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第6章ー5

 実際問題として、この時の英陸軍は、多少、調子に乗っていた、と後で批評されても仕方なかった。

 スモレンスクを放棄する、というソ連軍の行動に、英陸軍上層部は違和感を覚えなかった。

「南北両面からの攻撃により、ソ連軍の包囲殲滅を、中央軍集団が図ろうとしているのに対して、それを避けるために早期の撤退をソ連軍は行ったのだろう」

 そう判断するのが、中央軍集団司令部を主に構成する英陸軍上層部の大方の意見だったのだ。


「ポーランド陸軍のレヴィンスキー将軍から、スモレンスクをソ連軍が容易に放棄するのはおかしい、ソ連軍が罠を仕掛けているのではないか、と懸念する意見が挙げられていますが」

 という連絡に対しては、

「スモレンスクを放棄する、ということは、それだけ連合国軍のソ連欧州本土侵攻作戦発動以来の損害が、ソ連軍にとって重大だった、ということだ。スモレンスクは、ある意味、西方からモスクワに向かう際には、モスクワの門番と言える都市だ。そんな都市を、戦力があるのにソ連軍が放棄する筈がない」

 そう答えるのが、いつの間にか、英陸軍上層部の通例になってしまった。


「やれやれだな。破滅への路を、英陸軍は突っ走っているようだ」

 レヴィンスキー将軍は、この頃の英陸軍の態度を、そう評価せざるを得なかった。

 実際問題として、表面上の戦果は、英陸軍の判断を肯定している。

 ソ連軍の防衛線を突破した英陸軍の快速部隊は、ソ連軍の第二線、第三線防衛線を、バターをナイフで切り裂くように突破している。

 だが。


「余りにも、これだけ中央軍集団が進撃している割には、ソ連軍の損害が少なすぎる気がしないかね」

 レヴィンスキー将軍は、参謀長のソサボフスキー将軍に口頭試問を行う教官のように尋ねた。

「確かに、中央軍集団がこの第二次攻勢を開始して以来、ソ連兵で戦場に遺棄された死体や、中央軍集団が確保したソ連兵の捕虜は10万人には到底足りません。我が軍の前面にいるソ連軍は、少なくとも100万人はいる、と見積もられていた筈です。順調にソ連軍の戦線を崩壊させ、ソ連軍に損害を与えているのなら、少なくとも10万人以上、恐らく20万人以上の死者、又は捕虜がソ連軍に出ている筈です」

 ソサボフスキー将軍は、そう答えて、レヴィンスキー将軍は、それに無言で肯いた後で続けた。


「そして、英陸軍は自軍の功績を挙げようと、英陸軍だけで前へ出ようとしている。実際問題として、自動車化、機械化が中央軍集団の中で進んでいるのは、英陸軍だけだから、ある程度はやむを得ない話だが」

「確かにその通りです。我がポーランド軍等は、完全に英軍の後塵を拝する有様です」

 レヴィンスキー将軍とソサボフスキー将軍は、そうやり取りをした。


「つまり裏返せば、ソ連軍は中央軍集団を自然に分離して、各個撃破できる好機が生まれつつあるということになる。しかも、中央軍集団の主力の英陸軍は、その危険に気が付いていない」

 レヴィンスキー将軍は、そう総括して、ソサボフスキー将軍は、それを肯定せざるを得なかった。


「ところで、どの辺りでソ連軍は反撃に転じる、と推測されておられるのですか」

「ヴィヤズマに英陸軍が近づいた頃だな。その頃には、英陸軍も更に先鋒部隊の戦力をやせ細らせていることになるだろうから。また、さすがにそれ以上に下がっては、ソ連政府も自国民に対する後々の言い訳に困ることになるだろう」

「成程、確かにその辺りが臭いですな」

 レヴィンスキー将軍の推測は、ソサボフスキー将軍にも納得できるものだった。


「英陸軍を救援して、スモレンスクを確保できるように、我々は奮闘しようではないか」

「そういたしますか」

 二人はそう会話を交わした。

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