第6章ー8
「やれやれだな。救援作戦発動というのは気が重いものだ」
ポーランド軍のレヴィンスキー将軍は、そう言いながらも、内心を隠せず、少し口元をほころばせていた。
だから言ったではないか、スモレンスクを容易にソ連軍が放棄する筈がない。
罠の公算が高い、と。
英軍の苦戦は、自業自得だ。
「英軍の行動は渋々と言った感じで、動きがかなり鈍いようです」
参謀長のソサボフスキー将軍は、集めた情報を整理して、そのようにレヴィンスキー将軍に報告した。
「いかんな」
「やはり、いけませんか」
二人は、そうやり取りをした後、更に突っ込んだ会話をした。
「重装備を捨てて、人員を救うことを第一に考え、速やかにスモレンスク前面まで英軍は撤退、集結を図るべきだ。我々が撤退の援護をするから、そのように行動するように英軍に対し、意見を具申しろ」
「英軍の機嫌を損ねませんか」
「それくらい言わないと、ジョンブルが、我々の意見を聞くものか」
「確かに、英軍は頑固ですからな」
レヴィンスキー将軍の主張に、ソサボフスキー将軍は納得せざるを得なかった。
「それに自分自身、ソ連、ロシアの泥将軍の猛威を少し甘く見ていた。トラック等の車両類が、軒並み泥にはまり、中々動かない事態が多発している。こうした状況からすれば、実際問題としては、人を救うことを第一に考えざるを得ない」
レヴィンスキー将軍は少し声を落とし、ソサボフスキー将軍に状況を説明した。
実際、ポーランド軍も東欧の国として、ソ連、ロシアの道路の実情を把握していた筈だった。
そして、敢えて旧式の荷馬車まで購入、それを駆使しての非常時の輸送計画を立てていたのだが、実際にやってみると、思いの外、上手くいっていないのだ。
勿論、泥の海は、敵味方双方に有利にも不利にも働くものだ。
だからこそ、ソ連軍の反攻が、いわゆる機動戦というには微妙な展開で、英軍の戦線が徐々に圧迫されているという現状があるのだ。
「それこそ、機動力の不足を補うために、ポーランド騎兵が下手をすると、ソ連軍の戦車部隊と最前線で戦う羽目になりかねない。幾ら勇敢をもってなるポーランド騎兵とはいえ、戦車に突撃させる等、自殺行為もいいところだ」
現在、ポーランド軍は機動力不足を少しでも補うため、後方警備部隊として、一部、本当に馬を使う騎兵部隊を維持している。
レヴィンスキー将軍は、それも引っかけて、ソサボフスキー将軍に現状を説明した。
「成程、そう言う現状でしたら、スモレンスク前面に英軍の後続部隊と協同して、我々は防衛線を築き、英軍の先鋒部隊の退却を支援するあたりが妥当でしょうな」
レヴィンスキー将軍の説明を聞き、ソサボフスキー将軍は得心した。
「ともかくスモレンスクまで奪還されては、さすがに外聞に関わる。我々の前面で反攻を試みているソ連軍の総兵力は、約150万人といったところらしい。主力となる英軍とほぼ同数、更に英軍が混乱、苦戦している以上、それを立て直した後でないと、我々は進撃できない」
レヴィンスキー将軍は想いを巡らせた。
中央軍集団は、約300万人の兵力を擁してはいるが、実際に最前線で戦えるのは、英軍と我々、ポーランド軍併せて約200万人と言ったところだ。
ハンガリー軍はそもそも不穏分子で、半ば人質として我々と行動している。
チェコ軍に協力を要請したが、ハンガリー軍監視の必要があるとして、やんわりと断られた。
実際、ハンガリー軍の行動を見ると、その必要性は否定できない。
また、ユーゴスラヴィア軍も、主力となるセルビア人が東方正教会の信徒であること等から、連合国軍に非協力的な態度を執りつつある。
レヴィンスキー将軍は、中央軍集団の現状に頭を痛めた。
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