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雨巫女と天候の国  作者: もも野はち助
【本編】

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14/30

14.最終課題

 アレクシスの出した最終課題の内容にアイリスが、盛大なため息をつく。


「どうしてまだ王族でもない私が、建国記念日の式典に雨乞いの儀を披露しなければならないのよ……」

「まだ王族の仲間入りを果たしていない君だからこそ、是非披露して貰いたいんだよ。正直なところ、少し前までの君は社交界だけでなく、国民側から見ても本当に存在しているか分からない王太子の婚約者という扱いなんだよ。まぁ、社交界の方は先月の夜会参加で、かなり君の存在を浸透させる事が出来たけれど……。国民側では未だに存在を疑われたままだ。だから今回、国民も観覧可能な野外劇場で行われる建国記念日の式典で、君に雨乞いの儀を披露してもらい、王太子の婚約者は実在している事を証明して欲しいんだよ」


 アレクシスから目的の意図を説明されたアイリスだが、その中に出てきた『野外劇場』という言葉に顔を強張らせる。何故なら10年前の雨巫女のお披露目式は、この野外劇場で行われたからだ。

 そのアイリスの反応に何故かアレクシスは、やや困るような笑みを浮かべる。


「流石の君でもいきなりその役目を担う事は……無理そうかな?」


 そのアレクシスの言葉にアイリスが、またしても目を見開く。

 言葉だけ聞けばアレクシスのその言葉は挑発している様にも取れるのだが……。どうやら現在のアレクシスは、アイリスに無理難題を押し付けようとしている自覚がある様で、何故か遠慮がちに頼み込んでくる。

 そんな態度のアレクシスをアイリスは今回初めて見た事に気付く。


 いつものアレクシスなら、ここぞとばかりに面白がって煽りながら無理難題をやらせようとしてくるのだが……。昨日からどうもアイリスの歌関連の事となると、やけに慎重に接してくるので、アイリスは違和感を感じずにはいられない。だからと言って、その違和感の正体を確認しようと問いただしてもアレクシスは、決してにその理由を教えてはくれず、はぐらかしてくるだろう。

 その予想が何となく付いたアイリスは、あえてその違和感を無視する事にした。


「平気よ。そもそも私はもうすでにあなたの前で平然と歌ったじゃない。それよりもあなたの方こそ、気分が悪くなる歌を何度も聴かなければならないのだから、それなりに覚悟しておいた方がいいのではなくて?」


 アイリスが意地の悪い笑みを浮かべて嫌味を交えながらそう返すと、何故かアレクシスが悲しそうな笑みを浮かべた。


「そうだね……。僕もかなり覚悟しておかないとね……」


 先程から調子の狂う反応ばかりするアレクシスに流石のアイリスも戸惑い出す。

 すると、アレクシスが急に席を立った。


「さてと! 課題の評価結果も伝えたし、僕はそろそろ仕事に戻るよ」

「アレク……。あなた今日、何だか様子がおかしい気がするのだけれど……」

「あれ? 僕なんかの事、心配してくれるの? アイリスこそ大丈夫?」

「失礼ね! あなたと一緒にしないでよ!」

「とりあえず、建国記念日の件は一応頭に入れておいてね? 詳細はまた後日に説明するから」


 そう言って評価結果の挟んである革のファイルを手に取り、部屋を出て行った。


「何なのよ……。あの気持ち悪い反応……」


 そう悪態を付いたアイリスだが……何故かアレクシスに対して強い罪悪感を抱かずにはいられなかった。



 そんなモヤモヤした感情をアイリスに抱かせたアレクシスだが……三日後、いつも通りの様子で再びアイリスの部屋を訪れて来た。


「アイリス、久しぶりだね。お茶会の準備は順調かい?」


 そう言って、四日後に行うクラリスとリデルシアを招く為のお茶会の招待状を書いていたアイリスの手元をアレクシスが覗き込んで来た。


「ええ、もちろん。それより何故、あなたがその詳細を知っているのよ?」

「だって君が、かなり念入りにうちのお抱えパティシエにケーキの依頼してたじゃないか。城内では『なかなか心を開いてくれなかった雨巫女様から厨房にリクエストが入って皆が張り切っている』って、その話題で持ちきりだけど?」

「なかなか心を開かなかった雨巫女……」

「不思議だよね? 何故か君が繊細な心の持ち主みたいな言い方されていて……。本当は単に僕を毛嫌いし、君が我儘を貫き通して登城しなかっただけなのにね?」

「相変わらずの減らず口よね……。それ、本当にどうにかならないの?」

「前にも言ったけれど、君が発した言葉に返す時は、どうにもならないかな?」


 そう言いながら、足の長いテーブルで手紙を書いているアイリスの向かいの席にアレクシスが腰をおろす。


「今日は、三日前に軽く伝えておいた建国記念日の式典の詳細資料を持って来たんだ。暇な時でいいから目を通しておいてくれないかな?」

「わかったわ。ところで……この三日間、全くあなたの姿を見なかったのだけれど、どこかに行っていたの?」

「うん。コーリングスターの方にちょっとね。エリアとイクスの婚礼準備が本格的に始まり出したから、その件で色々話しに行ってたんだよ」

「そうなの。それでお二人はいつ頃、挙式なさるの?」

「一応、三ヶ月後って事にはなってはいるけれど……。イクスが結構、急いでいるみたいだから、一カ月くらい早まるかもね」

「そんなにお急ぎになるという事は……何か問題でも?」

「いや? 単にイクスの限界が近いだけだと思う」

「限界って……何のよ?」

「アイリスは、その詳細を聞かない方がいいと思うよ?」


 ニコニコしながら意味深な言い方をするアレクシスは、持って来た革のファイルから書類を何枚か取り出した。


「それで……これが建国記念日の式典の流れの詳細なのだけれど、一番目を通して欲しい部分は、この雨乞いの儀の項目かな? 披露する歌に関しては、君は毎回その時に君自身が歌いたい歌というポリシーがあるから、その辺は任せるよ。ただ、マイナスイメージになる歌だけは避けてね?」


 アレクシスのその言葉にアイリスが目を見張った。


「どうして……あなたがその事を知っているの?」

「どうしてって……母から聞いたのだけれど、何か問題あったかい?」

「そ、そうよね。セラフィナ様からよね。いいえ、特に問題ないわ」


 そうは返答したが……あまりアイリスの歌声に好意的でないはずのアレクシスが、予想外に詳しい事に少し驚く。

 だが、アレクシスの事だ。恐らく使えそうな情報は、全て把握しておきたいという考えで調べていたのだろう。


「それと、当日着るドレスの件なのだけれど……」

「もうこの間みたいに胸元がバックリ開いてるデザインのドレスは嫌よ!」

「アイリス……。申し訳ないけれど、それは無理だ……。首回りが閉まっているデザインのドレスだと、全体的に野暮ったく見える。その事に関しては、女性の流行に疎い僕よりも君の方がよく知っているだろう?」

「ならば首回りがスクエアデザインか、無理ならせめて深めのベアトップにして……。胸が強調されるハートカットとか、Vネックは絶対にやめて!」

「分ったよ……。今回は一応、母の意見も入るし、ちゃんとアイリスの理想に近いデザインのドレスにするから……」


 やや面倒そうな表情のアレクシスが、一応は意見を取り入れる事を約束する。

 そもそも女性の流行に疎いと言うのであれば、何故初参加の夜会のドレスをアレクシスがオーダーしたのか、その辺に文句を言いたいと思ったアイリス。


「ちなみに建国記念日の式典までのこの一カ月間は、出来るだけ僕と一緒に色々な夜会に参加して貰うからね?」

「何でよっ!? もうその査定は終わったはずでしょ!?」

「アイリス……。たかが夜会に4回出たくらいじゃ、いくら君が人目を惹く容姿だとしても売り込み回数としては、足りな過ぎだよ? もし君が僕が出した最終課題を見事クリアしたら、君の登城期間は終了になるけれど、その分社交場への参加は極端に減ってしまうだろう? ならば、この空いている一カ月の間に出来るだけ参加した方が、時間を有効的に使えるじゃないか」

「だからって……」

「大体、僕と夜会に行くのは大分慣れたはずだよ。それなら君にとって、そこまで負担にはなっていないはずだと思うのだけれど?」

「あなたと一緒に参加というだけで精神的負担が大きいのだけれど?」

「奇遇だね。それは僕も一緒だ。なら同じ状況下なのだからお互い様だよね」

「何がお互い様よ……。絶対、私の精神的負担の方がダメージが大きいわ……」


 そう言ってアイリスは、ガックリと肩を落とした。

 その様子にアレクシスが満足そうに笑みを浮かべる。


「そうそう。この際だから、仲睦まじいアピールの僕から君に対して行う過剰愛情表現なんだけど、少々グレードアップさせて貰うから、よろしくね!」


 その聞き捨てならないアレクシスの言葉にアイリスが目を見開く。


「何よ、それっ!! どういう理由でそうなる訳っ!?」

「だって君は先月の夜会参加は、高評価で乗り切ったじゃないか。それなのにまた同じ評価基準で参加だと面白くないだろ? ならもう少し難易度の高い条件で夜会に参加した方がいいと思って」

「嫌よ! 手に口づけだけでもかなり譲歩したのに!」

「大丈夫だって。慣れればどうって事ないから。でもそれには、まず慣れなきゃお話にならないのだから、今回慣れるのにはいい機会だよ?」

「何がいい機会なのよっ!!」

「それじゃ、僕は仕事が溜まってるから。今月の夜会からはその方向で頼むね!」

「ちょ、ちょっと待って! 私、まだ承諾してな……」


 アイリスの言葉を最後まで聞かずにアレクシスは、さっさと部屋を出て行ってしまった。そのアレクシスの素早い行動にアイリスが茫然とする。


「エレン……。これって明らかにアレクの横暴よね……?」

「申し訳ございません。不敬になります故、コメントは控えさせて頂きます」


 一番の側近の冷静な返答にアイリスは、再びガックリと肩を落とした。


 だが、確かにこの一カ月ちょっとで、大分アレクシスと一緒に行動する事に慣れ始めのは事実だ。なので過剰な愛情表現と言っても演技なのだから、今まで通り普通に対応すれば特に問題はないだろうと、軽く考えていたアイリス。


 しかし、この甘い考えが後にアイリスを苦しめる事になるとは、この時は夢にも思っていなかった。

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