかなか無茶苦茶なことを言うね。というか、HなRじゃ僕がエッチな子みたいになるじゃん!」
「事実、レン君はエッチじゃん」
「ハヤタさんにだけは言われたくないです!」
この人に言われるのは心外中の心外だ! 後、何度も言わせないでよ! 僕はRじゃないの!
「それと僕のイニシャルはLだからね!」
「どうでもいいのです」
「良くない! 二度と間違えないで! 頭に刻んでおいてよ!」
「凄い勢い。Lに並々ならぬ何かを持ってるのかなこの子」
そんな会話をしながら、セルント王が部屋から出てくるのを待った。
おかしくない? 普通はこっちから出迎えるものじゃない?
「はっ、賑やかで良いぞ」
あの、すみません。「は」が一つだけだと鼻で笑ったみたいになる気がするのですが。わざとでしょうか?
「では召喚する場所だが、まぁ大雑把に説明すると、北と東と西の三箇所だ。どこをやりたい?」
流石に雑です。何故大雑把に言ったんですか? もう少し詳しくお願いしたいです。
「正直、どこでも良いのです」
「堂々と言ったよこの子」
「どーどーだよレン君」
「何故僕が落ち着かなきゃいけないんですか?」
まぁ実際、大差はないだろうけどさ。というかそんなに変なことを言ったの僕?
「今更ですけど、召喚はどうやるのでしょうか? 正直、私はそんな技術を持ち合わせておりませんので」
「本当に今更な質問だねー」
「フ、フルキが……敬語を使ってるのです!?」
「そこまで驚くことなのかなー?」
実際、召喚なんて大それたこと、たかだか高校生である僕たちがそう簡単に出来るわけがない。違う世界から連れてくるとか尚更。
……今の僕って、高校生って呼んでいいのかな?
「その点については安心してくれ。各部屋に召喚士を配備させている。君たちは召喚を見守り、そして案内をするだけでいい」
「結構簡単な仕事なのです……」
「僕たち騙されてるのかな?」
「流石に王を疑うのはやめましょうよ!?」
この国の王だよ? 疑るのはよくないと思うよ?
「そっか。それなら俺は……西がいいかな」
「ほう。それはどうしてなのかな?」
「俺は左利きだからです」
「なかなか面白い理由だね」
「ある意味そんな発想まで至るのは難しいと思います」
ドヤ顔で言ったよ。この晒し型美少女の頭の中も覗いてみたいや。というか西が無かったらどうしてたの?
「じゃあ、僕は東かなー」
「ちなみに何でですか?」
「ふふふ。主人公は常に真ん中を行くものなのだよ」
「な、なるほど。さすがハヤタ先輩!」
「ごめんなさい。言ってる意味が全く分かりません」
主人公は常に真ん中を行くものだとか言ってるのに何故東に行くんだこの隠し型美少年は。何故主人公を拒絶するんだよ。
「何を言う! レン君こそが主人公ではないのか! 君こそが真ん中を行く人間ではないか!」
「ごめんなさい。言ってる意味が全く分かりません」
そんな熱く語られてもね、その本人がピンと来てないんだよ。
「レン先輩。ラノベの主人公は、だいたい高校生なんですよ」
「ごめん、言ってる意味が全く分かんない」
熱もねぇし意味もねぇ。そんなので僕が「なるほど!」って言うとでも? そもそめその理論ならここにいる四人全員が当てはまるよ。
「レン。えっと、主人公は……えと」
「無いなら無理しなくてもいいからね?」
何でそんな頑なに僕を主人公に推すんだこの人たちは。取り合えよ。誰だって主人公に憧れるものなんじゃないの?
「……フルキがいつもと違ってふざけ倒しているのです」
「ん? いつもはふざけないの?」
「です。むしろいつもはレンみたいな感じなのです」
「まじかよこの人……まさか僕がいるからって安心して巫山戯てるな……?」
とにかく、僕は城の北側に、ハヤタさんは東側に、ミチルさんとフルキさんは西側にそれぞれ配置することになった。
「召喚者を部屋に送り届けたら、一旦私の部屋に集まっておくれ。まだ何をやるのか詳しくは教えてないのでな」
何故今教えてくれないのだろうか? 信用してないのかな? どうせ忘れるだろうって思ってるのかな?
「ぬぅわっはっは。お主らには、期待しているぞ。それでは、散れ」
セルント王の言葉に、全員が部屋を出て、それぞれの目的地へと向かって行った。
……しょうがない。考えるのは一旦やめよう。
一人になった僕は目の前を見る。セルント王の部屋へと続く扉。その隣に、たくさんの扉がある。あるのだが、セルント王曰く、
「あれは私の部屋以外は全部同じ廊下に続く扉だ。どの扉から入っても同じ場所に出る。好きな扉から入るといい」
だそうだ。
何故わざわざそんなことを?
僕はセルント王の部屋のすぐ隣の扉を開けてみる。すると中は横に広い(右側はすぐ壁の)廊下になっていた。
「本当に繋がってたよ……」
僕は半分絶句、半分呆れのような感想を呟き、廊下の突き当たりにある二つの扉を目指して歩き始めた。
さぁ、都合の良すぎる召喚のお時間ですよはぁはぁ。
因みにハヤタさんの鼻歌。自分が実際に好きな曲を歌ってもらいました。




