今宵、君の眠る場所へ。
「秋・・・此れでよかったんですかね」
レジに座った少年が問う。
秋と呼ばれた少年は、棚にクスリを並べながら答える。
「此れは、始まり。終わりではないよ――」
少なくとも、僕らにとっては……ね。
秋は、清潔な店内の天井隅を見つめて笑う。
「全て計画通りってことですか」
それを受けた少年は、レジの下から今まで一度も揃えたことのないルービックキューブを取り出し、両手でいじり始めた。
「でも。事件は、解決していません。」
棚を移動した秋は、レジからは見えない位置に行ってしまった。
どこからか、秋の声が聞こえる。
「そうだね……はじめから期待はしてなかったけど。上手くやる処か、言っている事滅茶苦茶だったしね。」
「でも、俺なら『事故』なんて、可能性は視野に入らなかったと思います。相手が人間である以上、最高の解答を導き出したように思えるのですが……。証拠も一応噛み合いますよ」
遠くのほうで、何かが崩れ落ちる音が聞こえた。
秋は、崩れ落ちた風邪薬の箱の山を見下ろし、無言で棚に戻し始めた。
「蒼……。証拠は揃っていないよ」
名前を呼ばれて、ルービックキューブから目を離し顔を上げる。
「……じゃぁ・・・どうするんですか?」
「なるほどね……面白そうじゃないか」
視線の一直線上に蒼を捕らえて。秋は笑った。
*
遠い昔のことである。
一人の少女が、一冊の本を小脇に抱えて私のもとにやってきた。
彼女は、私に背を向けて地に座り本を読み始めた。
私は、尋ねた。ひとりでさみしくはないかと。
彼女は、見向きもしなかった。
私は、いつも一人だった。唯、彼女はいつもそばにいてくれた。
その後も、彼女は私の問いかけには一切見向きもせず。
しかし、彼女は毎日私のもとに来ては、一人楽しそうに本を読んでいた。
ある日、その町に雪が降った。
其の日以来。彼女は私のもとにくることはなかった。
*
死んだのだろうか……。
生まれたのだろうか……。
唯一つ解ることがある。
「知らない、天井だ」