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第6章ー14

 9月30日、イシュニにおいて、ルーマニア軍とスペイン青師団の主な幹部は、クリミア半島を今後、如何に制圧するかについての会議を開いていた。


 何とも皮肉なことだ。

 この会議に出席しているアラン・ダヴー少佐は、そんな想いをせずにはいられなかった。

 南方軍集団を構成する諸国の中で、もっともクリミア半島制圧に積極的にならねばならないルーマニア軍の腰が一番重く、ある意味では足かせになっているとは。


 勿論、この場にいるルーマニア軍の最高司令官であるチュペルカ将軍やその司令部要員の熱意を疑ってはならないことを、ダヴー少佐と言えども弁えてはいる。

 だが、ルーマニア軍の現場の将兵の士気や練度は極めて低く、グランデス将軍以下の面々(ダヴー少佐も言うまでもなく積極的に協力した)が鍛え上げた、スペイン青師団の将兵の士気や練度とは比ぶべくもない状況というのが、現在の有様であり、俺たちの足を引っ張るな、とスペイン青師団の将兵は、ルーマニア軍を陰で軽侮する有様だったのだ。

 そのためもあり。


「我がルーマニア軍が、セヴァストポリ要塞攻略の任に当たりたい、と考えていますが、如何」

 チュペルカ将軍が、事実上、会議の冒頭でいきなり発言した。

「結構。我がスペイン青師団は、ケルチ海峡方面に向かい、ソ連軍の援軍を阻止する任務に当たりたい、と考えます」

 グランデス将軍は、すぐに答えた。


 南方軍集団を構成する4か国、仏伊西ルーマニアの中で、クリミア半島にいるソ連軍に最も脅威を覚えるのは、言うまでもなく黒海に面しているルーマニアの筈だった。

 だが、クリミア半島制圧に当たるルーマニア軍の腰は、実際には重くなるばかりだった。

 チュペルカ将軍の言葉は、少なくとも自らは積極的に困難な任務に当たろうとすることで、共に戦う友軍に対して、ルーマニア軍全てが消極的でないことを示すためであり、グランデス将軍も即答することで、間接的にチュペルカ将軍を応援したのだ。

 さて、何故にルーマニア軍の腰が重いのか。


 まず、最大の理由が、ルーマニアの政府、国民にとって、対ソ戦に参加した最大の理由であるベッサラビア地方が連合国側の占領下にあることだった。

 ルーマニアの国民の多数にしてみれば、このまま第二次世界大戦が終われば、ベッサラビア地方はルーマニアの領土になるのは確定的であり、これ以上の血を流したくないという想いをしていた。

 

 また、クリミア半島に展開しているソ連の海空戦力は、ルーマニアの多くの国民にしてみれば、大した脅威でない、と受け止められていることもあった。

 実際、クリミア半島を基地とするソ連の潜水艦や航空機は、ルーマニアに損害を与えてはいるが、全体的な戦況もあり、そう大きな損害を与えるものとは言い難い状況だった。


 だが、それよりも大きな理由が宗教問題だった。

 ルーマニアの国民の多くは、東方正教会の信徒である。

 対ソ欧州本土戦に突入して以来、大量のソ連の国民が、特に東方正教会の信徒が亡くなっている、という現実が巻き起こっている。

 そして、一部の連合国側の政治家(ムッソリーニ等)は、連合国軍を現代の十字軍だ、と積極的に主張する有様である。


 ユーゴスラヴィアやギリシャ、ブルガリアといった東方正教会の信徒が多数を占める国々でも、現代の十字軍を唱える連合国側に積極的に加担するな、という国民の声が徐々に高まりつつあるのだ。

 こういった事情から、ルーマニア軍は積極的に連合国軍に加担しようとする意欲を失いつつあった。

 上記のような事情から、グランデス将軍は、ルーマニア軍とスペイン青師団が、事実上は別行動を採る提案をルーマニア軍のチュペルカ将軍に対して、積極的に行った次第だった。

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