震える水滴
どちらかと言えば、体を預けられる壁が好き。
そこに椅子があれば嬉しく思う。
蛇口からは時間を伸ばすように水滴が落ちていく。
一瞬の無意識が運命に影響を与えるには、永遠を信じるしかない。
窮屈な居場所が当たり前になってしまって、帰る家の暖かさもわすれているのでは?
ここに背もたれはないから、控えめに今日の出来事を話そう。
掠めて通る人々が多いから、出来の悪い案山子は炎の夢を見る。
頼りがいのあるタバコに火を着けて。
ここに肘掛けはないから、大袈裟に明日の予定を考えよう。
タバコの煙を吐き出して、嫌われる理由を数えてみる。
さっきまで思わせ振りだった水滴が、報われぬ自尊心を連打する。
もう、忘れた。
どこまで数えたか?
躊躇いの代わりに嫌われる理由を刻みたいから。
煙幕の代わりにタバコを吸っている訳じゃないから。
ここは特等席ではないから、悲劇に脚色した昨日を記そう。
そう決めたから、目を開けた。
蛇口の先には、逆さに見つめる水滴が震えていた。