1.11 お風呂で重なる肌。最高ですね!
お風呂シーンの時、男同士で肌を弄りあう光景が少ないのってやっぱり需要が無いからなんですかね。
「ねぇレン君」
「はい、何でしょうか」
十八時四十分。半ば無理矢理共にさせられたお風呂にて。
ヘアゴムを使い、僕は後ろ髪を団子に、ハヤタ会長は前髪をちょんまげのようにし、湯船に浸かっている。
ここのお風呂は五人ぐらいが入るほどの大きさだ。ちょっと大きい、というイメージだ。まぁ、ベッドが八人分あるから別におかしくはないだろうけども。いや、八人分のベッドが横並びで置いてあるのは流石におかしいけども。
「漫画とかのお風呂のシーンでさ、「カポーン」って音が鳴るじゃん?」
「かぽーん……? あ、あれの事ですか」
「あれってさ、バケツとかを床に置いた時の音とはちょっと違うんだよね。レン君はさ、あの音って何処から鳴ってると思う?」
「突発的すぎる質問ですね」
というか漫画とかアニメとかの類には疎いんだけどもなぁ……そんなこと聞かれてもなぁ、としか思えないけども……でも確か……
「えっと……あれは、桶や床のタイルの材質とか温度や湿度とか、色々条件があったはずです」
銭湯みたいな大きなところでの反響とか、桶の置き方とか、正直どれが本当かは分からなかったけど。
「実際、僕も調べるまで知らなかった……というより存在自体知らなかったけども……だから音に若干の違いがあるんだと思います」
昔、ルルちゃんに聞かれて速攻で調べたこの知識がここで役立つとは思……役立ったのかこれは……?
「……も、もちろん知ってたよそんなこと。僕を誰だと思ってるのさ」
「じゃあなんで聞いたんですか?」
確かに意識でもしない限りはそんな音は出ないから、知らなくてもしょうがないと思うけど。
「……ねぇ……レン君はさ、寂しくなることってある?」
「またもや急かつ難しい質問ですね。何故そんなことを聞くんですか?」
さっきのはお風呂という共通点があったからまだしも、寂しいなんて今のこの状況とは関係性がほぼ無いし。
「別に、気になっただけだよ」
気になった……か……一度でいいからハヤタ会長の頭の中を見てみたいよ。
「で、どうなの? 寂しくなって、僕に劣情を抱いたりしてないのかな?」
「うわぁ……」
「ごめん」
いつものノリってことは分かる。けど、ちょっと……それより本当にどうしたんだろ? 何で急にそんなことを聞くんだ?
「……もしかして、僕って態度とか表情に出てたんですか?」
「いーや。なかなかなのポーカーフェイスだったよ。僕が言うから間違いない」
僕が言うから……? 一体どの立場で言ってるんだ? メンタリストか?
「でもそんなことを聞くってことは、寂しいって気持ちはあるんだね」
「……まぁ、はい……」
当たり前だ。無いわけがない。会いたくて会いたくて……態度に出さないようにするだけでも辛いのだから。
「ならさ。僕でよければ、その寂しさ、紛らわしてあげようか?」
その言葉に反応する前に、ハヤタ会長はゆっくりと、まるで恋人を抱くかのように、優しく、僕に抱きついてきた。ハヤタ会長の胸に、僕の顔が収まる。
「え? えっと……?」
「知ってる? 人肌は暖かくて、すっごく気持ち良いんだよ。身も心も……何もかもが癒えるんだ」
「え、と、その……はい?」
急にどうしたんだ……? ちょっと予想外なんだけど……暖かい? いや、湯船に浸かってる今じゃ人肌の温かみかどうかが分からないんだけども。
するとハヤタ会長は一旦僕から離れた……と思いきや僕の右腕を掴み、もう片方の手で僕の頭を支えながら僕の方に体重をかけながら倒れてきた。
「へ……? あ、ちょっ、危っ!?」
そしてそのまま、僕の顔がお風呂の中へと沈んで行くと思い、目を瞑った。
「かいちょ……」
顔が水に覆われ、息も出来なくなる……と思っていたのだが……
コツッ
「……ぇ……?」
何故か息ができ、更には口から声もでてきた。水の中で空気が一切無い空間なのに。
なっ、何で……!? だって今確実に、水の中……ぇ……
「何……何で……!?」
そして、全身で感じているはずの水の感覚が無いということにも気がついた。
「何が、起こって……っ!?」
僕は目を開け、状況を確認した。瞬間、理解した。
周囲を見ると、大きな浴槽に入っていた暖かい水が無くなっていた。水滴があるものの、凡そお風呂とは呼べない様な。そして目の前にくっきりと見えているハヤタ会長の顔がある。
何これ……!? 何で水が無くなってるの……!? え、いつの間に無くなったの!?
「ふふ……驚いてる驚いてる」
「っ!」
そんなオロオロしている僕を見て、ハヤタ会長は微笑みながら話しかけてきた。
その言い方。何をしたかは分からないけれど、これはハヤタ会長の仕業……
「な、何するんですか急に!」
僕は大きな声を出し、全身に力を込める。ハヤタ会長は表情を変えず、僕を見つめ続けている。
「急に……ね」
大きな声を出した僕とは対象的に、ハヤタさんは小さく呟くのみだった。
「ど、どうしたんですか? 何を――
「男同士なら、多少は大丈夫だよね」
「へ? ひぃ!」
そして、ハヤタ会長は僕の膝あたりに跨がり、左手で僕の両手首を抑える。強い力で。
え、ちょっと待って、抵抗してるのに振りほどけない! それどころか動けない! 何!? 急にどうしたの!? 何する気なの!?
「ハ、ハハ、ハヤタ会長? な、何を……」
そしてゆっくりと倒れ、少しずつ、僕に肌を重ねていくハヤタ会長。
え? ちょ、な! なななっ!?
「や、やめ、恥ずかし、いやそうじゃない。とにかくやめ――
「ふふ……暖かいね」
「ひっ、あぁぁ……」
やがて胸と胸が当たるほどの距離になった。体重をかけていないのか、息苦しくは無いが怖い。ハヤタ会長は僕の反応を楽しむかのように頭を撫でている。
この体勢……誰かに見られるというわけではないけども流石に恥ずかしい……! 早く離れてほしい!
「あ、あの、流石に、やめてくりゃ……」
「……耳……?」
「みゃっ!? み、耳!?」
ふいに、ハヤタ会長が僕の耳元でボソッと呟く。
「あ……アンスロ……! レン君ってアンスロだったんだ! あはっ! 可愛いなぁ……」
僕の耳を優しく掴みながら、そう呟く。
っ! や、やっぱり、見つかった!? ひっ!?
「ひやぁっ……つ、掴むの、やめて、くださいぃ……」
「……大丈夫、痛くないでしょ? ね?」
「「ね?」ではなくてぇぇ!」
ハヤタ会長は僕のお腹の上に座り直し、両手で僕の耳を触る。またあの感覚が、不思議な気持ちになる変な感覚が、僕を襲ってくる。
「にゃ……めて、ください……」
「……」
僕は自由になった両手でハヤタさんの腕を掴み、必死に抵抗する。が、相手がハヤタ会長な上に、耳を触られていて力が出ず、ハヤタ会長の腕が全く動かない。
頭が……ふわふわしているのに、ピリピリしてくる……やばい、どう……どうすれば……
「…………ふふ、なんちゃってね」
意識が飛びかけていた時、ふいにハヤタ会長が離れた。と同時に、ゆっくりとだが変な感覚も消えていった。
「はぁ……はぁ……ふぇ?」
僕に乗ったままだけど、両手は僕の耳から離れた。
「……ど、どういう、意味ですか?」
「どういうって言われても、ね。別にいつものやつだよ。ただ単に、レン君の反応が見たかっただけ」
「……は?」
何を言ってるのだこの人は……僕を押さえつけて、「反応が見たかっただけ」は流石におかしい。
すると、ハヤタ会長の顔が近づいて来た。
「可愛い反応だったよ」
「はにゃっ!」
そしてアンスロの方の耳を撫でながら、人間の方の耳元で囁くようにそう言った。
ひぃ!? ふ、不意は! 不意はやめてよ!
「さ、あがろっか。夜っていうのは、人生みたいにあっという間に終わるんだから」
そう言い、お風呂から出ていった。本当に理由は「見たかった」だけなのだろうか……いや、絶対に違う。多分、ハヤタ会長も寂しさを紛らわせたかったのだろう。そして無意識に僕に抱きついたんだ。
「ちょっと待ってください!」
そう言いながら、僕もハヤタ会長の後を追おうと浴槽から出た。
正気に戻ってなかったらどうなってたのか……いや、やめよう。悪寒がする。
「それと、一夜と一生を比べるにはあまりにもスケールが違うと思いますよ!」
パシャッ
「……ぇ?」
浴槽から出て、数歩歩いた瞬間、後ろから謎の音が響いた。僕は音の正体を確かめるために、浴槽まで戻った。
「……ぇ!?」
浴槽の中に、水があった。湯気が上がっており、暖かい水だということがすぐに分かる。
ハヤタ会長は……何をしたんだ……? 水を消して、また出現させる……少なくてもこんなの、ただの高校生が出来るわけ……
「……」
転記者。その一言が脳裏を過ぎった瞬間、理解した。
妖精の力、なのか……これがハヤタさんの……
「はーい、僕が体を拭いてあげるね。ほら、バンザーイ」
「やめやがれください。自分でできますから」
「ふふふ、見栄なんか張っちゃってぇ」
「心からの本心を言っただけです」
風呂上りの脱衣所。いつもと変わらない会話が繰り広げられている。それが逆に怖い。
「……」
一体この人は何を考えてるのだろうか。いつもそうだけど、今日はいつも以上に気になる。
あんなことをしておいていつも通りに接するとか、怖すぎるんだけど。軽くホラーだよ。またあんなことされたら怖いよ……後で自分で触って慣らしておかないと……
僕は今まで自分の耳を触ってこなかったことを後悔していた時、
「明日から別世界の人が来るけどさ、レン君はどう思う?」
真っ黒なシャツを着ながらハヤタさんは聞いてきた。綺麗なおへそが一瞬だけ見えた。
「はい? どうって……まぁ、ちょっとドキドキはしてます」
「なるほど。それはきっと恋だね!」
「「別世界の人」という単語だけで恋に落ちる人なんていませんよ普通。せめて会ってからにしてくださいよ」
一耳惚れなんて普通の人はしない。しないよね? する人はするのかな?
髪を拭いてから乾かし、パジャマを着る。髪の毛は邪魔になるので、パジャマの顔の部分の右側から出して、前の方へと垂らす。ただそれだけの作業だ。
「……」
だからじろじろ見られていたように感じたのは気のせいだろう。
「何その目は。そりゃ見るよ。何でそんな可愛いもんを着てるのさ」
僕のパジャマ……もとい、猫の着ぐるみを見ながらそう言ってきた。
「何でって……そりゃ、モクリサさん……えと、育ての親に貰ったものなんですから。着るに決まってるじゃないですか」
「だとしても……レン君に似合いすぎて可愛いんだけど」
「……」
あの人がどんな気持ちでこれをプレゼントしたのかは分からないけど、僕の為に買ってきてくれたものには変わりない。貰ったものは無下にしたくない。
だからそういうことは言わないで。僕だってなるべく考えないようにしてるんだから。
僕はさっさと洗面所を出て、台所に向かった。洗面所を出て向かいにある部屋だ。
そこで僕はこんな感想を抱いた。
おかしいでしょ!?
「朝早くから仕事に行くから、我が子のために夕食を作ってあげてる母親かよ!」
「流石レン君。的確なツッコミだ」
台所の隅には大きな冷蔵庫が置いてある。その中にはラップで包まれたカレーライスと「ハヤタ様とレン様へ。チンして食べてね」と書かれた貼り紙が貼ってあった。
何これ?
「最初に見たときは何も入ってなかったのに……いつ入れたんだろう……」
「……」
「一応王城だよね? 雑すぎると思うよ!? いやまぁ、料理は苦手だし、作ってくれるだけ嬉……んれ? どうかしましたか?」
「いやぁ……ナチュラルに受け入れすぎじゃないかなぁ?」
「はい? そうでしょうか?」
「ええぇ……」
特に何のトラブルもなくカレーを食べ、歯を磨き、そしてベッドに入った。二十時過ぎ。まだ寝るような時間ではないけど、やることもないので、ベッドの上で横になる。
お風呂でのこともあり、ハヤタ会長のことを警戒していたけど……大丈夫だったみたい。
「ねぇねぇ。恋バナしない?」
すると後からベッドに入ったハヤタ会長が僕に囁いてきた。
前言撤回。まだ警戒は続けておこう。というか何故にそんな修学旅行みたいなノリなの?
「レン君の好きなタイプの子、僕気になるなぁ」
あ、なるほど。この人が何を考えてるのかやっと分かった。
「浮かれてますよね?」
「べっつにそんなことはどうでもいいじゃないの。さぁ言いたまえ! さぁ!」
浮かれてるね。否定してないし。この人も絶対明日のことを考えてドキドキしてるよ。
「嫌ですよ」
「ええぇ。そんなこと言わないでよぉ」
「明日から大変なんですから、早めに寝ておいたほうが良いですよ。ハヤタさんだけ」
「えーもぉ。いーけーずぅ」
やかましいし鬱陶しい。無理なもんは無理なの。だって恋バナなんてしたら三回ぐらい夜が明けちゃうじゃん。
「じゃあ代わりにさ、会長、なんて付けないで呼んでよ。なんか壁を感じちゃうし。ね」
それって恋バナの変わりになるの? 全然違う気がするんだけど。
「ドア・イン・ザ・フェイスでも狙ってたんですか?」
「あはは……え? 何それ?」
「まぁ別に良いですよ。会長を外すぐらいは」
「え、まって顔のドアって何!? ねぇ!?」
まぁ、需要がなんじゃいこの野郎ではありますけど。
何が面白いって、このハヤタさん、想い人はちゃんといるんですよね。笑えません?




