表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アオと、夢と。  作者: ちっちゃい蹴鞠
1/1

小さな異変と、相棒

平和な街。

しかしその平和は、いつまで続くのだろうか。

遠い昔、とある大きな企業のご令嬢が、夢をかなえるために学校へ通っていました。


しかし、ある日、彼女はいなくなってしまいました。


ある人は事件があったのだろうといいます。


またある人はいじめられていたのではないかと推測します。


真実は誰も知りません。


何故なら、もう、いないからです。


関係者も、彼女自身も。


これは彼女がいなくなってから、何年もたってからの話。



良く晴れた日。


その日も、学校はあるのでした。


一人の男子生徒が玄関を開け、走っていきます。


名前は神崎(カンザキ) 裕翔(ユウト)


綱揺(ツナユラ)高校に通う2年生です。


恐らく、遅刻ギリギリなのでしょう。


いつも愛用している自転車をこぎ、全力で向かっていきます。


鞄についている真っ青なきょうりゅうのキーホルダーが、ゆらゆらと揺れます。


キーホルダー……ディノニクスをモチーフとしたそれは、神崎が小さかった頃から持っている物です。


真っ青なのはその時に神崎自身が塗ったからです。


青色が、とても大好きだったので。


……さて、本題に戻りまして……学校へは、何とかたどり着き、授業にも間に合いました。


警察官になりたい、という夢を持っている彼は、一生懸命に勉強をします。


体を鍛えているので柔道でも一番強いです。


お弁当を食べるのも、早いです。


そうして、学校を終えていきます。


学校が終わればすぐに家へ……となりますが、今日は違いました。


友人に誘われ、隣町へと買い物へ行きました。


――そこから、始まるのです。彼の話が、日常が、変わる。


さぁ、視点を移しましょう。


そうして、愉しみましょう。



……俺は、目当ての物を買えた友人と別れた後、自転車を押して歩いてた。


どうせ急いで帰っても両親はいないし、一人で夕食を食べるのも寂しいし。


かといって、友人と食べる気分でもなかったし。


取りあえず、近所のスーパーで何か適当に買おう。


そう思いながら、路地の近くを通りかかったとき……声がした。


女の子、だろうか。


やめて、だかなんだか……そんな声がした。


少し気になってそっちに顔を向けた時、足元に何かがぶつかった。


「うわっ……?!」


思わず声を出してしまった。


そして、ぶつかってきたものを見る。


それは……それは……なんだ??


丸くて、灰色で……モフモフしてる。


耳……?みたいなのがあって……そして……こっちを見た。


目と口と、鼻もある。


しょんぼりしたような……眉毛?みたいなのもある。


これは、なんだろう?


『キャンッ!』


「……犬か……???」


うーん、犬……犬、だ。


多分。


それはこっちを見て、何かを見て、そして、ズボンの端を銜えてぐいぐい引っ張ってきた。


路地の奥の方へ誘導しようとして。


「……もしかしてさっきの女の子の……?」


『キュー』


俺の問いかけに返事するようにそれは鳴いて、さっきより強くぐいぐいと引っ張った。


「…………わかった、行くよ!案内してくれ!」


力強く言うと、それはしょんぼり眉毛を心なしかきりっとさせた。


そして、路地奥へ素早く走っていく。


俺はその後を追いかけた。


奥へ奥へ……もうすぐ行き止まりじゃないか、というところに、女の子がいた。


その子の退路を塞ぐように……つまりは俺ら側の方に、もう一人……二人?がいる。


間違いなく、さっきの声は行き止まりにいる女の子だろう。


手前の二人?組は足元を抜けたしょんぼり眉毛に驚いてた。


そして、俺を振り返る。


二人?組の一人……少しいかつい男が首を傾げた。


「ぁ……?もしかして、そのまるっこいのが連れてきたやつか?」


もう一人……と言っていいのか悪いのか……魔法少女の様なやつが似合わぬ笑いを顔に張り付けた。


『やーだぁ、弱そうじゃないの!!相棒もいないし!そのまるいの、役立たずなんじゃない??』


しょんぼり眉毛はウー、と威嚇するように女の子を守ろうと立ちふさがっている。


男が言う。


「そっちはすぐ片付くから置いとけ。まずはこっちだ。相棒も連れてないなんて恰好のカモなんだからよ!」


魔法少女も笑いながら言う。


『おっけー!!おうみっち天才~!あたしにかかればすーぐ終わるんだから!!』


魔法少女が杖を向けてきた。


そこに何か……光が集まっている。


非日常的なそれに、考えが少し遅れた。


ビームでも打たれるのかもしれない。


アニメとか映画とか、ヒーローが使うようなやつ。


だとすれば、しゃがんだり跳んだりしても避けられないだろう。


後ろへ逃げるにしても、きっともう間に合わない。


ならば、前へ――


そこまで考えがまとまった時、後ろから声がした。


『まかせて』


聞いたことがないはずの声なのに、どこか落ち着くような、安心するような、低めの愛らしい声。


『えっ、そんな、どこから……!?』


「嘘だろ、お前、相棒連れて……!!」


二人分の声がした。


後ろに一瞬、重みを感じた。


しかしすぐにその主は二人へ向かって駆けていく。


俺は、駆けていく影を知っている。


昔からずっと持ってたキーホルダーが、それだったから。


羽毛に覆われた姿、足の特徴的な二本の爪……そして何より、真っ青なその姿。


間違いなく、自分の持っていたキーホルダーそのもので。


『あるじ、わたし、まもる!』


身軽な、そのきょうりゅうは、魔法少女の杖を跳ね飛ばした。


続いて、おうみっち、とか呼ばれてた男に体当たりして、ノックアウトした。


魔法少女はおうみっち~~!!とかなんとか嘆きながら縋り付いている。


次にきょうりゅうが目を向けたのは、気を失っているのか、ぐったりする女の子と、その前に座っているしょんぼり眉毛だ。


『おまえ、てき?』


きょうりゅうが首を傾げた。


そこで我に返って、慌てて割って入る。


「ち、違う違う!!!この子たちは助けを求めてて、それで、あの」


じ、ときょうりゅうは見つめてくる。


説明を続けようとしたが、ズボンをくいくいと引かれる感覚がした。


『キュー……』


しょんぼり眉毛が俺と女の子を交互に見ながら鳴いていた。


「……ともかく、後は、俺の家に帰ってから!」


『わかった』


きょうりゅうは素直に頷いた。


――あの二人?組はいつの間にかどこかへ逃げてたみたいだ。


――全然気づかなかった。


俺は帰りを少し悩んだ後、自転車を置いていこうと思った。


でも


『わたし、はこべる。ちからもち』


きょうりゅうが持ってくれたから、自転車は回収できた。


しょんぼり眉毛は女の子を心配そうにしてて。


沢山の事がありすぎて、俺は疲れてた。


一刻も早く家に帰って、女の子を寝せて、風呂に入って、自分も寝る。


そう決めて、帰路を進んだ。


ああ、でも、きょうりゅう、お前……女の子、だったんだな……。


そんなことを考えながら、俺は、ゆっくりと、歩いた。


きょうりゅうと、しょんぼり眉毛を連れて、一緒に。

≪HUMAN FILE≫

神崎 裕翔

高校二年生

警察官になるという“夢”がある。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ