サトケンのマントは、静かにはためく!
ある街に、サトケンと言う少年がいました。
サトウ=ケンタロウ。略してサトケン。
サトケンは、マントが大好き。マントをはためかせながら、街を駆け抜けるのが大好きな男の子です。
昔、楽しくなっちゃって、街の外まで駆けてたら、魔物に狙われたことがありました。
「何て、素敵なマント何だ、震えるぜ!」
そのイノシシみたいな魔物の名前は、イノシカチョウ。マントが大好き!
サトケンのマントに、ずっきゅーんしてしまって、サトケンにとっては、いい迷惑でした。
イノシカチョウは、嬉々として駆けます!ドスドスと地響きをたてて迫ります!
「サトケン、外は、廊下と同じくらい駆けない!」
イノシカチョウの訳の分からない台詞に、思わず立ち止まってしまいます。
「ここは、廊下じゃあ、ないのに?」
首をかしげるサトケンに、突撃して来るイノシカチョウの思うツボ。
立ち止まらせるなら、何だって良かったのです!
サトケンが、危ないと思った瞬間、影が割り込んできて、イノシカチョウを止めました。
風をはためかせる赤いマントに見とれたサトケンは、自分が危なかったのも、助かったのも、気づくのは遅かったのです。
イノシカチョウが、止められたことにびっくりしてドロンした後。
辺りを警戒していた影は、マントを翻して、振り返りました。
サトケンを助けてくれたのは、一人の騎士でした。それも、まだ若い騎士。
「大丈夫かい、少年?」
その騎士は、爽やかな笑顔で言います。
街で女子に、有名な騎士でした。
生まれてこの方、モテ期が止まらないその騎士は、女子には人気。
でも、領主や貴族にはねたまれていたので、上級騎士の実力があっても、貴族の妬みのせいで、出世が出来なくて、いつも、損な外回りをさせられていたのでした。
「一人で、街の外に出たら危ないじゃないか!」
その騎士は、サトケンをこっぴどくしかりました。
魔物が、うろうろしてるから、外は危ないのです。
「まあまあ」
それをなだめたのは、一人の明るいお化け。
そいつは、光の巫女の神殿のミカちゃんの友だちのバケノジョーです。
バケノジョーは、気軽なお化けなので、この場でも口を挟みます。
その騎士は、苦笑して、叱る気は失せてしまいました。
サイアスと名乗った騎士は、サトケンを街まで送ってくれました。
「サイアスさん!」
「何だい、ケンタロウくん」
「サトケンでいいよ。みんな、敬意を込めてそう呼ぶから!」
「分かったよ、サトケン。それで、何だい?」
「僕は、そのマントが欲しいんだ!」
「これは、駄目さ。騎士団のマントだから」
「じゃあ、僕のマントと、交換して!」
「駄目なもんは、駄目さ」
「え~?」
そうこうしてる内に、街の女子たちに囲まれるサイアスはモテる。
人混みに紛れて、サイアスがどこにいるのか、分からなくなったので、サトケンは、がっくり。
でも、脳裏には、サイアスのマントがはためくのでした。
そんなこんなで、サトケンはもっと、マントが好きになり、学校にも身に着けるようになり、サトケンのマント、ここにありと、学校の生徒たちにしらしめました。
「僕と、付き合ってください!」
震えながらのサトケンの告白が、風に乗って、ハコちゃんに届く。
あれから、幾星霜、時の流れの中で、サトケンは恋に落ちて、想いを伝えたのです。
振られるのは分かっていましたが、どうしても、告白したかったのです。
この日は、雨。ハコちゃんが、雨女なので、傘は欠かせません。
小雨の降りしきる雨の世界。水の精霊がおしゃべりする中、ハコちゃんの発した言葉は………。
心痛めたサトケンは、泣いていました。雨は涙を隠してくれるから、人通りの少ない路地裏で、えんえん泣いていました。
もうすぐ春が来て、十七才になると言うのに情けないと思いながらも、、涙が止まりません。
サトケンが、ハコちゃんを好きになったのは、小学生の頃。
その日は、朝から晴天で、しかし、帰る頃には、ザーザーと降っていて、水の精霊にとっては、遊園地みたいなものでしたが、サトケンにとっては、残念です。
マントをはためかせながら、帰りたいのに帰れない。
昇降口のとこで、つまんなそうに立ち尽くしていると、不意に声をかけて来たのは、ハヅキ=ハコちゃん。
「どうしたの、サトケン?傘、忘れたの?」
にこやかに、声をかけられて、サトケンはドキドキ。
落ち着きなく、マントを触ってしまいます。
クラスは、一緒でしたが、あまり話したこともないので、緊張してしまいます。
「そうなんだよ。ははは」
ドギマギして、乾いた笑いで、答えると、にっこりと微笑んで、傘を差し出されて、サトケンは、瞳をパチクリ。
「一緒に帰ろ?」
「ええ?いいんですよ!」
サトケンは、突然の相合い傘に慌ててしまいます。
女子よりも、マントなのでなおさらです。
「何、照れてんのー?」
「僕が、照れるのは、マントを身に着ける女子だけです!」
「あは、何それ?まあまあ、照れないで。どうせ、この雨も私のせいなんだから」
ハコちゃんは、街で噂の雨女なのです。
「そ、それなら?」
ピンク色の傘に入ると、近くにいるだけで、ドキドキ。
この時、サトケンはすでに、ハコちゃんのことが好きになっていたのです。
つづく
サトケンの話しを、こちらに載せます。間に挟んで行きます。