今宵、新月の泣く頃に。
人形館。
「此れが・・・例の「銀眼の少女」ですか・・・」
今回の人形展のメイン。
九尾の刺繍された黒い着物を着た、文字通り銀の目を持った人形である。
「てことは、これ。螺旋丸とか撃ったりするわけですか?」
長身の少年が言った。
「死にたいですか?少年A・・・ていうか、名前聞いてないんですけど」
「気付かない振りをしなーい」
「・・・・・・気付かれても困るくせに」
そこに、高西が割って入ってくる。
「そんなことより、悠斗君。被害者は、心臓が悪くペースメーカーをしていたらしいよ」
「やっぱり、事故っぽいですね・・・。床も、ウール100パーだし」
「?」
意を解さなかったのか、高西が首をかしげる。
悠斗は、完全に高西がフリーズしたのを確認すると、高西のスーツのすそを引っ張り、人形の前に立たせた。
「触れてください」
「出来ません」
「・・・・・・・」
「わかりました(涙」
高西が、周りに悠斗と少年A以外の人間がいないことを確認してから、恐る恐る人形に指を近づける。
刹那
「痛い」
高西の指に、電流が走った。
「無感情・・・大失格」
悠斗が言う。
「おいおい・・・大失格って・・・」
「でも、外傷がないなら、此れしかないですよね?・・・高西さん」
悠斗の笑顔で、事件は一瞬でピリオドを打たれた。
*
「ご協力有難うございました」
高西たちに見送られ、人形館を後にする二人。
「全く、やんちゃだね君は」
少年Aが静かに口を開く。
「あなたこそ。なぜ学校に?」
少年の首から、ムカデが頭を出してきた。
ムカデは、そのまま上へ昇っていき、額の辺りでとまった。
「生徒だから」
悠斗は、別段驚く風もなく続けた。
「まぁ、それはい」
「それとさぁ・・・」
「?」
「今日の分は、『貸し』だから」
「今日の分?」
「僕がいなかったら、今頃君はどうなっていただろう」
「なにか、在りましたっけ?」
検討のつかない悠斗は、首をかしげる。
*
人形館前。
「しょうがないな・・・いこうか」
少年は、悠斗の頭の上に手を載せ、つぶやいた。
「今から10秒、君と僕を不可視にする、其の間に館に入ろう」
悠斗は、1つうなずくと口を開いた。
「有難う、十三逆さん・・・いこう」
*
「在りましたね、そんなこと。で、話を変えてもよろ」
「というわけで・・・」
少年は、またも悠斗の話をさえぎった。
「僕の名前は、十三逆正よろしく」
「市橋悠斗です。よろしく」
少し、恥ずかしそうにうつむいて答えた。
「で!!」
「?」
「いつまで、手繋いでるつもりですか!!」
恥ずかしいったらありゃしない!!と。
「いいじゃない・・・僕たち。そういう運命だろう?」
笑えなかった。
「もう1つ、君に貸しを作った記憶がある」
「それは・・・言わない約束です」
「あれは、あの事件は殺人だった」
*
銀眼の少女。
彼女の瞳は、殺生石。
「笑えないね・・・、僕が言うのもアレだけど」
つぶやく少年の瞳は、青と紫。