恥晒しな彼女の中身
彼女は自分に何を伝えたかったのだろうと考えています。ずっとずっと考えてます。
自分は彼女の観せてくれた夢の意味を理解できませんが、なんとなくギリシャ神話のナルシスを思い出しました。
幼い頃から過真面目で、人に優しく自分に厳しく、成績は常に良好で品方向性、清廉潔癖なお嬢さん。
それが無個性な彼女を示す言葉だった。
出来て当たり前。
前より良くなっていて当たり前。
常に優しくて当たり前。
何があっても怒らない。
何があっても悲しまない。
だから周りの人間は麻痺したのだ。彼女が人間であることを忘れ、ただただ上を目指せと背中を押してはあたかもそれが良心からの行動であるかの如く微笑むのだ。
彼女は止まることが出来ず、実の親にも背中を押され、いつしか木々が生い茂り道行を阻む薄暗い峠をいくつも超えていた。最初は背中を押されて走っていたのだが、どうにも止まり方を忘れてしまったようでだんだん速度を上げながら頭の中で生まれたノイジーな心地良さに身を任せた。
その心地良さは彼女の乾ききった思考の大地を乱暴に揺らしながら勢いよく雨粒で穿ち、次第に自我の激流となり、ある日突然ドカンと彼女の中の何かを打ち砕いたのだ。
――ついに彼女は下り坂で笑いながら走りのスピードを最大まで上げたのだ。
彼女は派手な化粧をして、可愛さや清純さとはかけ離れた服を着て、適度に手を抜き、他人など存在すら忘れて自分の為だけの人生を握り締めた。
他人が失敗をすれば嘲り、気に食わなければ罵倒し、後ろ指を刺されても私は悪くないと鼻で笑った。
恥晒しの小娘、と声を潜められる頃には自分しかいない世界に彼女は立っていた。群れなす群衆は下界から呪いや恨みを喚き散らしてはなにかを投げつけてくるのだが彼女には何一つ届かない。それどころか下すら見ていなかった。
彼女は紛れもなく素晴らしく良くできたお嬢さん。学問に長け、運動に関しても類稀なる才覚を持ち、それらに見合った自信を持っていて当たり前だったのだ。
脳ある鷹は爪を隠すものだが、隠してもその素晴らしく研がれた爪が時に光を反射して見えてしまうこともある訳で、彼女の自信は余りにも過剰に羨望の光を反射してしまったのだ。
最初は煩く喚き散らしていた群衆も次第に彼女の才覚に対しての妬みや羨望を抱くことの無意味さを思い知り黙するようになった。最初から彼女は変わっていなかったのだ。過真面目な分、他人より出来る事が多く、良質であったために過剰なまでの自信があった。それらを当たり前だと評価する周りを無意識下で下等な群衆と位置付けて、お前らもここまで来てみろと頭の中で挑発していた。
過剰な自信を歪に固めて上品で優しい乳白色のオブラートで包んで他人に用意された菓子器の上に置いただけだ。他人は見た目の上品さに勝手な思い込みを抱いてゆっくり咀嚼すると、溶けたオブラートの中から溢れ出す刺激的な痛みにむせるのだった。そして、その痛みを厭うのだが、だんだんとそれを辛さだと認識し始め、それはそういう物だからと納得して、彼女の自信を受け入れざるを得なくなったのだ。
ようやく発見した彼女の中身はなんとも生臭くて恥かしい物だった。




