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異世界行きキャンペーン中  作者: 中川あとむ
第一部 一章 鍛冶屋
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01-07 南の町

 蓮が森の中の道を一時間ほど歩いて行くと、森を抜けて草原に出た。

 道は草原の中を南へと続いているが、あまり人が通らないからだろう、草に覆われてそのうち消えてしまいそうな状態だ。

 

 蓮がその道をそのまま南下していくと、やがて道が交差する所に出る。

 

 ――エレーヌたちが、途中で街道に出ると言っていたな。

  これがそうなんだろう。 

 

 街道と言っても石畳があるわけでもなく、土がむき出しの幅三メートル程の道だ。


 左右を見回すと、まだ離れているが街道の左の方から馬車がやってくるのが見えた。

 蓮がそのまま道を渡ってさらに南に向かって歩いると、その馬車も同じ方向に行くようで、先程の角を曲がって蓮に追いついてくる。

 

 そこで蓮が端に寄って道を譲ると、荷馬車の御者台から男性が声を掛けてきた。

 

「お兄さん、町まで行くんだろ? 乗っていくかい?」


 見ると、四十歳ぐらいの商人風の男性だ。


「いいんですか?」

「ああ。人は持ちつ持たれつだよ」

「ありがとうございます」


 蓮は御者台の商人の隣に座らせてもらう。


「私は、この先のベリエの町で商売をやっているオーブリーだ」

「蓮です」

 

 ――ここから町までは、歩いてまだ二、三時間は掛かるらしいから、助かったな。


 馬車から見える景色はのどかで、遠くには山脈も見えている。

 やがて前方に見えてきた町はかなり大きそうで、馬車から見る限り直径が三キロメートルぐらいはありそうだ。 

 町が近くなると、草原では牛を放牧する姿が見られるようになり、さらに町に近づくと左右は畑になった。

 畑では人々が普通に農作業をしている。


 ここで蓮は、町を囲む壁が思ったより低いのに気がついた。

 蓮が前にテレビで見たヨーロッパの中世都市を取り囲む壁は、高さが三階建てのアパートぐらいはあったが、前方の町の壁はその半分程度の高さに見える。


「町の壁はそれほど高くないみたいですが、魔物とかは大丈夫なんですか?」

蓮が、オーブリーに聞いた。


 ――あ、もしかして、今のはまずかったか?

  あの高さがこの世界の平均的な高さなら、変な疑いを持たれるかもしれないな。


「そうなんだ。この辺りは魔物も殆ど来ないし野盗もいない。そして前の戦争やもっと昔の戦争でも、この町は一度も敵に攻められたことが無いらしい。だから壁は北方の町に比べると随分低いし、町の門は昼はいつも開いたままで出入りも自由なんだよ」


 ――よかった。

  でも、やっぱりそうなんだ。

  女神様が言った通り、この町なら平穏無事にのんびり暮らしていけそうだな。 


 町の門が近づいてくると、オーブリーが蓮に聞く。

「それであんたはこの町は初めてみたいだが、町に着いたらどうするつもりかな?」


「実は王都の鍛冶ギルドからの紹介で、あの町で鍛冶屋を始める予定なんです」

「え? じゃああんたは、王都からの鍛冶職人!?」

「え? ええ」

「実は私はあの町で武器と防具の店をやっていてね。今あの町には武器を作れる鍛冶屋がいないので、今も隣町から武器を仕入れてきたところなんだ」


 ――じゃあ、これから仕事でお世話になる人か。


「そうでしたか。これからよろしくお願いします」

「レンさんと言ったっけ。こちらこそよろしく」

「でも、こんな大きな町なのに、どうして鍛冶屋がいないんですか?」

「この町には三軒の鍛冶屋があるけど、一つは農機具や馬蹄、鍋などの生活中心の鍛冶屋で、もう一つは金属防具中心。そしてもう一つの主に武器を作っていた鍛冶屋が、一ヶ月前に仕事を辞めてしまってね。だからレンさんはその後釜になるわけだ」


 ――なるほど。


「ところで前の方は、どうして鍛冶屋を辞めることに?」

「あの爺さん、酒の飲みすぎのせいか手がしびれるようになってね。それにもういい歳だったので、これ以上鍛冶屋を続ける体力が無いから、と言っていたな。今頃は田舎村で、農作業をしている娘夫婦と一緒に暮らしているんじゃないかな」

「そうだったんですね?」


 ――変な理由じゃなくてよかった。


 町の門は本当に開いたままで、馬車はそのまま町に入っていく。

 オーブリーが門の横にいる兵士に軽く会釈しただけで、よそ者の蓮が横に乗っているにもかかわらず、止められる事は無かった。


 ――着いたな。

  でも、この世界に着いたとたんにあの森で二人に助けられたり、今回は森から出たらすぐに、これからの仕事の関係者に偶然にも馬車に乗せてもらったりと、ラッキーの連続だ。


 オーブリーが右側の建物を指で指す。

「そこの建物が、前の鍛冶屋が使っていた作業場だよ。鍛冶屋は音が出るから、どうしても町の中心部からは離れた所になってしまう。おそらく、あの建物をそのまま借りられると思うけど、今回レンさんをこの町に呼んだ人はわかるかい?」


「コーエン公爵様です」

「あ、公爵様が直接依頼されたのか。それでは、まず城まで行って挨拶を済ませないといけないね」

「なるほど」

「お城は奥に見えているだろ?」

「あれですね?」

 

 町の中の大通りをもう少し進んだところで、オーブリーが今度は左前方を指した。

「私の店はあそこだ。今は使用人が店番をしているんだ」


 少し先に、武器と防具を思わせる看板が出ている店があった。


「あそこですね? では、ありがとうございました。ここからは歩いて行きます」

「いやいや。これから私も君と取引するわけだし、このままお城の前まで乗せて行くよ」

「それでは、ちょっと申しわけないですから」

「だいじょうぶさ。あんたは腰が低いし、気に入ったよ。これからよろしくな?」

「こちらこそ、よろしくお願いします」



 オーブリーは城の前まで送ってくれて、蓮は彼にお礼を言ってから馬車を降りる。

 城門は開いたままだが、さすがにここでは兵士が訪問者をチェックしていた。

 門番の兵士は二人いるが、片方は女性のようだ。


「何用ですか?」

と、女性の兵士が聞いてきた。


 蓮はこの世界に来た時にカバンに入っていた手紙を見せる。

「王都の鍛冶ギルドからの紹介でまいりました」


 隣の男性の兵士が、紹介状を覗き込んだ。

「おー。思ったより早く来たな。兵士団副団長がお会いになるはずだ。あの建物の中におられる」


「わかりました」


 蓮は城門を通され、教えられた建物に向かった。

 彼は歩きながら周りを見回してみる。


 正面には、中世風の城。といっても、どこかのテーマパークのような白くメルヘンチックな城ではない。

 石造りだが石の地の色のままで、高さは三階建ぐらいの頑丈そうな砦のような城だ。

 そしてこの城壁の内側には、城の他にもいくつか建物がある。

 鍛錬場みたいな広場では、兵士が剣の訓練をしているのが見えた。


 蓮は指示された建物に着くと、入口の兵士に先程の手紙をみせて、中に案内される。


 そして今は、副団長の前に立っていた。

 しかし蓮は、前に座っている副団長が容姿端麗な女性であるのを見て驚いている。

 年齢は二十ぐらいで、金髪を後ろで縛っていた。


 ――エレーヌと同い年ぐらいかも知れないな。


「おい。女がそんなに珍しいか?」

蓮がまじまじと見ていたのに気がついた副団長が、蓮が渡した手紙を読むのを中断して言ってきた。


 ――やばい。怒ってるのか?


「あ、すいません。えっと、こんなに美しい方が軍の幹部だと驚いてしまいまして」

「私は、美しいと言われても嬉しくない。そんな事を私に言ってきたやつは、十年ぶりだぞ」


 彼女はそう言ったものの、蓮は一瞬だが、彼女が嬉しそうな表情を見せたような気がした。


「そうでしたか。すいません」


 ――ということは十歳ぐらいの時に言われたきりという感じか。

  でもそうだろうな。さっきみたいに言われたら、思っても誰も言い出せないんだろうな。


 副団長は手紙の続きを読み終わると、蓮の方を見る。

「まあいい。王都から、はるばるよく来たな」


「はい」

「いくら平時とは言えども、武器をつくる鍛冶職人がいないのは異常だった。だから公爵閣下も、おまえが来るのを待ち望んでおられた」


「もったいないことです」

蓮は、ありったけの中世の知識で受け答えする。


「うむ。ではもし閣下のご都合がよろしければ、今から引き合わせしよう」

「え?」

「なに、驚くことはない。それほど武器の鍛冶は大切だということだ。この公爵領の防衛問題でもあるからな」

「わかりました」


 ――こまったな。いきなり公爵に会うのか。

  下手なことして、「無礼者」なんて言われて、手打ちにならないだろうか。

  この世界はもとより中世の常識なんて、映画とかアニメの中で知り得たものしか知らないからな。


 蓮は副団長に連れられて、城内の謁見室に案内される。

 謁見室の椅子には公爵らしき中年男性が座り、重臣らしき人と話をしていたが、ちょうど手が空いたらしくこちらを見てきた。

 でも一瞬だが、公爵が蓮の顔を見て驚きの表情を見せたような気がした。


 ――なんだろう?


「副団長、その者は?」

公爵が聞いてきた。


 副団長が「ついてこい」という仕草をしたので、蓮は副団長の後について公爵の前に進む。

 副団長が一礼したので、蓮も慌てて礼をした。


「この者は、新しく派遣された鍛冶屋です」

副団長はそう言いながら、蓮が持ってきた手紙を差し出す。


 それを、側近らしき人が受け取って、公爵に持っていった。


 公爵はその手紙に目を通してから、口を開く。

「そうか。よくまいったな。では副団長、その者がすぐに鍛冶屋を始められるように、助けてやるがよい」


「はっ」


 それだけだったが蓮はよほど緊張していたらしく、副団長に連れられて謁見室を出ると、どっと疲れが出た。

「ふー」


「大丈夫か?」

副団長が聞いてきた。


「とても緊張しました。何か機嫌を損ねて打ち首にでもなったらどしようかと」


 それを聞いて副団長は、笑みを浮かべ蓮の肩に手を乗せた。

「はは。閣下はそんな方ではないさ」


「はい」


 副団長と蓮は先程の副団長の執務室に戻ってくると、入り口では女性兵士が何かの書類を抱えて待っていた。

 そして、蓮たちと一緒に部屋に入って来て、その書類を副団長の机に積み上げる。


 副団長はそれにかまわず、剣を腰に差し外出の準備を始めた。

「ではレン。これから私が町を案内してやろう」


 ちょっと嬉しそうだ。


 ――もしかしたら事務仕事ばかりで、外に出るのが嬉しいとか?

 

 すると、今の女性兵士が駆け寄ってくる。

「副団長、お待ちください」


「ん?」

「決済を頂く書類が山のようにあります」

「帰ってきてからではだめか?」

「ダメです! 町の案内でしたら私が代わりに」


 副団長が、残念そうな顔をする。

「そうか…。では、今からこの者が、お前を町に案内する。ジネット。彼は新しい鍛冶屋のレンだ」


「ジネットと申します。今から、あなたを案内をさせていただきます」

と、女性兵士。


「蓮です。よろしくお願いします」



 ジネットと蓮は、二人で城を出た。


 するとジネットが、蓮の事を舐め回すように見てくる。

 そしてブツブツ言い始めた。

「まさか、好みなのかしら? 男に興味が無いはずなのに、あんな楽しそうなお顔を。おかしいわね……」


「どうしました?」

蓮が聞いた。


「あ、いえ。ところでレンさんは、どちらかに宿をとられているのですか?」

「いえ。この町に先程着いたばかりですので、まだです」

「この時間に到着する乗合馬車は無いと思いましたが、それでは夜中に街道を歩いてこられたのですか?」

「あ、いえ。今日は北の森の中から……」

「え?」


 ジネットはちょっと驚いた顔をしている。


 ――何かまずいことを言ったかな?


 蓮がそう思っているとジネットが、

「あの森を抜けてこられるなんて、すごいですね。確かに王都からは近道ですが」

と言ってきた。


 ――ああそうか。森には魔物がいるから、普通は通らないんだな?


「たしかに、森にはフェンリルとかゴブリンがいましたね」

「それよりも怖いのが、あの森に住む魔女だという噂です」

「え?」


 ――それって、エレーヌとリディのことかな?

  あの二人、いったい何をしたんだ?

  エレーヌたちの所に泊まっていた事を知ったら、どう思われるんだろう。


  そうか!

  女性二人だから、変な奴が来ないように、怖いという噂でも流したんだろうな。


  でも、念の為話題を変えるか。


 蓮は、先程から疑問に思っていることを聞いてみる。

「あのー。聞いてもいいですか?」


「なんですか?」

「あなたも含めて、女性の兵士が多いような気がするんですが」


 それを聞いてジネットが、今度はいぶかしげな顔をする。


 ――あ。もしかしたら、この国の常識を聞いてしまったか?


「あなたは、この国の出身では無いようですね?」


「えーっと。鍛冶ギルドに入る前は、親に付いて鍛冶の修行をしながら他の国を旅してましたから」

蓮は適当に思いついた言い訳を話した。


「そうでしたか。旅をされていたならご存じないかも知れませんが、昔隣国との戦争がありましてね。そのときに男性がだいぶ亡くなりました。戦争にはかろうじて勝ちましたが、その影響でこの国の人口は女性の方が多く、兵士にも少なからず女性がいます」

「なるほど」

「でも、副団長のカロル様も女性ですが、自分を女性と見られるのがお嫌ですから、決して女性として見てはいけませんよ」


 ――もっと早く聞きたかった。

  でも、きっと腕が立つんだろうな。


「ということは、あの方は実力で副団長になられたのですか?」

「あ、実はカロル様は、公爵閣下の姫君なんです。もちろん、実力も素晴らしいです」

「え?」

「あ。これも本人の前では、姫なんて絶対に言わないでくださいね」

「わかりました」

「でも、カロル様はお強いし、かっこいいし、私たち女性兵士のあこがれの的なんです」

「なるほど」


 ――なんか、日本の関西の方に女性が男の役をやる劇団があったよな。

  確かその男役のスターが、女性のファンからそんな風に見られていたような。


 蓮を案内していたジネットが、立ち止まる。

「話しているうちに、一つ目の目的地、武具店に着きました」


 ――この店は、先程のオーブリーさんの店だな。


「あ、実は町に来る時に、途中でここの店主の馬車に乗せてもらいまして」

「では、もうご存知なのですね?」

「でも、少し話しただけですから」

「では一応、挨拶していきましょう」

「はい」

 

 ジネットとともに先程のオーブリーと会い、作った武器の納品方法や代金の支払い方法などの確認をした。

 ついでに蓮は、この世界でどんな武器を使っているのか、店内を見ていくことにする。

 でも、店に陳列されている武器は、種類が少ないようだった。

 武器はロングソードとヤリ、斧そしてナイフ。防具は甲冑と胸当て。盾は大きいものしか無いようだ。


「ここでは、ロングソードが基本ですか?」

蓮がジネットと店主に聞いた。


「この剣は、ロングソードという名前なんですか?」

と、ジネットから逆に聞かれてしまった。


「え、ええ」


 ――そうか。この世界ではあまり武器の種類が無いらしい。

  これが標準的な武器だから、ただ「剣」と呼ばれているようだな。


 すると、オーブリーが気がついたようだ。

「どうやら、レンさんは他にも色々な武器を知っているようだね?」


 ――まあ、すこしぐらいは言っても大丈夫だろう。これからの作成依頼に繋がりそうだし。


「そうですね、例えばジネットさん?」

「はい?」

「ジネットさんは歩兵ですよね? 女性だし、この『剣』では取り回しが大変なのでは?」

「実は、そうなんです。もう少し軽い武器のほうが本当はいいのですけど」

「それなら、もう少し短いショートソードとか、グラディウス、ファルシオンという武器もあります」


 ――これらは、ゲームにもよく出てくるし、興味があって前に調べたことがある。


「どんなものですか?」

「このロングソードは元々は騎士が馬上から歩兵を攻撃する為に作られたはずです。歩兵はそこにあるヤリを使って馬上の騎士を相手にし、接近戦になったらこの剣を使うと思いますが、これでは自分を守りにくいし取り回しがよくないですよね? それでショートソードやグラデウスは歩兵が左手に小さい盾を持って、盾で守りながら剣を出して戦うためのものです。そしてファルシオンは片刃ですが刃の幅が広く、初心者でも扱いが簡単です」

「ずいぶん色々な武器に精通されているんですね?」


「まあ、職業柄」

「でも、小さい盾って、そんな物もあるんですか?」

「はい」


 ――やっぱり、ここにある大きい盾しか使ってないようだな。

  剣もそうだけど、力が強い男性に合わせて作られて、ずっと改良されていないんだろうな。

 

 蓮がそう思っていると、急に店主が手を打ち鳴らす。

「では、こうしよう。レンさん、色々な武器を一本ずつ作って持ってきてくれないかい?」


「見本ですか?」

「もちろん、全てうちで買い取るよ。それで、人気が出た武器は追加発注させてもらうから」

「わかりました……」

 

 ――盾まで作ると防具職人から恨まれそうだな。

  盾は見本だけ作って、それは本来の防具職人に発注してもらうか。



 ジネットと蓮は、武具屋を後にして第二の目的地に向かった。


「もしかして、もう聞いていらっしゃるかも知れませんが、ここがあなたの作業場になります」

と、ジネットが先程の武具屋が言っていた鍛冶屋の作業場を紹介した。


「はい」

「この作業場は公爵様の持ち物ですから、武器の鍛冶の仕事をされる限り、無料で使うことが出来ます」

「そうですか」

「一階が作業場、二階が住居になっていますから、ご自由にお使いください。多少なら改装されても大丈夫です」

「ありがとうございます」


 ジネットは作業場の入口の扉を開ける。


 ――あれ? この世界は鍵がないのか?

  それともここの治安がいいから、いらないのかな? 

  それを聞いたら、この世界の人間では無いことがバレるかな?

  でも、これだけは聞いておきたいな。


「あの。この町の治安はいいんですか?」

「え? ええ」

「えっと、僕が昔住んでいたところでは治安があまり良くなくて、出入口には鍵がないと、盗賊に入られることがあったもので」

「鍵ですか? この町に盗賊はいませんので、出入口は開けっ放しでも大丈夫です」


 ――あー、なんていいところなんだろう。


「わかりました」


「裏は広い庭になってますので、ここは資材置き場や、試し切りなどに使えます。井戸とトイレもこちらです」

ジネットが裏口から外を指して説明した。


「なるほど」

「あと、何か聞いておきたいことはありますか?」


 ――そうだ。冒険者ギルドがあるって言ってたな。


「冒険者ギルドにも登録しておきたいんですが」

「わかりました。ではご案内します」


 ジネットに案内されていくと、冒険者ギルドは先程の武具屋から近い場所にあった。


 ジネットは、その冒険者ギルドの扉を開けてどんどん入っていく。


 ――この国では、兵士と冒険者ギルドの関係性は良いということなんだろうな。


 ギルドの中の雰囲気はゲームやアニメと同じような感じだが、さすがに治安がいい町だけあって、ロビーにいる冒険者たちもゴロツキみたいな人はいないようだった。


「こんにちは、ジネットさん。今日はどうされました?」

ギルドの女性が声を掛けてきた。


 ――顔見知りか。


「こんにちは、セリアさん。実は彼は王都から派遣された新しい鍛冶屋さんなんだけど、冒険者登録もしたいそうなの」


「そうでしたか。それでは手続きをしましょう」

と、セリアと呼ばれた女性が蓮に。


「レンさん。この後は、他に行きたい場所はありますか?」

ジネットが聞いてきた。


「いえ。とりあえずは、ここだけで」

「それでは私は城に戻りますので、何かあったら気軽に訪ねて来てください」

「ありがとうございます」


「では、レンさんですか? こちらにどうぞ」


 蓮はジネットに軽くお辞儀で挨拶すると、セリアに付いて行った。

 奥のテーブルに向かい合って座る。


「レンさんは冒険者ギルドが初めてのようですので、簡単に説明から行いますね?」

「お願いします」


 この世界でも冒険者ギルドは、アニメなどとほぼ同じだった。

 ランクがあり、それはFから始まる。

 昇格は試験があるわけではなく、ランクアップは過去の実績を元に行われる。

 ただ、この町の近くにはそれほど凶暴な討伐対象の魔物がいないので討伐依頼は少ないらしく、輸送や雑用の仕事が多いようだ。その依頼を掲示板から探すのは同じだった。

 そして、凶暴な魔物と戦って名を上げたいなら、他の町に行った方がいいと言われた。


 逆に蓮は、平穏な暮らしができそうなことに、感謝するのだった。


「今までの説明で、何かご質問は?」

セリアが聞いてきた。


「特には」

「では最後に、魔法など何か得意なことがあれば教えてください」


 ――正直に全部申告したらまずそうだな。


「えっと、剣を少し。そして魔法は鍛冶仕事で使う加工魔法や、あとは火や氷などです」

「わかりました。最近は滅多にはないですが、あなたにしか出来ないようなことがあれば、指名で依頼することもありますので、そのときはご協力お願いします」

「わかりました」

「では、説明や聞き取りは終わりましたので、最後に、このカードに血を一滴垂らしていただきます」


 ――お? ここはアニメと一緒なんだな?

  魔法が掛かっているギルドカードということなんだろう。


 蓮は言われた通りに血を垂らし、登録を終えた。


「あ、そうだ。実は北の森でゴブリンを討伐しまして」

「証拠の角は持っていらっしゃいますか?」

「はい」


 蓮はアイテムボックスから、ゴブリンの角が入った袋を取り出して、セリアに渡した。


「アイテムボックスも使えるんですか?」

セリアの目が輝いた。


「え? ええ」

「アイテムボックス持ちは、荷物の運搬に便利な上に出来る人が少ないとあって、引く手数多なんです」

「な、なるほど」

 

 ――まずかったかな?

  でも、いざとなったら運搬の仕事だけでも、食うに困らなさそうだ。

 

「では、計算してきますので、少々お待ちください。報奨金はすぐに受け取りますか? それともギルド預けにされますか?」

「あ、では、ギルド預けで」


 蓮は待つ間に、掲示板の依頼を眺めてみる。


 ――やはり、運搬の仕事が一番多そうだ。

  薬草の採取もあるな。でも僕は薬草の種類は知らないし。



 蓮は、報奨金の手続きを終わらせると、先程の作業場に戻った。

 作業場に着いて中をじっくり確認していく。


 道具などは前の鍛冶職人が置いていってくれたようで、ほとんど揃っているようだった。

 鉄鉱石などの材料は無いので、どこかで仕入れないといけない。


 次に、二階の住居部分を見てみる。

 十二畳ほどのベッドルームが一部屋、そこに古びたダブルベッドがあるが布団は無い。あとは隅に古くて小さいタンスが一つ。

 同じく十二畳ほどのダイニング・キッチン。こちらには古びたテーブルと椅子が四脚あった。

 キッチンの火はどうやら炭を使うみたいで、端に炭の入った袋が残っていた。

 あとは、物置に使えそうな小部屋が二つ。

 

 ――えーっと、トイレは外とか言ってたっけな。

  まさか水洗トイレなんて無いだろうから、きっと敷地の端に穴を掘ってあって、そこに用をたすボットン式トイレがあるんだろう。

  それで日本の江戸時代みたいに、定期的に汲み取る人が来て、畑に持っていって肥やしにする感じかな?


  さて、部屋には埃も積もっているから掃除もしないといけないし、今日は他に泊まるか。


 蓮は、その晩は町の宿屋に泊まることにした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 魔法は発展しているのに武器に関しては渡来人も弄る方が居なかったのかそこまで発展していないのは驚きますね。女性が丈に合わない長剣を振り回していたとなると少し動きが心許ない感じになりますからそれ…
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