サクラフワリ.8
遠くで、花見で賑わう声が聞こえる。
公園の人気の少ない場所に、ヒカリはいた。りんご飴を食べながら。好きなので、どうしても味わっていたかったのだ。
「………いるんでしょ?出て来てくれない?」
ヒカリが、誰もいないというのに、声をかけると、電柱の明かりの影から、例の影がズズズと現れた。
「…ヒカリ様」
「…全て、思い出した。ううん、分かってはいたんだけど、目をむけたくなかったんだ」
悲しそうに呟くヒカリは、しかし、顔を上げると、諦めたような表情を浮かべる。
「私は、影から生まれたから、影の世界に帰るわ」
「ありがとうございます。では……」
「待って、私が帰れば、みんなのことは、無事返してくれるんだよね?」
「それは…出来かねます」
「!」
言うやいなや、他の影からも腕は伸びて、ヒカリを捕らえると、引きずり込もうとする。
「!騙したのね!?」
「悪く思わないで下さい。これは、我々影のため。
それに、今までの方を解放しても、この世界で死ぬだけですから」
「!どう言うこと!?」
「あなたは、気にしないでいいことです。
この世界とは、繋がりはないのだから」
「!」
そうだ。この影の言う通りか。私は、影の世界の住人。
それが、お化けクリスタルによって、呼び出された存在。
みんなといて、輝ける毎日を過ごせるのかと、錯覚していた。憧れてはいけなかったのかも知れない……でも!あがいてから、この世界から消えてやる!
「シャドウオーラ!」
しがみついているセクハラな影の手を、気合いで吹き飛ばす!
「ふはは!さすが、王の娘!見事な魔力です」
その影は、腕を吹き飛ばされながらも、余裕だ。
しかも、すぐに、腕が再生してまた、ヒカリを掴まえる。
「きゃあ!」
「フフ。影の力を屠れるのは、光の魔法のみ。そしてあなたは、光の巫女ではない」
ああ、闇の力では、なにも出来ないのか。それでも、あがいていると、声が聴こえた。
「ヒカリ!」
ミカちゃんが、ヒカリを見つけて駆けて来るのだから、泣きそうになった。
「ミカー!」
「邪魔が入ったか!」
影は部下に邪魔させて、ヒカリを早く引きずり込もうとする。
「邪魔しないで!ヒカリは、家族なんだから!」
必要としてくれる人がいる。私は馬鹿だ。泣きそうになるヒカリは、手を伸ばす。
ヒカリのその手を、ミカちゃんも伸ばして、後少しで届くというところで、影たちが邪魔をする。
わらわらと集まって、唯一の光を閉ざそうとする。
「!!」
しかし、現実は残酷で。ヒカリは、吸い込まれて行く。
「ヒカリー!」
なんで、笑ってたのとミカちゃんは、問いたくなる。
まるで、私たちを心配かけないようにと。
「では、私共はこれで」
影は、一礼すると吸い込まれて行くのを、泣きながら見ていただけだった。
頬に当たる風が冷たくて、春だと言うのに、ここら辺はまだ、春が遅いのだなと、ユウはそう思いながら、テントから出る。
ここは、シャインの街から北へ、何日も進んだ北の村。
このまま進めば、遥か遠くには、ヤミノオウのおわす、白竜山脈がある。
大きく伸びをして、息を吸い込む。
空気が冷たくなって来たのは、北へ向かえば向かうほどそうなる。
白竜山脈の冷たい冷気が、春を遅らせると言われてるから。
「おはよー、ユウくん。朝、早いねー」
「おはようございます、リカーナさん」
「もう、私のことは、呼び捨てでいいって言ってるのに~」
「はは」
先輩に敬語を使うのは当たり前なので、なんだか違和感があるので、笑って誤魔化すユウは、他の騎士や兵たちにも、挨拶する。
こうやって、積極的に挨拶して、コミュニケーションを取ることによって、連携を強めていこうとしてるのだ。
「おはようございます」
「おう、イケメンはいいなー、美女のナースに囲まれて」
「はは、そんなことないですよ」
「あ、ユウくんおはよう」
もう一人のナースが、丁寧に挨拶して来たので、こちらも丁寧になってしまう。
「あ、サーナさん、おはようございます……イブン先生は?」
「川で、顔を洗ってます」
「そうですか」
これからユウたちが行くのは、村の人々が、突然消失したことの調査だ。
危険が伴うので不安だが、しっかり自分の出来ることをしようと思うユウだった。
何故か二人のナースに腕を組まれ、困惑しつつ、自分達のテントに戻る。
昔からそうだった。女の子がやたらと腕を組んでアプローチして来ることがある。
嬉しいとは思いつつも、男子からはやっかみを受けるし、積極的な女性たちの思いに答えることが出来ないので、余計に申し訳ないなと思う。
「おお、ユウくん、おはよう」
「イブン先生、おはようございます」
「ふっ。若者はモテモテでいいなぁ。わしとも、イチャイチャしてくれんかのぅ?」
「先生、セクハラです」
「まだ、イケイケなんだ。凄いですねー」
軽く流されるか、注意されるかなので、イブンは悲しいが、これからのことを考えると、気を引き締めなければならない。
つづく




