つむじと駄菓子屋さん
雨だ。いつの間にか空は、真っ暗で、小雨が降って来た!
慌てて駆け出す私たちは、近所の駄菓子屋の軒先に駆け込んだ。
「…私が、雨女だからごめんね」
「ううん、気にしないで」
苦笑するハコちゃんに首を振る。でも、雨だと、影だけになるから、移動するには有利だけど、あまりやる気が出ない。
「うわっ!雨なのです!」
駄菓子屋の戸をそろりと開けて、覗いてるのは、つむじとミルクちゃん。
ミルクちゃんは、駄菓子屋の娘で、隣のクラスの猫族の女の子。真っ白できれいなの。
つむじの黒色と、対照的だね。
二人は、仲が良くて、よく一緒に駄菓子を食べているのだ。
そして、猫族は水に濡れるのが苦手なのだ。
「ささ、二人も中に入るのです」
「みんな大変ね。私は、近くて楽だけどにゃ」
そう言いながら、駄菓子と瓶のオレンジジュースを差し入れしてくれたよ。
「いいの?」
「うん、よく分からない学校行事だけど、遠い家の人には、頑張ってほしいにゃ」
「それに、ミカちゃんには、助けてもらったし」
つむじが言いかけてハッとする。そして、ごまかすように麩菓子をかじる。
「え?どう言うこと?」
まるで、覚えがない。みんな、何かを誤魔化すように、口笛吹いたりしてる。古典的なんだから。
「まあまあ、お菓子でも食べて!」
「あやしー」
「まあまあ」
なんやかんやで、お菓子を食べながらまったりする私は、ふと疑問を口にする。
「何で、こんなことになったんだろ?」
「ねー」
ハコちゃんは、ポテチをかじりながら頷く。
つむじたちも、もぐもぐしながらこっちを見る。
「スパイスなのです」
「…そうよ、スパイスよ」
「へ?」
「食べ物にも、退屈な毎日にも、スパイスが必要なのです」
そう言って、片目をつぶろうとして、両目をつぶってしまう。
「連れていかれた人も、次の日にはけろっとしてるしね」
私の台詞に、ちらっと目を反らすと立ち上がるつむじは、どこか慌ててる?
「僕は、そろそろ行かないと」
三時のおやつの時間と言うけど、今がそうじゃないの?
引き戸を開けた時、足元のでっぱりにぶつけて、こけそうになる。
「あわわわわ」
「危ない!」
思わず立ち上がるも、間に合わない。
「あわわ、僕のお菓子が!」
ばらまいてしまったお菓子を、拾おうとして、建物の影から外へ出てしまう。
すると、どこからともなくやって来たお化けが 、つむじをつかんで、引っ張ろうとするのを、ハコちゃんがつかみ、ミルクちゃんもつづく!
私も、慌てて助けようとするけど、膝を角にぶつけて、いた~~~い!おぅ!
うずくまってる間に、ズルズルと連れていかれる!
「あわわわわ!二人とも僕を放して!」
「いやよ、そんなの!友達を、見捨てられないにゃ!」
「そうよ、離しなさい!」
「うらめしや~!ルールは守らなきゃ!」
そう言ってハコちゃんたちを、優しく引き離すと、つむじを連れていく。
「ああ、僕のお菓子……みんなで食べてにゃ」
つむじは、こんな時でものんきに言うので、何だか力が抜けてしまう。
「私のせいだ。私が、しつこく聞いたから」
うつむく私に、ハコちゃんは首を横に振る。
「それは違うよ。このよく分かんない帰路のせいだよ!」
「私は、ちょっとは、あなたのせいだと思う」
「ミルクちゃん」
「でも、つむじは、そんなことでは、怒んないから、私も怒んない」
にっこり笑うと、外を指し示す。いつの間にか、雨は上がっていて、今の私たちに出来ることは、帰路に着くことだけだった。
ミルクちゃん、私に当たってもいいのに、優しいから。
「…じゃあ、私たち行くね」
「…バイバイ」
ミルクちゃんに、別れを告げて外に出れば、雨の世界は、終わりを告げて束の間の晴れ。
だって、ハコちゃん、雨女だから、遊ぶ時は、傘は欠かせないもん。
止まない雨は無いけれど、雨は降ったら冷たいのだ。
……て、あれ?この火の玉みたいな石ころは何かしら?
私が、拾おうとしてらあのお化けがやってきて、サッと拾って私たちを照らす!
「お化けクリスタルのことは、忘れるバケ」
「…お化け……クリスタル?」
気づけば、そこには誰もいなくて、私たちは、首をかしげる。
その時、私は気づかなかった。私の影から、何かが抜け出たことに。
ーつづくー
ーつづくー