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あいに溢るる  作者: 手石
異常な依存と異状に委譲しぬ意地
101/107

1.83.5 VSレンの育ての親

ルルちゃん優秀すぎるなぁ……ヒロイン補正強くしすぎたかな?

「いちっ」


「何で――


 ドッ


 そして一枚、モクリサの背中に瓦礫を押し付けた。赤く、血で塗られた瓦礫を。


 ガゴゴガゲゴッ


「おぐっ!」


 そして次に無数の瓦礫が現れ、モクリサに引き寄せられるかのように覆い、やがてモクリサを閉じ込めた。


「ぜろっ!」


 ルルは爆風に備えるかのように、両腕を顔の前でクロスしながら、最後の掛け声を大きく叫んだ。瞬間、


「僕の血が付いた……特別製の瓦礫だよ!」










 ガグロゴゴッドラッォ











「くふぅ……!」


 耳を破壊せんとばかりの暴力的な爆発音と、瓦礫程度では防ぎきれなかったのか、モクリサを包んでいる瓦礫の隙間から爆風が溢れ、ルルを大きく吹き飛ばした。宙に放り出された後、背中でハヤタを捕らえている木の幹に激突した。


「あっはは……すっごいね。今のは自分自身を鏡にして飛ばすってやつかな? でんぎゃっ」


「ぐむっ」


「んゆ?」


 ルルの突飛な行動を見て感嘆な声を上げるハヤタ。そしてすぐ、ハヤタを縛る木の幹が消え、真っすぐ地面へと落ちた。それと同時にルルが四つん這いになり、その場で蹲った。それと同時に、遅れてやってきた砂埃が二人を襲った。


「だ、大丈夫?」


「ノー、です……感じたことのない不快感と体内をかき混ぜられる感覚等が巡ってきて」


「……全身をレイトに変換してそのまま移動するスキル……確かに、慣れてないと心身共に負担は大きそうだね」


 ハヤタはルルに近づき、心配の声と共に左腕で口元を覆いながらルルの背中を摩った。そしてルルが先程見せた奇怪な行動を分析する。


「……」


 砂埃の発生源へと歩みを進めた。その直後、


 ブォオン


「にぇれれ!」


「っ!」


 二人を包んでいた砂埃が、まるで弾かれるかのように勢い良く晴れた。その勢いに吹き飛ばされまいと、ハヤタは両腕を顔の前に翳しその場で歯を食いしばりながら踏ん張り、ルルはゴロゴロと転がっていった。


「う……そ……!」


「おかしいなぁ。やったか、は言ってないんだけど」


 そしてそれを弾き飛ばした張本人、全身から血は吹き出し、ふらつきながらも二本の足で二人の前に立ちはだかった。ルルは四つん這いのまま、ハヤタは両腕を下に垂らしたまま後退し、ルルの前で立ち止まる。


「あの、バカみたいな爆発を、耐えた……!」


「頭かち割れるぐらいの威力はあるはずなんだけどっ!」


「そんなもんを自分の血液ぶっかけるだけで出せるとか……相当イカれてるぞ……割と立つのもやっとなんだかんな……!」


 その言葉の通り、モクリサは両手を膝に置き肩を大きく動かしている。先程までの余裕綽々と言った表情は完全に消え、息は途切れ途切れで瞳の奥に焦りの表情を見せている。


「それとは別になるほどな……よく分かったよ。何でレンがお前に執着しているのか」


「っ!」


「お。今更か今更か」


 そして右手を首に添え、四つん這いになっているルルへ視線を向けた。ハヤタはそのモクリサの視線を追うように、自身の股の下を覗き込み同じくルルへと視線を向ける。


「咄嗟の応用力とそれを実現させる想像力。この世界においては確かに優秀な人材だな」


「……」


「何だその顔は。あぁ、まずはごめんなさい、か。お前の評価を二段階も三段階も下に見てたことを」


「……いや、ちゃんと褒められる人だったんだな……って」


 そして珍しく、褒めの言葉を羅列させた。ほんの数分前までルルを格下判定し、取るに足らない相手だと驕っていた人物の口から出てきたからだろう。当の褒められた本人は寧ろ引いている。ハヤタもルルの言葉にうんうんと頷いている。素直に褒めたのに蔑ろにされたからか、モクリサは一瞬怪訝そうな顔をした。


「……鍛え続ければ、数年後には強者に……何ならいつかはレンをも超える人間にさえなれる程の成長性は有しているな」


「は、はぁ……?」


「あのさ。召喚者かつ新人というデバフ付きの君を褒めたんだよ。何だそんな他人事みたいな反応」


「この状況でありがとうもなんか違うでしょ」


「あっそ……まぁ若い芽を潰すのは嫌いだが、危険因子には変わりない」


 そしてモクリサは未だ膝の上に置かれていた左手を上げ、上体を逸らすように顔を上げた。そして先程珍しく褒めた人物に再び視線を向け、今度は哀れみの目を向けた。


「それに……痛みに耐えられる心は持っていても、耐えられる体は持っていなかったみたいだな」


「っ」


「ま、別世界人のくせに正常保ててるだけで割と凄いけどな」


 そして未だ立ち上がれずに這い蹲っている哀れで脆い有能者に、半笑いで語りかけた。


「ありがとね。後は僕に任せて」


「また選手交代か。というか、根の拘束が解かれたとはいえ罪詰みの状態でどう俺に勝つと?」


 ハヤタは小さく跳ねながらモクリサに近づく。罪詰みの金属同士が擦れる音がカチャカチャと響かせている。モクリサは未だふらつきながらハヤタの顔を見据え、


「いやぁ。別にスキル封じられたわけじゃないし。爆弾放り投げるだけで良いからねぇ」


 そう言いながら、ハヤタは自身の顔の周りにオレンジ色の塊を八つほど作り出した。言葉の通り、今から放り投げる用の爆弾なのだろう。


「余裕だな。なら俺もスキルで……じゃあ、特別に鏡のみで応戦してやるよ。戦いやすいように地面内の根も消してあげよう」


「うわぁ優しいねぇ。僕の血が怖くないのかな?」


「怖いからこその判断だ。うっかり俺の木に引火なんてしたら大惨事だからな」


「ふぅん」


 ブゥンッ


 モクリサの応対に、まるで興味がないかのように生半可な返事をするハヤタ。その直後、ハヤタは両腕を大きく振る。その動作と同時に、その塊がモクリサへと真っ直ぐ飛んで行った。


 ヒャン

 キャイ


 モクリサはその塊を防ぐためか、自身の目の前に小さな鏡を八個出した。空中でバラバラの位置に固定され、表面をハヤタへと向けている。すると、ハヤタは右の掌を真下に向けた。直後、


 ギュッ


「はっ?」


 ボギャ

 ベミュッ

 ジェリュァッ


 真下に向けて塊が発射された。が、数センチメートルの落下の後、その塊が消え、それと同時にモクリサに向け飛んでいた塊の一つが、突然現れた塊と接触し爆発をした。耳をふさぐほどの爆音ではなく、威力はさほど大きく葉はなさそうな爆発。しかし、その爆風は他の塊にも引火し、連鎖するように連続で爆発が起きた。中規模の爆発が幾つも重なり、疑似的に大規模な爆発を起こし灰色の砂埃が襲い掛かるように広がった。


「ズルすれば、そんな大胆なブラフもし放題ってかっ!」


 モクリサは砂埃で包まれる前に、大きく後ろに飛び退いた。砂埃の勢いは数メートルの進行の後すぐに規模の拡大を停止する。


 ザッ


「なんっ!」


 ゴンッ


「で、そこにいんだよっ!」


 しかし、大きく距離を取ったはずのモクリサの右後ろに、ハヤタが現れた。右脚を上げながら回転し、踵をモクリサの後頭部目掛けて振り抜いた。


「ほぇあ。流石に破片は散らないか」


 ザッ

 ビッ


「んおっ!」


 ガンッ


 背中をモクリサに向けたまま左脚で踏み込み小さくジャンプ、そして両足で着地と同時にモクリサの左前方に回り込み、両腕をモクリサの腰目掛けて右から左へと薙ぎ払うように殴打。


「っ!」


 ギャゥッ


 そのまま体勢を変えず、右足を下から上へと、モクリサの顎目掛けて蹴り上げながら、宙返りをするように縦に一回転。


 ズッ

 スンッ


「んぅぉ!?」


 ゴガガッ


 そして逆立ちをし、T字になるように足を横に大きく伸ばした直後、モクリサの背後にワープするかのように瞬間移動をした。そしてその場で一回転をし、右脚と左脚を一発ずつモクリサの顔に蹴りを放った。しかしその全てを、鏡で防がれてしまう。


「反射神経化け物かよ……しかも視線の外も……」


「はっ。お得意の余裕綽々で上からな笑みが消えてんぞ」


「あらやだ恥ずかしいなぁ」


 一撃ぐらいは喰らってくれると考えていたのだろう。両手で大きくジャンプをしてモクリサから距離を取りながら、ノールックかつ涼しい顔で不意打ちを止められたことに珍しく眉を顰め口角を下げた。しかしすぐに自分のキャラを思い出したのか、モクリサの嘲るような言葉をへらへらと受け流す。体を背後へと向けながら、その表情の変化をニタニタと眺めていたモクリサだったが、今度はそのモクリサの表情が曇った。


「……煽ってみたはいいが、意外にまずいな。反撃する猶予もくれないとか、両手塞がれてる男子高校生の身のこなしじゃねぇだろ……」


「あ、お褒めの言葉? やった光栄光栄」


「うわ……」


 小さく、自分の思考を固めるかのように呟くモクリサ。しかし、ハヤタはその小声にも反応を示してしまった。褒めた事を後悔しているのだろう、ハヤタの反応に嫌悪の表情を見せる。対するハヤタは、お得意の余裕綽々な表情も戻ってきている。


「……」


「んっ!?」


 そして無音でため息を吐き、視線も全身もハヤタに向けたまま、左手だけを、左後方に伏しているルルに向けた。


 ギャリィ


「まっ!?」


 そしてその何も持たぬ掌を思いっきり握った。と同時に、その掌から鏡の破片が飛び散った。その行動の真意に気が付いたのか、ハヤタはルルへと駆け出した。


 ヒュッ


「ぇ……っ!?」


 そして鏡の破片は地面には落ちず、その鋭利な刃先をルルへと向け、風を切りながら飛んでいった。ルルは体を動かせないのか、身動ぐばかりで鏡から逃れられそうにもない。そんなルルを庇うためだろう、ハヤタの体はその場から消えた。


 ザンッ

 ゴュッ

 ジュッ


「どぁ!?」


「んなっ! ルルちゃん!」


 しかし、瞬間移動を行ったハヤタの体は、ルルの肉壁になる事はなかった。ルルの一メートル右側に、ハヤタの体が現れた。鏡の破片は何にも止められることなく、ルルの体内へ次々とめり込んでいった。


「流石に体内に異物が居座るなんて経験、無いだろ?」


「大丈夫っ!?」


「ど……です……大丈夫、です……」


「……何で大丈夫なんだよ……?」


 ハヤタはルルに近づき手を差し出した。口に出した言葉に対して意外と深手だったのか、ルルはハヤタとは目を合わせず、小さく悶えている。鏡によって負わされた傷と合わさり、ルルのすぐ下の地面を赤く塗りたくる。


「っ……追い討ちかよ」


「追い討ちだよ。ぬくぬく育ったド素人に本物の戦場ってもんを教えただけだ」


「でもその目やばいよぉ。私怨混じってるぅ」


 ハヤタはルルとモクリサの間に入り、ルルを守るように左手を広げモクリサを睨む。いつもの調子でおちゃらけているように見えるが、目は笑っておらず怒りの感情を全面に現している。ルルは静かに、ハヤタの右足に右手の甲を添えた。


「なるほどな。ズルは咄嗟かつ遠い距離の移動には不向き、か」


「っ……休んでて欲しかったけど……ごめんね、自衛は頑張ってくれる?」


「あ、がん、あ、はい」


 モクリサは自身の考察を、ハヤタに態と聞かせるように大きな声で口にした。その言葉をガン無視し、ハヤタはモクリサを睨みながらルルへ声をかけた。


 ビョグンッ


「ひぬぁっ!?」


「っ!?」


 ヒュタタタッ

 ピャッ


 そんな二人のやり取りを満面の笑みで見つめていたモクリサ。すると突然それと同時に、ルルが何かに引っ張られるかのように大きく上昇した。その勢いと共に、ルルの全身から血液が滴り落ち、ハヤタの頬にも一滴掠めていく。


「ある程度の熟練度と集中力とレイト量は必要だけど、こ――


 ザンッ


「っ!」


「僕にだけ集中してよ」


「ねっつれつー」


 宙に浮き、ぐるぐると振り回されているルル。が、ハヤタはルルを助けには行かず、両手を組むように合わせながらモクリサの右側に現れ、側頭部目掛けて肘打ちを放った。それをモップの柄で受け止めた。勢いはあったはずなのに、モップもモクリサも微動だにせず、衝撃を全く感じられない。その光景に、一瞬眉を顰めながらも、低い声を出すハヤタ。それとは対称的に、モクリサはまるでハヤタのように浮いたような声で返答をした。


「残念だけど俺は目移りしやすい性格なんでね、飲めない提案だな」


 自身が有利な立場になったことを喜んでいるのか、はたまた他の理由か、少し浮ついた喋り方をしている。立場が入れ替わったかのように、二人のテンションが正反対となっている。


 グッ


 そしてハヤタの肘を上へと弾き飛ばし、小さく飛び退いた。しかしその着地の瞬間、


「ぎっ!」


「っ」


 ズッ


 まるで何かに躓いたかのようにバランスを崩し、後ろへと倒れていく。その隙を見逃さずハヤタは踏み込み、上に弾かれた拳をそのまま振り下ろしながら、再びモクリサの懐に飛び込んだ。


「隙っ!」


 カッ


「んにぇ!?」


 が、その拳は届くことはなかった。いや、届く前にハヤタが突然バランスを崩しながら躓き、目を覆ったのだ。


「はぁ……相手が見せた隙を、偶発的か意図的かを見抜けない、か。まぁ、未熟者なら気が付かなくても仕方ないか」


「何で……ハヤ……!?」


 ハヤタが見せたその一瞬の怯みに反応するかのように、ハヤタの足元から太い根が膝まで伸び絡みつき、転倒させた。モクリサは顔色を変えず、体は地面には倒れずに傾いたまま静止した。寧ろ黯然銷魂といった表情になっている。いつの間にか地面に仰向けで倒れこんでいるルルも、何が起きたのか分からず啞然としている。


「小さな鏡を何十枚も出し空中で静止させ、そしてその鏡での反射を繰り返し、外の光を君の目の中まで運んだ」


「い!?」


 自身の瞳をトントンと指差しながら説明を行うモクリサ。その顔のすぐ左に少し傾いた鏡が空に浮いている。そしてそこに続くように、扉へと向かって鏡が数メートルおきに空に置かれている。そして一つだけ、数センチメートルだけ開かれている扉へと、鏡が差し込まれている。小さく、そしてか細いが、確実にハヤタの右の瞳に光が届いたのだ。


「目前の欲に手を伸ばすのは良い事だが、やはり余裕が無くなってたみたいだな」


「っ……くっそ……!」


 ブォンッ

 ピュ


「浅はかだ。若造が」


「んぎゃにゃ!?」


 モクリサはモップを虚空に仕舞い、両手を上に向けながらハヤタに馬乗りになる。その掌の上に親指程大きさの鏡を創り出し、そして再び鏡を割り、その鋭利になった破片を右手で一つだけ掴む。先端は鋭利で細く、ナイフのような形をしている。そして左手をハヤタの瞳の前で薙ぎ払い、その手に付着した血液をハヤタの瞳にピンポイントに直撃させた。突然両目を襲ったねっとりとした水分にハヤタは目ギュッと瞑り悶える。


「鏡以外も使ってる! 騙したんだね! 酷い酷い最低っ!」


「……」


「何でそう都合よく僕の目に血を吹っ掛けられるの!」


「……」


「て、さっきまでの君なら言ってただろうに。本当に余裕無くなってるんだな」


 モクリサは悶えるハヤタを自身の下半身のみで押さえつけ、右手に持つ破片の刃先をハヤタの首筋に突きつけようとしてすぐに離した。そしてルルの方へとチラリと視線を移す。


「斬殺、殴殺、絞殺……君たちの世界と同じで、対抗手段の無い人間は簡単に死ねる。それこそ、こんなしょうもない刃物一つでもね」


「ひ……」


「今から実演してあげよう」


「ふひ……ひひ……」


「ん?」


 静かに、そして勝利を確信したのか笑みを浮かべカッコつける。それに対してルルは気味の悪い笑い声をあげた。


「ありがとね……」


「……何、頭強く打ちすぎ――


「既にもう。攻撃準備は整ってる!」


「はっ?」


「私に注目してなかったおかげで完璧に出来てる」


 突然響いた声に怪訝な表情を向けていたモクリサだったが、弱々しいルルの、力強く放たれたその続く言葉に、今度は小ばかにするかのように素っ頓狂な声を上げる。


「普通に考えたらブラフ……それに今から何をしようが、君の体内には俺の鏡が幾百も残留してる」


「……」


「突然威勢が止まる、か……まぁ警戒するに超したことはないか」


 この戦いで何度も舐めてかかり、何度も想像を超えてきたからだろうか。怪しく転がるルルを後目に左手を右から左へと大きく薙ぎ払う。その掌から鏡が五つ投げ飛ばされ、ハヤタとモクリサを囲うように四方、そして蓋をするようにその上部に設置された。一辺五メートルほどの閉鎖された立方体の空間を作り出した。


「鏡の壁」


「既に地中に根を張ってるから、下からは無い。ダサいけど、言ってる場合じゃないか」


 空間の中でそしてハヤタの顔を鷲掴みし、


「今のうちに主戦力にトド――











「ねぇ、気がついた?」









 ザグンッ


「……は?」


 ピチャッ


「……は!?」


 それと同時にハヤタの肩から血が吹き出た。


「何を勘違いしてるの?」


「っ!?」


「私がいつ、直接攻撃するって言った?」


 ハヤタの頬からルルの縄が伸びているのだ。その鋭利な先端で、ハヤタの肩を小さく切り裂いたのだろう。深く傷付けたからか、飛散した血液は両腕、顔、首と広範囲にモクリサに付着した。


「さっきルルちゃんが宙に引っ張られた時の顔」


「は……?」


「してやったりっていう、ニヤケ顔してたんだ」


 先程まで無言で悶えていたとは思えぬほど、いやに舌が回るハヤタ。が、そんな言葉も聞こえていないのか、モクリサは目を見開いたまま、


「いやぁ、まさか迷いなく僕の体を縄で斬ってくれるなんてね。ありがとう」


「き……傷つけて良いものかは迷いましたが……これが最適だと思ったので」


「良いよその発想。僕そういうの大好きよ」


 傷つけられたというのに楽観的なハヤタ。それとは違い、やはり申し訳ない気持ちが強かったのか、ルルは鏡の壁で見えないハヤタに戸惑いと葛藤の胸を伝えた。が、作戦が上手くいったという気持ちが強いのか声色は明るい。


「て事でね! ベテランヘイルは素人の演技になんぐっ」


「っ! ハヤタ先輩っ!?」


 が、すぐにハヤタは声を出すのを止めた。いや、


「この感じ……空気を、また消した……」


 モクリサが持久戦に持ち込んだのだろう。モクリサの表情を察するに、空気を消し時間を稼いである間に何か策を考えようとしているのだろう。切羽詰まった、不利な戦況にもつれ込まれた男の顔をしている。が、すぐに鏡の破片を振りかぶり、











「私達は地面に伏して体を動かせない状態。だから囲んだのは四方と上」












「下……は、根が敷きつめられてるから、潜って逃げる事も出来ない……」














「逃げ道が無くなったってことだ……ハヤタ先輩の……」











「……そして……あいつの……!」









「っ!?」


 そしてモクリサの口内で、無音で何かが破裂した。


「っ、っ!」


 音も無く、モクリサの口内奥深くへと、血が侵入する。


「あいつは知らない……ハヤタ先輩は、自分の血で、血の爆弾を作れる事を!」


 その奥へと侵入した血が原因だろう、モクリサは突然表情を曇らせた。そして、


「ハヤタ先輩の血で、酸素不要の血液爆発を起こして、あいつの喉奥にまで血を運んで」


「がふぁっ!」


「咳き込ませる」


 小さな音と共に、モクリサは咳き込んだ。まるで吐血したかのように、その口からハヤタの血液が飛び出る。


「咳をするには空気が必要っ! 無意識でも、一瞬でも、必ずスキルを解除してしまう!」


「その一瞬で十分。諸刃でやるよ」


 そしてルルとハヤタは大きく息を吸い込んだ。


「いけぇっ!」


 そして、


「これでチェック!」


「落ちろぉ!」


 夫々の声と共に、モクリサの顔と口内が、


 ガガザグジッ

 ドゴゴンッ


 爆発した。












 十五時十二分。


「はぁ……はぁ……」


 壁まで飛ばされたハヤタとモクリサへと、ふらふらと、体を丸めながらゆっくりと近づくルル。四方を囲んでいた鏡のおかげでルルは爆発に巻き込まれる事はなかったが、モクリサの木生き物乱打によるダメージが未だ大きいのか、左足を引きずっている。


「ハヤタ、先輩……!」


「大、丈夫……はぁ……ちゃんと意識……ん……たも、ててるから……はぁ……はぁ……」


 ハヤタは仰向けになり目が全く開かれておらず、全身やけどだらけで体の節々が赤黒く変色してしまっているという見るも無残な姿をしている。が、何とか生を繋ぎ止めている。その姿を確認できたからか、ルルはほっとしたような表情を見せる。


「あっ……ははは……んにっ……お……お互い、満、身創痍……ひぅ……だね……」


「あはは……そう、ですね……」


「僕、よりも……いっ……あっちを……早めに、ん……拘束、を……はぁ……」


「ぁ……は……は、い……!」


 そして喜びを実感させる前に、ルルに指示を出した。ルルは、そのハヤタから数メートル離れた位置で蹲り、ピクリとも動いていないモクリサへと視線を向けた。


「……流石に気絶――


「その……昔、一人のアンスロ……が、いた」


「んの! な、何……!」


 そして腕から縄を出した瞬間、モクリサが声を出した。しかし、その声は先程までとは違い、覇気が全くと言って良いほど込められていない。喉を焼かれたからかしゃがれた声を出し、化け物のような不気味さを少しだけ感じてしまう。


「アンスロ、は……優しく、穏やかな性格で……い、曰く……」


「……」


「喜怒、哀楽の、喜と楽しか……もっ、持って、ねぇんじゃねぇの……? と、とか言われていた」


「え、何、その人」


「逆に……こ、怖いね」


 モクリサの戦意が喪失していることを感じ取ったのか、それとも争う気力や体力が残っていないのか、二人ともその一方的に始まった謎の語りに邪魔をせずに耳を傾けている。


「ただ……ある時……その、アンスロの、最愛の、友人が……殺された」


「……!」


「……唐突……だね……」


 まるで小さな子供に読み聞かせをするかのように、モクリサの声にはどことなく優しげな雰囲気が漂っている。


「アンスロは、泣いた……その友人……だった肉塊を、腕に……抱きながら、泣いて……泣き続けて……」


「……」


「ある、時……そのアンスロの……体に、変化が起きた」


「変……」


 空気が変わった。モクリサの喋り方が少しだけ力強くなったからだろうか、ルルもハヤタも息を飲み込んだ。


「顔は、獣のように鼻が伸び、耳と尻尾は……逆立ち……両手も床、に着け、全身から、毛が生え……まさに……猛獣へと、変わった」


「な……に……それ……は……」


 次々と口から発せられる、まるで得体の知れない化け物を呼び起こすかのように慎重に、その姿の特徴一つ一つが確実に伝えられていく。


「凶禍……?」


「いや……凶禍なんかの……比、じゃ……ないほどの……力も手にしたら、しいから……覚醒、なのかもし、れない」


「かく……」


「その猛獣は、友人を……殺した輩に襲いかかり……そして、返り血を……飲むように浴びていた」


「飲むように浴びる……?」


 そこ気にするとこじゃない。

 まるで怪談話を聞かせるかのように、重くそしておどろおどろしい雰囲気と共に語る。アンスロから恐怖を生み出した象徴へと変化してしまったその人物の物語を。


「まさに無双状態……と……言うよりも、バーサーカー、モード? ノー、ガード戦法?」


「……」


「反撃の……猛攻にも、一切怯まな……か、った……」


「怖……いね……ん……」


「身体には……自身の、ものか……他者のものかも、分からぬほど、の血が……肌色よりも……多く面積を、占領していた」


 そこで漸く、モクリサは顔をルルのいる方向へと向けた。脅すかのように強く訴えかけるかのような眼差しをしている。


「その勢いは……止まらず、仲間の、静止の声、も届かず、やがてアンス、ロは……」


「ん……に……」


「復讐を、成し遂げる、その瞬間、まで……肉塊を作って……いった」


「……」


 そして今度は慈愛に満ちたような眼差し。それと同時に声色も優しくなり、脅すような雰囲気も消え失せた。


「……古い伝記にあった……小さな物語……この伝記、以外には……アンスロ覚醒の、話は一切、存在しない……」


「……消された……ん……歴史……的な……?」


「だと、俺は考えてる。伝記の、タイトルは……永……何とか……いや、そこはどうでも……いいか」


「えい……」


 何故急に物語を伝えたのか。その意図だけでなく、現存も分からぬその恐ろしい物語に対しても二人は疑問符を浮かべている。


「本当かどうかは、分からないけど、レンと付き合っ……ていくなら、覚悟は必要だ」


「覚……悟」


「レンは……優しい上に……まだ、予期せぬ、別れというものを……経験したことがないからな」


「予期せぬ……ひぅ……別れ……」


 話が終わったと感じたのか、ルルはモクリサと会話しながらも、手から出していた縄をモクリサへと伸ばし始めた。


「復讐のために自我を失う……ってことですか……?」


「……あくまで……可能性、だ……」


「いや……でも……ん……なぁ……僕……二回ぐらい……ひぁ……レン君、悲しませちゃっ……たから……なぁ」


「耳削るぞてめぇ」


「怖い……よぉ……怖い」


「すごい……そこだけ鮮明に……」


 やっぱ人の心の奥にある感情って凄いんだね。さっきまで息も絶え絶えで物語も満足に話せなかったのに、脅し言葉は一切の濁りの無い真っ直ぐで純粋な殺意を向けてるんだもん。


「はぁ……言い方を変えよう」


 がすぐにそんな不純な感情は捨て、アプローチを変える。


「どんな事情が、あろうとも……死ぬことは許さない……そう……いうことだ」


「っ」


「……」


 今度は分かりやすく、直接的な要求を二人に下した。


「生きろ。俺からの……敵となった……レンにしてやれる……父親としての、願いだ」


「僕は……もう……ん……破っちゃってるけど、一応了解……はぁ……」


「私は破ってないけど、一応レンはアイツの友達だったっけなぁ……落命したけど」


「お前らなぁ……」


 後付けの要求だったし、多少は仕方ないだろうとは思う。けどもう無意味だろこの約束。レン君既に二回も友人失った悲しみ背負ったんだから。

 ルルは縄で拘束し終えたモクリサを持ち上げ、同じくハヤタも縄で全身を巻いてから持ち上げる。


「まぁ兎に角。助言ありがとうございます。パパ」


「待って、パパは予想外」


あいに溢るるを読み返す度に思います。最初と最近で書き方が変わったなぁということを。なんだろう、言葉にするのは難しいんですけど、違うって明確に感じるんですよね……

そしてごめんなさい。まだ三章は途中ですが一旦ここで区切ります。待たせた上に待たせる形になります。本当にごめんなさい。

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