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第6章ー9

 レヴィンスキー将軍が、懸命に英軍に忠告を行ったこともあり、スモレンスク前面への速やかな後退に英軍上層部は、ようやく同意した。

 だが、この後退の遅れは高くついた。

 スモレンスク前面に中央軍集団が防衛線を張るのに、ソ連軍が反攻を開始してから10日余り掛かってしまい、充分な防衛線を築けた、と胸を張れる状況では無かったのだ。


「ポーランド軍とソ連軍の戦車部隊の激突か」

 ヤルゼルスキー軍曹は、自分が乗る戦車(?)の中で溜息が出る想いがしていた。

 1939年の開戦から3年余り、二等兵から昇進を重ね、気が付けば軍曹にまで昇進している。

 あの時、祖国ポーランドから戦友と共に命からがら逃げだし、フランスにたどり着き、そして、祖国解放を目指して戦い、祖国の解放を果たすことが出来た。

 だが、まだ戦争は終わらない。


 自分は今でも騎兵部隊の一員だが、今、自分が乗っているのは、20世紀の鉄騎兵、戦車だ。

 ポーランドも他の国々と同様に、騎兵部隊を戦車部隊に徐々に改編しつつあるのだ。

 

 この1942年当時、実はポーランド軍は、まともな旋回式の砲塔を備えた57ミリ(6ポンド)級以上の主砲を装備した戦車を保有していないと言っても、そう間違いではなかった。

 幾ら米国というパトロンが連合国にいるとはいえ、そうそう戦車等が量産できる訳が無い。

 自国の軍が最優先であり、ポーランド軍に回ってくるのは、いわゆる訳アリ戦車ばかりだった。

 そして、ヤルゼルスキー軍曹が乗っているのは。


 チェコ製のLT-38戦車に、オープントップの簡易装甲を張り巡らせ、ドイツ製の75ミリ対戦車砲を搭載した砲戦車だった。

 この場にいるポーランド軍が装備している装甲車両の中では最高の対戦車能力を持ち、1000メートル離れていても、この主砲は、T-34戦車どころか、KV戦車も撃破可能と推定されている。

 その代償として、装甲はペロンペロンのために弾片防御が精一杯で、主砲の旋回もできない。

 チェコ軍が積極的にポーランド軍に協力できない代償として、半分裏工作まで駆使して国産、量産化したこの砲戦車を、ポーランド軍に提供してくれたらしいが、もうちょっとまともなのは無かったのか、とヤルゼルスキー軍曹としては言いたかった。


「来たな」

 このチェコ製砲戦車はこの場に4両あり、砲戦車小隊を構成している。

 傍で共闘する味方の歩兵大隊にしてみれば、最良の対戦車の戦友だ。

 敵戦車が1000メートル以内に入り次第、主砲発射、速やかに予備陣地に移動を繰り返すしかない。


「撃て」

 チェコ製の照準器が優秀なお陰で、初弾命中を果たすことが出来、ソ連軍の(恐らく)T-34戦車を炎上させることに成功するが、すぐに移動しないと敵の報復射撃で、自分がすぐにやられる。

 ヤルゼルスキー軍曹は、砲戦車の車長として、懸命に指揮を執り、何とか生き延びることが出来た。


 ポーランド軍戦車部隊は、他にも英軍から譲渡されたマチルダ歩兵戦車等を装備している。

 だが、そんな感じで微妙な戦車ばかりだ。

 これでソ連軍のT-34戦車の集団と渡り合う等、ポーランド軍の戦車乗りにしてみれば、勘弁してほしいという事態だった。


 だが、幸いなことにハリケーン戦闘爆撃機等、連合国側の空軍戦力が奮闘してくれた(戦線が西方に移動したために、連合国側の空軍戦力が展開している飛行場等との距離が縮まり、支援が容易になった)為に、ポーランド軍は英軍と協同して、ソ連軍の攻撃をスモレンスク前面で阻止することに何とか成功できた。

 レヴィンスキー将軍曰く、

「ソ連軍の反攻に本当に何とか耐えれたか。だが、この結果からすれば、今年中のモスクワ陥落は無理だ」

 と半ば慨嘆する結果だった。

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