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あいに溢るる  作者: 手石
異常な依存と異状に委譲しぬ意地
106/107

1.86 異性装が正装になりうる世界です

成るべく誤用には気を付けているつもりです。が、それでも間違った使い方をしている単語が、今までも、そしてこれからも出てくるかと思います。もし見つけても「作者間違ってんな(笑)」程度に受け取ってほしいなという今更ながらの懇願をします……意図してたり、この人なら誤用のまま使ってそうだなとかだったりは良いんですけど、レン君のような人で起きた場合にはちょっと背筋が冷えてしまいますので……

また何回も言ってるかもしれませんが、この世界は性に関する認識が大きくずれています。男らしい、女らしい、そんな言葉すら(作者の描写ミスでも無い限りは)存在しません。そんな事情のせいで、「恥じらいながら可愛い服を着る」という要素はこの世界には存在しません。

 ゴリャリャ


「失礼、します……その……」


「……何……でしょうか」


 すると、まるでタイミングを見計らっていたかのように医療室の扉が開かれた。扉の奥からは騎士が……先程から医療室の前で待機している人とは違う騎士が、入室してきた。躊躇いがあったのか、少し控えめで視線を下に向けている。


「何を……今更……」


「そんなに睨まないでくれ」


 少しだけ、意外だと感じた。先程まで感情を露にしていたのだが、ここまで露骨に怒りの感情をぶつける姿は見たことが無い。が、その睨みに怯む様子もなく、更にその奥から大柄な騎士が現れた。


「……君たちの友人もいたらしいから、私達を睨むのも無理はない」


「……ですが……」


 少し上擦った声を出しながら両手を前に出したと同時に、


 ンヲッ


「ひっ……!?」


「分かって……ほしいのです……」


 一人の女性の……生首が、両手の上に現れた。騎士はその丸い顔を、まるでバスケットボールを胸に抱くように腕を絡ませた。僕は咄嗟に可憐で小さな悲鳴を上げたルルとの間に入る。目は閉じられ、唇は少しだけ開かれており、まだ時間は経っていないのかもしれないが、死体とは思えぬほどに顔の形を綺麗に保っている。恐らく切断面であろう首からは全く血が出ていないところを見ると、何かスキルを施しているのだろう。


「彼女はヒューメヅニ殿……この部隊の責任者であり、リーダーでした」


「我々が無理に招き入れた客人を守る為に、我先にと敵に挑み……一瞬で、文字通り首が吹き飛びました」


「なっ……!?」


 そして次に、他己紹介と……短すぎる最期を僕らに告げた。


「一番の実力者が一瞬で帰らぬ人……その光景に、騎士は皆戦意を失いました」


「しかもその襲撃者は……「用があるのは別世界人だけ。邪魔しなければ殺さないよ?」……と」


「……」


「勝ち目の無い戦いに……無駄に命を落とすだけの戦いに……挑める訳が、ありませんでした」


「そんな……事が……」


 強大な敵にも怯まずに挑む勇敢な心と、主と言葉を交わさずとも信頼し合える そんな騎士が戦いを放棄し、更には思い出し泣きをしてしまう程の衝撃的が起きた。その事実だけで、ハヤタさんの中に芽生えた怒りの感情は無くなったようだ。ハヤタさんは申し訳なさそうに目を逸らした。


「皆命を懸けて戦う仕事をしておりますが……時間稼ぎすら出来ずに散ってしまう戦いなんて、出来ませんよ」


「……」


「愚の骨頂です……」


 その時の情景を思い出しているのだろう、一層強くヒューメヅニさんを抱きしめた。大柄の騎士も無言で真横を見つめている。が、唇を強く嚙み締めている。よく見ると、その奥で先程まで扉の前で待機していたであろうあの無表情男性騎士が、大柄騎士の頭を背伸びしながら撫でている。


「ヒューメヅニ殿は、あなた方の同胞と同じ、火葬にてお別れを告げる予定です」


「どうか安らかに、この地を旅立つことを祈っております」


 そして祈りの言葉を静かに口にした。が、その言葉は明らかに腕の中で眠る人にのみ囁かれたものだと分かる。

 再三感じている事なのだが、別世界人を嫌悪しているという場面を目の当たりにすると……命を失って尚見向きもされないというのは、やっぱり辛いな……


「そ、そうだ。サクちゃんに連絡しよっと」


「ぁ……あ。そういえば僕が飛び出しちゃったから……まだ探してるかもしれないですね」


「早く連絡せんとな。ハヤタもルルちゃんも意識保ってるなら大丈夫か。ちょっと部屋出てる」


 その重い空気に耐えかねたのだろうか。トヨさんが突然声を張り上げ、ポケットからスマートフォンを取り出しながら騎士の横を通り抜け部屋を出ていった。それで話は終わりだと感じたのだろう、ヒューメヅニさんを虚空に仕舞った。

 でもそうか……目を背けていたからすぐに気が付けなかったけど、やっぱり召喚者を襲ったのはモクリサさんではなかったんだ……


「そういえば、レン君が異世界から来た人だって分かった……って、言ってたよね?」


「ん……? ま、あぁ」


 すると突然、ルルが口を開いた。いったい何の話なのかと思っていたら、すぐに反応を示したのはモクリサさん だった。

 ……え……え、僕が別世界人だって知ってたの……!? 嘘何で!? いつから!?


「じゃあ、転記の存在自体は知ってたの?」


「……」


「……」


「はぁ……敗者に断る権利……は無いか……」


 そして続く質問。モクリサさんは少しの沈黙の後、諦めたように大きなため息を吐いた。転記に関わる話が出てきそうだと感じたからか、ハヤタさんは顔を右腕で拭いモクリサさんに近づいた。


「今から二十年以上前か?……ある日ヘイルの仕事を終えて帰宅すると、俺の家の前に小さい人がいたんだ」


「小さな……」


「……また……」


 ハヤタさんはモクリサさんの隣のベッドに腰かける。それを確認したからか、モクリサさんが昔話を始めた。

 二十年以上ってことは、僕達がここに来るよりも前の……生まれる前の出来事……そんなに昔から因果関係があったんだ。


「人種は分からなかったけど……多分女性で年齢は当時の俺よりは若くて声は少し高めで、身長は……」


「……」


「……」


「……」


 そこで突然口を閉じた。次の言葉がすぐに出てくると思っていたから、この場にいる全員が黙ってモクリサさんを見つめる。数秒間の謎の沈黙の後、


「多分、レンよりは小さかったな」


「うっしゃぁっ!」


「あんな怪しいセリフ一つで喜びすぎだよ」


「どっちも露骨」


 そんな事実を高らかに宣言した。

 よし小さい。それさえ分かっていればこれから語られる話がスッと脳内に入ってくれるね。


「で、確かこう言ってたな……」


 そして再び言葉を紡ぎ、すぐに勿体ぶるかのように言葉を止めた。遠い昔の記憶を呼び起こしているのか、顔を少し傾けた。


「「君の幼馴染である彼女は心の底から湧き出てくる憎悪のおかげで、優秀なくせに魔王への復讐という下らない目的以外は眼中に無い」」


「……どういう……?」


「「……君はどうかな? 彼女よりは劣るけど、まぁ、十分な戦力にはなるね」」


「ど……どういう……?」


「「君は、別世界人を撲滅してみたいと思ったことはないかい?」」


「え……」


 数秒後、口が開かれた。如何にもな、怪しい誘い文句を再現するように口にした。余裕のある話し方と当たり前に別世界という言葉を用いた勧誘。そして復讐を下らないという異端な考え。


「まず……俺はあいつに逆らえないと思ったな……何でかは分からなかったが……」


「逆らえない……勘、つまり第六感的なやつかな?」


「ドセルさんも同じ事言ってたね」


「まぁ実際……別世界の人間は嫌いだったから……一応、ある、とは言ったな」


「……」


 そしてモクリサさんやドセルさんですら逆らうことができないと思わせてしまう程の気迫を放つ者。ドセルさんの話にあった、神様と同等の存在だと思われる霊妖の仲間……もしかしたら霊妖そのものかもしれない。


「「その時が来たら連絡するよ。コンパニオンたちと仲良くね」って言われた……よな?」


「知らんよ」


「私達に聞かれても困ります」


 二十年以上前の出来事だったからだろう。その時受けた言葉に自信が無くなったのか、僕達に疑問を投げかける。

 生まれる前に起きた出来事で一度もモクリサさんから聞いたことが無いやり取り……この場にいる未成年全員が答えられる訳がないでしょ……


「レンを保護した理由は……当時の俺は転記について詳しくは知らなかったから。まさか赤ん坊で来るとは……」


「あんなカッコつけた誘い方したせにレンに気が付かないなんて……」


「いや、多分そいつ別世界人との区別できてないぞ。後から知ったが俺達コンパニオン組に別世界人がいたからな」


「は?」


「え?」


 そしてその小さい人を小馬鹿にするように……衝撃の事実を告白した。

 ……え……え……?……え、別世界人がいたの!? べ、え、僕同胞と戦ってたの!?


「いや、いやいやいや、え?」


「召喚者……の、娘だって言ってたな。三十年前のあれに巻き込まれた人の子を気が付かずに誘っていたってことだろ」


「うっそ……何でうっそ……」


「まぁ本人から聞いただけだからな」


「うっわその顔うざぁ」


 ニヤニヤしながら……特にハヤタさんを見ながらそう言う。が、直ぐに真顔に戻った。

 本当かどうかは分からないけど、もし本当なら……。


「……俺が、転記の存在を知った時に」


「ん」


「俺だけに言ったんだよ。「この事実を知って尚、貴方は任の為に幼い私を殺したいかしら?」って」


「……」


 その人の話し方再現しているのだろうか。どこか大袈裟にも思える様にそう言う。

 その話し方。三十年前の召喚者の娘なら、年齢的にもあの人だろう……多分、当時の召喚には教師も巻き込まれていて、その人がこの世界で……ということなのだろうか。


「……何と、答えたんですか……?」


「答えられなかった」


「え」


「いや、違うかな。すぐに殺す……その答えが出ていたのに言葉に出せなかったのが答えだろうな」


 声が少しだけ小さくなった。自虐か、後悔か、それとも安堵か。僕にはそれを判断することが無い。


「いや、この話は一旦終わろう。今はコンパニオンたちと仲良くやれ、って話のところだ」


「……気になるけど確かに続きだね。で、そのコンパニオンというのがあの奥も寝みぃさんと側近三人ですか」


「いや、その中だと実際に交流があった側近はドセルだけ。と、後は二人か」


「あ、トヨさんが戦ったあの二人かな?」


「……子供相手に全滅とかマジか……」


 トヨさんが生還していることで、その戦結果を察したのだろう。モクリサさんは隠すこともせず露骨に落胆の声を出した。

 子供対大人という分かりやすい構図で全員返り討ちにしたんだもん。多対一とか油断とかあったとはいえやっぱショックだよね。


「トヨ兄と言えばレン君」


「え、は、はい」


「トヨ兄に会ったら連絡してって言ったじゃん」


「いや、スマホ持ってない人に言われましても……」


 すると突然、ハヤタさんがトヨさんの連絡有無に関する追及を始めた。

 僕がトヨさんと会った時、既にハヤタさんスマホ奪われてたじゃん。仮に連絡できていたとしても意味なかったじゃん。


「というかそもそも……何で外出なんてしてたんですか?」


「……あ……あー……」


「……ん?」


 召喚者の監視をしていたはずだけども。何故ここから遠く離れた王城近くにまで移動をしていたのだろうか。そんな軽い気持ちで質問をしたのだが、ハヤタさんは何かを思い出したかのように言い淀んだ。


「あのね、僕の親……あ、育ての方の親にね? 僕と同じ女の子が妹になるって言われて……」


「ちょちょちょ、何言ってるのか全く分からないのですが」


 ボフルッ


「それでね、家に帰る途中でバッタリ偽レン君と会いましてね?」


 バツが悪そうに右手を頬に添えながら天を仰ぎ、そのまま体を仰け反らせてベッドに仰向けに寝転んだ。

 何を言っているんだ……? 僕と同じ女の子が妹になる……? 僕と同じって何? 元気? うるさい? 転記者?


「いやぁ……あはは……うん、パパに連絡するの忘れてたなって……」


「ひゃぅん! みゃ、にゃあでも、シュマホも取られてましたし……」


「それ以前に没してたから意味無いけどさ」


「無言で尻尾撫でるの止めさせないのですか? 会話に集中できていないですよ?」


 僕の疑問は意に介さず話を続けるハヤタさん。僕が体をハヤタさへと向き直した、と同時にルルが無言で僕の尻尾を撫でた。

 あの、だから言ってる意味が分かってないんだって。出産したの? 拾い子なの?


「あ、そうだ、スマホは一応ドセルさんから返してもらってます」


「あらヤダサンキュ。後でそのぷにぷにしてる顔に頬ずりさせて」


「何で貰っておいて更に要求するんですか?」


「じゃあ頬ずりする?」


「……無理して誘わなくても良いんですからね」


 僕はハヤタさんに近づき、スマホを虚空から取り出し手渡す。ハヤタさんは受け取るとすぐにスマホの画面を見つめた。


「うわっ通知来てるぅ。とりあえず明日にでも家に帰らないとなぁ」


「意外ですね……その……」


「良いよ気を使わなくて。置いて行ったというよりも、それこそマユカちゃんに後押しされたからね。騎士もいるからって」


「……マユカさんに……」


 ハヤタさんの気持ちを考えたら言及しても良いのかと躊躇ったが、すぐに気が付かれた。上体を起こし、ベッドから降り、僕の前に立つ。

 ハヤタさんが僕に向ける笑顔がいつもよりも……何と言えば良いのだろう……柔らかさというか、温かみというか、人情があまり感じられない……今の僕を、マユカさんというフィルターを外して見ているのかな……


 ビャミュリュッ


「にっ! あ、トヨさん」


 すると変な音を出しながら扉が開かれた。扉の奥には、通話を終えたのかスマホをポケットに仕舞いながら険しい表情でをしたトヨさんが立っていた。

 何かこの扉、最初に僕が入室した時よりも段々と異音へと変化していってない? 大丈夫これ外れない?


「……」


「トヨ兄?」


「サクに……レン君が部屋から出た後の事全部話した」


「おぁ、ありがとうございます。何も言わず出ていったので申し訳なかったんです」


 そして険しい表情を崩さぬまま報告をした。腕を組み、物々しい雰囲気がある。

 表情もそうだけど今の言い方……何か異常事態が起きたかのように思いつめた感じだったような……


「……帰ってくるな、と」


「え……」


「あ、別世界人を突然嫌いになったとかじゃないからな?」


 あ、良かった。先に端的に怖いこと言わないでよ。顔見知りに突然嫌われるのってかなり辛いんだから。

 僕の反応で誤解を与えたとすぐに気が付いたのか、トヨさんは両手を前に出しながらすぐに弁明をした。


「今、家にペップが来てるらしい」


「え……!?」


「優等高校にあんだけ被害与えたんだ。俺達のことが知れ渡って、捜索しててもおかしくはない」


「そ……いえば、あの二人が別世界人を狙った結果の校舎半壊でしたっけ」


 が、続く理由も信じ難いものだった。

 実際はトケジロク君……? 達が壊したのだけど、その上で僕達を探しているのか……?……あ、もしかしてトケジロク君達を探しているのかも。建造物損壊とかよりも、別世界人を炙り出すためにやったという確かな功績を持っているから可能性はある。


「それなら先程、惨劇が起こる前に」


「え」


「訪問されました。ペップの方々が、貴方達案内人組の所在を求めて」


 すると騎士が会話に介入してきた。そしてまたしても信じ難い言葉を放った。


「ハヤタ様も外出しており騎士だけで対応をしておりましたので、また後日訪問すると言い残し出ていきましたが」


「ペップに捕まったら……うわぁ……どうなるか分からないや」


「対犯罪者を主にしている仕事。完全に投獄する気で探してるじゃん」


 訪問……そしてすぐに引き返す……は、もう完全に僕達転記組を探しているじゃん。悪いことをしていないのに逃避行をしなくちゃいけないのか……


「正直私達としては皆様を差し出すのが至極当然ではありますが……陛下から味方しろという命を受けてしまっております故に……」


「ドンマイ」


「気にするな」


「それは逆に煽りというやつになりませんか?」


 騎士が苦虫を嚙み潰したよう顔をしながらそう言う。今すぐに手放したいと考えている騎士達。それも対立相手が別世界人を嫌悪しておらず、サポートしたいと考えているヴェンドロキ王妃とセルント王となれば猶更だろう。

 というか葛藤をしている人に対してドンマイって言いながら肩に手を置くのはあんまり良い行為ではないんじゃない? 何でトヨさんは無言でハヤタさんとは反対の肩に手を置いてんの?


「じゃあ……明日皆で僕の家に行く?」


「ハヤタさんの今の家に……」


「僕のお家に帰る……というか逃げる、という感じにはなるけど」


 今までの会話の内容を加味し、ハヤタさんが騎士に手を置いたまま提案をする。

 手離してあげたら?


「て訳だから。暫くレン君借りるね」


「ん! ぎっ! か!……てにしろ」


「どんだけレン君手放したくないんだよこの人は」


「イェイ」


「両手でピースしてる」















 次の日。

 十二月十七日。

 朝、六時二十分。


「うぉっ」


 この場にいないというのに、相も変わらずドバイさんの空間スキルが設置されていたことに驚きながら一夜を過ごした僕達は、この中庭擬きで一人の人物を出迎えた。ルルとハヤタさんはやはり一日ではまだ傷は完治しておらず、それぞれ僕とトヨさんにおんぶされている。


「このイケメンがサクさん……」


「こいつはサクのスキルで創られた、動かせるぬいぐるみみたいなもんだ」


「人を創り出せるの……!?」


 サクさんが生み出したイケメンだ。昨日のトヨさんとの電話で、早朝に偽王城にイケメンを向かわせると連絡したらしい。ルルは突然現れたイケメンに驚き、次にスキルで創られたと知って二度驚きながらそのイケメンの体を身を乗り出しながらペタペタと触った。

 確かに人間を再現できるとはいえ、見た目以外の完成度も気になるね。感触とかどんな感じなんだろ?

 するとイケメン……を操っているサクさんは、ルルに体を弄られたまま懐から紙を取り出し、僕達に見せた。


 今ここに来るまでに、ペップの人に質問された。優等高校に通ってた転記者全員の名前と一緒に。


「……これ、完全に僕たちお尋ね者だよね」


「だね。昨日の今日でここまでなるとは」


 一応「すみません、今急いでるんです」的な雰囲気を出しながら逃げてきた。


「無言でそれやったの凄いな」


「もう行動あるのみだね。留まるのはもう悪手だ」


「何で僕の手を握ったんですか? まさか握手ですか?」


 サクさんが何受から偽王城まで移動しただけでこうも分かりやすくペップの動きを把握できてしまう。よっぽど大胆に動いているということだろうか。

 ペップが行動を起こす前にと考えてこの時間に集まったのに……急がないとペップが偽王城を訪問してくる。


「予想通り、やっぱこのままで歩くのは危険だな」


 とりあえず変装用の洋服は沢山持ってきた。


 そして今日、サクさんに偽王城まで来てもらった理由。それが変装だ。普段の僕達からかけ離れた姿、多少不自然でも顔を隠せるものがあれば……そう考えた所、幸いにもサクさんが洋服を沢山所持していると連絡してくれたらしい。

 他人の、それも先輩の洋服を借りるというのは申し訳ないという気持ちが大きいけど……サクさんが気にしない、皆の役に立てるなら是非着飾ってる姿を見せてほしい、と強い熱量で話していたらしい。寧ろ断る方が無粋になるかな。


「ありがとう。じゃあ早速着替えるか」


 そんなトヨさんの言葉と共に、サクさんは虚空から、


 ドッ

 デッ

 カッ


「……ん?」


 バッ

 ヴッ

 バババババババッ


「……うっそでしょ……!」


 ハヤタさんよりも一回り小さく五段重ねになっているチェストを五つ、ハヤタさんよりも一回り大きなクローゼットを七つ取り出した。


「……多すぎる」


「四人分って俺伝えたんだが」


 選択肢は多い方が良い。


「多すぎる!」


「時間がねぇって時に度を越えた気遣いしなくていい!」


 正直、購入するとかならまだしも一時凌ぎのために借りるだけだからそこまで拘る気は無いんだけども……選択肢を増やされてもちょっと困るな。

 僕はサクさんが持ってきてくれた衣服に目を向けた。そしてすぐに気が付いた。


「気の所為ならごめんなさい。その、大雑把な言い方ですが、可愛らしい洋服ばかりな気がしますが……」


「確かに。あ、無駄に肌を露出させてる服もある」


「お手軽半裸セットだぁ!」


「お手軽半裸セットって言い方止めろ!」


 こう、なんだろう、外を歩くような一般的な洋服というよりも……フリルとかリボン、後はモデルさんが着るような、テレビや雑誌の奥の人しか着ないような衣装と呼ぶ方が適していそうなものばかりだ。贅沢はいけない。でもこうもジャンルが偏っているというのは何か強い意図を感じるというか……


 たまにイケメンに着せて楽しんでた。


 途轍もなく曲がりくねった意図を持っていたようだ。


「この人……もしかして変態?」


「珍しいタイプの。性癖に対する感性が俺たちがいた世界の人たちとかなり近い」


「あの、私達の世界でもイケメンを創り出して女装させる人は割と稀な気が……」


「……まぁ、女装という感覚とはちょっと違うんだろうな。異性装なんて言葉は無いから」


 だからこの人快諾してくれたのか……ハヤタさんとトヨさんに可愛い衣装を着せるために……優しい人だなって思ったのに私利私欲のための行動だったのか……


「イケメンに……ん。サクさんはこれ着てる?」


 イエス


 と


 み


 せかけて


 ノー


「五枚も使って言う程の情報量じゃねぇよ!」


「というかノーの一枚で良かったのでは!?」


 時間と紙と労力の無駄でしかない会話をした。

 何故に一枚一枚入れ替える様に出したんだよ。見せかける意味絶対無いでしょ。というか「み」と「せかけて」を分割したのはなんでだよ。というか着てないのかよ着せてただけかよ。可愛い服で着飾ってるかと思ったじゃん。


「まぁとりあえず……少し吟味を……ちょっとルルにもアドバイスもらいたいかな」


「うへへやったぁ」


「ほえー。レン君の女装は凄く気になるなぁ」


「ハヤタも着るんだぞ」


「……え……」


「え、じゃねぇよ。俺達全員優等高校の生徒だったんだぞ」


 さぁいざ着替えようか、と思っていた矢先に。何故かハヤタさんから素っ頓狂な声が響いた。まるで自分も変装することを知らなかったかのような。


「ルルはまだしもハヤタさんが着ないという選択をするのは些かどころかかなり危険ですね」

 

「ち、よ、いやいやいや、びゃくやえんりゃしておくよ」


「動揺のし過ぎで噛みまくってる。いいから着ろ」


「ヤダ着ない!」


 見たことが無い、全力で否定を行うハヤタさんだ。トヨさんの背中でジタバタと……全身やけどをしているのに大きく、振り落ちてやるとでも言うかのように暴れている。両腕を、それぞれ三本に増やすほどの速さで振り回している。

 何でこの人おぶられてるの? 元気過ぎない? 上半身だけが元気なの? 下半身に元気がないだけなの?


「ほら、ハヤタに似合う服もたーくさんあるぞー」


「ヤダヤダヤダヤダヤダダっ!」


「め……ず、らしいですね。こんなに駄々をこねるハヤタさんは」


 違う。恐らく、本当に振り落ちて……逃げ出してやると考えているのだろう。可愛らしい洋服……異性装、女装というものから逃げようとしているのだろう、トヨさんから身を乗り出している。

 勝手な想像ではあるけど、ハヤタさんなら喜びながら着飾る映像が簡単に浮かび上がるんだけどなぁ。


「えなんで、何で逆にそんな抵抗無いの!?」


「ルルが喜ぶから」


「何で喜ぶの! 嫌がってよ!」


「感情に疑問持つな」


「あの、漫画だとこういう展開で嫌がる女子って相当稀だと思います。九割ぐらいの確率で喜んで服を貸す側です」

 

 たっかいな。創作物における異正装ってそんな在り来たりな展開ばっかりだったんだ。何か可哀想。


「変装は必要だって結論になっただろ」


「僕だけ男装するからいいの!」


「男の男装はただの正装だろ」


 本当に女装が嫌なのだろう、意味不明なことも言い始めた。それに対し、今にも自分の背中から転げ落ちそうになっているというのに、冷静にハヤタさんを掴んでいるトヨさん。静と動、という正反対な動き。そして静のトヨさんが動のハヤタさんを制している。


「ヤダ絶対着ない! こっちでもそんなフリカワスカートとかやだ!」


「じゃあ俺達は向こうの玉座? で着替えてくるから。二人はそっちでイチャ着替えして待っててくれ」


「イチャ着替えって何ですか?」


 普通の着替えじゃダメだったのかな? 「イチャ」も「着替え」も理解できるけど合体させること普通は無いと思うんだけど。

 いつの間にか体勢が変わったのだろう、トヨさんはハヤタさんの両脚を脇に抱え、頭をガラスの床に引きずらせていた。


「みゃあぁああああぁぁあっ! たす、レン君助けてっ!」


「すみません。今からルルとイチャ着替えするので、助けるのはその後にします」


「数秒前にイチャ着替えに疑問持ってたくせに何でもう受け入れてんの! というかその頃にはもう手遅れっ!」


 僕とルルは目の前に広がるクローゼットに目を向けた。クローゼットを開くと、


「……マネキン……?」


 茶色くて小さなマネキンが沢山置いてあった。一体一体に衣装が着せられてはいるが、全て小さく、この場にいる誰にも着ることが出来ないだろう。


「あ、そっか……しょうがないか……サク。ハヤタの方に着せる服はもう決めてあるから、レン君とルルちゃんに洋服の取り出し方教えてあげて」


 マネキンを見て放心していた僕を見かねてか、じたばた暴れるハヤタさんを押さえつけながらトヨさんが指示を出した。クローゼットからマネキンを二つ取り出し、玉座のある部屋へと歩いていった。

 ハヤタさん……何度もガラスに頭をガンガンぶつけてるけど大丈夫かな? たん瘤できそうだな。

 サクさんはその光景に見向きをせず、僕達の方へと歩きそして紙を取り出した。


 洋服はクローゼットから出してから地面に放り投げる。と、マネキンが洋服と共に大きくなる。


「大きくなる……て、凄いシステム……!」


「というか説明専用の紙も用意してたんですね……」


 僕は、洋服ならまだしも収納方法に拘りなんて全くないから、そんな方法で持ち歩けるなんて知らなかったな。


 服を仕舞う時は、マネキンに洋服を着せた後に鼻を三回素早く叩けば小さくなる。


「素早く叩く……?」


「便利」


 ルルはいくつも並ぶマネキン一つ一つに目を向けながら感嘆の声を短く上げた。

 便利……なのかな……? 前の世界ならまだしも、こっちの世界だと持ち歩きなんてそこまで苦じゃないとは思うんだけど。見た目が良いとか気分が上がるとか、そういう気持ち的な問題なのかな?


「異世界感があったりなかったりして困るなこのマネキンが身に纏ってるの」


「前も言ってたよね。正直僕はピンとこないけど」


「ん……それこそ、昨日着てた騎士の制服は割と異世界だった」


「んー。確かに向こうの世界では見ない雰囲気だったね」


 マネキンから目を逸らさず、一つ一つじっくり眺めながら呟くルル。五つのチェストと七つのクローゼットに囲まれながら真剣に向き合っているルル。恐らく二度と見ることのできない光景だろう。写真撮っておこう。


「写真撮るね」


「何故に?」


 カシャッ


「……エッチな服もある」


「エッチ?……何でこれ、ピッタリお臍の位置だけ穴が開いてるの?」


「あ、これは可愛くて良いかも」


「ん」


 そう言いながらルルが掌に載せたマネキンが着ている洋服。

 真っ黒で小さなリボンとフリルが所々に見えるトップスはオフショルダーで肌にぴっちり張り付きそうな黒いインナーの上部が見えベルスリーブの様に広がり白いフリルが付いている袖口とブイの形で大きく開かれている背中が特徴的、幾重にもフリルが重なっておりドレスの様に横に大きく広がっている黒いミニスカートに、片目のみを塞いでいる眼帯のような形をした白いレースのアイマスク、そして何故か背中に大きなピンク色のリボンが付いている。


「これで色違いおそろこーでしよう」


 それは僕に差し出してもう一つ。トップスとインナーとスカートは白く、袖口とアイマスクは黒く、そしてピンクのリボンを身に纏っているマネキンを手にした。


「ルルに成れるなら着る」


「な……成れはしないよ……?」


 良いよ良いよ!


 それは


 ゴ


 シック


 でろりー


 たな


 ファッションなの


 で


 ダブルミニ


 ナニ


 人なら確実


 に似合うから着てくれ


 て


 凄い


 心


 壊れて


 破壊しつくす


 レベルで


 完璧に


 完璧だ


 最高です


 最低だね


 魂


 の


 暴力反対


 変態


 あ


 あ、ああ


 あああ、


 あ


 あとこのぬいぐるみも持って!


 ぴったぴた


 り


 合うぜっ!


 対


「……」


「……」


 全く声が出てないのにうっるさぁ……












 七時五分。


 ガチャッ


 ハヤタさんとトヨさんは少し時間がかかったらしく、僕達が着替えを終わってから三十分後に玉座の部屋の扉が開かれた。

 ハヤタさんはサイドテールの蒼髪のウィッグを被っている。衣装は足元まで覆い隠す白く細長い着物、僕と同じオフショルダーなのか、肩を露出させている。そこから見える白い包帯が何故かファッションの一つにも見えるほど自然に溶け込んでいる。そして袖は長く萌え袖となっており、腰に赤いリボンを付けている。また着物には緑色の羽……?花……?……のように見える不思議な模様が何種類も点在している。どこか洋、という印象がある。

 トヨさんは前髪は右目のみを隠すように伸ばしている翠髪のウィッグを被っている。よく見ると後ろ髪はハートの形で結わいでおり、そこに大きな赤いリボンを付けている。衣装は紫色の着物で下半身は太腿あたりまでしか伸びていない短いスカート。着物は全体的に白い線が何本も存在しており、地面に触れるほどの大きさの袂が目立つ。また脚は黒いストッキングで覆われており素肌を隠している。そしてハヤタさんとは違い青色の桜のような模様の一種類が点在している。和、という印象が伺える。

 扉から出てきた二人は僕達とは違いおそろこーでではなかった。強いて共通点を挙げるとするならば、着物らしき装いということと、赤いリボンを付けていることと、ヒールの様に身長を伸ばすというズルをした草履を履いていることと、お臍がピンポイントで露出している……意外と共通点沢山あったな。ある意味ではおそろこーでなのか……ということと、


「ん、ネイルにまつ毛に口紅に……メイクしまくってる」


「私物だ。持ってきてもらった」


「トヨ先輩の私物!?」


 そんなに驚くことなの……?


 メイクアップしていることだ。

 ハヤタさんの目元は水色のアイシャドウが塗られている。肌は白っぽく衣装と合わせて冷たい雰囲気を感じ、ほんのりピンク色になっている頬が少し目立つ。

 トヨさんの目元には赤いアイシャドウが塗られている。肌は少し明るい色になっており、薄い赤色をした唇とよく似合う。よく見ると眉毛が少し増毛しており、まつ毛が少し伸びている。また紫色のネイルをしている。

 別人……は言い過ぎかもしれないが、当初の目的であったバレないようにするという意味では非常に有効だろう。実際、知り合い程度であればぱっと見では分からないだろう。


「ハヤタが暴れなかったらネイルにまつ毛に口紅にもしたんだけどな。とにかくレン君にも……」


「……」


「……」


 コスメが入っているだろう小さなカバンのようにも見えるメッシュポーチを僕に見せながらそう言った。のだが、何故か僕の顔を見ながら固まった。

 というかハヤタさんメイク中に暴れたの……? 暴れたのに顔にファンデーションとアイシャドウを施せたの……? 凄すぎない? 慣れてるの? 慣れてるにしたって危険じゃない?


「ハヤタでさえナチュラルメイクだったのにそれすら不要とか頭おかしいだろ……!」


「何で悔しがっているんですか? してくださいよ僕にもメイクを」


 すっぴんでもどちゃどちゃな可愛さを持つ男は貴重。


「どちゃどちゃ……?」


「この人本当にサクさんですか?」


 僕が知ってるサクさんと全く違う、一言一句に力強さを感じるその文章。

 というかルルはまだしも、何で僕にメイクしないの? バレないようにするために変装をしたはずなんだけど?


「あ、レン君はスカート初めてかもだからミニスカに抵抗あるなら僕の着物あげちゃうからね!」


「脱ぐな。それ脱いだら裸になるんだぞ。下着丸出しの方がマシとかいう考え持つな」


「水着と思えばこんなものでも多少は気が楽に……」


「なってたまるか。フリルレースリボン全部盛りの水着とかそれはそれでだろ」


「あ、ルルが喜ぶからスカートに対して特に抵抗は……」


「あってくれ。自分の意志もうちょい持って」


 確かに今僕が穿いているのは膝のすぐ上まで見えるほどの短さだ。横に大きいからミニなのかという疑問はあるけれども……スカートの内側にはフリルがあるが、お臍から下のあたりは筒抜けになっているので、やはりミニとは少し違う気がする。

 スカート……そういえば……


「あ、メイド服はスカートですか?」


「え」


「ん?」


 あれも一応スカートではある。もしあれがスカートなのであれば、別に初めてでもないかな。別に初めてだとしても抵抗は然程ないのだけれども。


「メイドレン君……」


「それ着用済ならもう何でもイケるな」


 神


「メイド服ってやっぱりすごい……」


「違うよ? 多分思ってる効果とは違うよ?」


 メイド服の名前を口にしただけで狼狽える高校三年生組。やはりメイド服で国を創れるというルルの言葉には間違いはなかったのだ。


「ゴスロリ王子服もあったのに何でこれなんだよもぉ……」


 ガチャ


「みっ!」


 諦め悪く虚しく嘆きながら俯いているハヤタさんだったが、突然の音にハヤタさんが珍しく驚きの声を上げる。


「奥も寝みぃさん!?」


「イントネーションが凄い気になるけど、オクモネミよ」


 その扉……玉座があった部屋からオクモネミさんが出てきた。十日程前に僕とルル、そして……マユカさんの三人で戦った女性。心なしかその時よりも少し元気が無いようにも見える。瞳もどこか虚ろだ。

 何か久しぶりに声と顔を見た気がする。


「何しに来たんですか?」


「別に。ただの暇潰しよ」


「ちょっと騎士ー。犯罪者の野放しを暇潰しとかいう理由で認めないでー!」


「別に良いだろ黙ってろー!」


「何でだよ」


 果たしてこの場に現れて良い人物何だろうかのだろうか……と、同じことを思ったのだろうハヤタさんが扉に向かって大声で叫んだ。ら、直ぐに無責任な反論の言葉が返ってきた。

 誰だ今叫んだ人は。良くないから叫んでると思うんだけども。別世界人相手だと法律は無視されるのか?


「安心なさいな。手を出すつもりはないから」


「どの口が……貴女を信じる根拠は?」


「ここにいることが何よりの根拠、だ」


「え……」


 続く僕の質問に、別の人物が解答をした。


「っ……モクリサさん……」


「……さん……か……」


 モクリサさんだ。開けっ放しになっていた玉座へ続く扉を潜り乍らこの中庭擬きへ入室してきた。ルルとハヤタさん同様、大怪我を負ったはずなのに堂々と僕達の前へ歩を進め佇んだ。


「何で動けるの……?」


「頑張ってる」


「頑張ってる!?」


「根性でハキハキと喋ってる……よく僕達こんな人に勝てたねー」


「おぶられてるとはいえ、ピンピンしてるお前らもお前らだろ。まぁ、どっちにしろ、俺は昨日みたいに戦えないから安心しろ」


 モクリサさんは、両腕を前で組みながらさも当たり前のように言い放つ。ぎこちなさを全く感じられない背筋もピンと伸ばしている。

 ルルもハヤタさんもモクリサさんも。全員何でこんなに元気に会話してるんだろうか……割と重傷だったはずなんだけど……いや、まぁ、数時間前に重傷を負っていた僕が言えたことではないけどもさ……


「召喚者たちを襲いに来た、って昨日話にあったじゃん?」


「あ、は、はい」


 モクリサさんは一言……自分の名前を小さく呟いた後、僕達に向き直った。


「騎士全員を戦意喪失させた。のに、私を回収しなかった」


「あ……!」


「……不要と判断されたってこと」


 続くように、目を伏せながらオクモネミさんがボソリと呟いた。

 そっか、そういうことか。拘束され逃げる機会を失った仲間を助けることのできる場面、だというのに見捨てられたのか。時間が無かったのか、探しても見つからなかったのかという可能性もあるけれども。


「奥さん……」


「可哀想に奥さん……」


「誰が奥さんよ。わたしゃ永遠の独身よ」


「恋人いない歴イコール寿命を勝手に宣言しないでくれ」


 目はまだ在らぬ方向を見ているが、僕達の問答に冗談交じりの返答をするほどの余裕はあるようだ。

 ……吹っ切れたのかな? 楽しそうに会話しているように見えるんだけでも……


「まぁ兎に角……別世界人を憎む気持ちは、確かにまだあるわ」


「……戦意が残っているかどうかはもう別だな」


「……」


 別世界人を憎む気持ちはまだある……自分自身もその別世界人の血が流れているはずなのに……やっぱり根底から、生まれ育った環境がそういう想いを作り出したのだろうか。差別を当たり前だという環境で育ったから、僕達別世界人を目の前にしても疑問を持たずに宣言できるんだ……


「……オクモネミさんは優秀だったから……やっぱり時間が無かったのかな……?」


「下手な慰めは不要。私が望んでないから」


「そんなことより」


「重要な事をそんなことで流さないでよ」


 そんな僕達の心配をよそに、モクリサさんが半ば強引に話題を変えた。

 仲間に見捨てられた、ってかなり精神的に辛くない? 普通じゃなかなか味わえないと思うんだけども。


「ハヤタ君」


「ん何」


「何、じゃねぇ。堂々としろよ」


「……」


 そして話題はハヤタさんへと移った。そして近しい人間に厳しく指導するかのようにモクリサさんがそう言った。昨日対峙した二人だ。そこから仲良くなれたのだろう、距離が近づいているように感じられる。


「何だその目は。笑われるとでも思ったのか?」


「別に」


「俺は君たちの世界の感性なんて全く理解できないからハッキリ言う。ハヤタ君が浮きまくって気味が悪い」


「気味が悪いだと! 貴様よくその目玉を刳り貫いて空いて飽くほどかっぽ見やがれ! これ以上の逸材パーフェクト強――


「うっせうっせうっせ」


 僕達と違い、異性装への抵抗が無い……というかそもそも異性装という言葉が存在しない故にか、モクリサさんは躊躇いも無くハヤタさんにズバズバ言い放つ。それを受けてか、トヨさんが突然モクリサさんの目の前に踊り出て、自分が背負う人物の魅力を大声で語り始めた。


「……下着みたいな服着てるレンを見た時のモクリサさんと同じ反応だ……」


「ルルちゃんが何かした時のレン君と同じとも言えるね」


「一人だけ反応範囲が異常に広いわね」


 ……そうかな……? 僕だったら初速も話す速さももっと上な気がするんだけど。


「……ハヤタ君はいったいどんな服を着ているのかしら……」


「あ、ちょっと待っててください」


 と、そこで漸く、ハヤタさんの衣装がいつもと違うのだと気が付いたオクモネミさん。小さく僕に問いかけた。

 あ、そうだった。オクモネミさんは目が不自由でレイトしか見えないんだった。

 僕はハヤタさんに近づき、青白いレイトを出した。それをハヤタさんを丸く包むように、球体の形で出した後、ゆっくりと縮めた。


「んぁっ……!」


「ハヤタさんの衣装に沿うように、僕のレイトを重ねました」


「……す、すごぉ……」


 色や細かい造形は分からないかもしれないけれども、これなら大体の見た目は把握できるはずだ。

 それにしても……青白くて半透明な光で創られた衣装を着ているハヤタさん……ちょっと面白いなこの光景……


「なるほどこういう……まぁ、別世界人だし、こういうのに着慣れてなかったら恥ずかしくても仕方ないか」


「恥ずかしがるのもまた一興だろうが」


「前言撤回。私もこの人達とは根本的に相容れないわ」


「……暇潰しが済んだならもういい? 割と時間ギリギリだと思うよ?」

「前世は!」

「何じゃろな選手けーん」

「テンションは合わせた方が良いと思います」

「俺はナキハだ! スケジュールがカツカツなのか豊作コンビとすぐに交代になったぞ!」

「トヨサクの事を豊作って呼ばないでください!」

「カオルよ。で、今回はその豊作コンビの前世ね」

「本編どころか作者ですら一度も呼んだことのない造語止めてください」

「トヨ君は今とほとんど変わらず、真面目とおふざけの比率がハヤタと正反対だったらしい」

「キューブに来るきっかけも同じだけど……当時は大人を酷く嫌っているという性格だったみたいね」

「意外ですね。今のトヨさんからはそんな雰囲気どころか面影も全く無いのに」

「転記直後は嫌いな大人に育ててもらわないといけないから却下になったみたいね」

「頑張って描写してよ」

「代わりに女装趣味に目覚めさせといたみたい」

「代わりにならないでしょそれ……!?」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……え、あの、サクさんは……?」

「全てにおいて変更無し!」

「前世が今世!?」

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