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第1章ー9

 川本泰三中尉を先頭とする岸総司大尉率いる海兵中隊は、奮闘の末に敵陣地を完全に制圧し、生き残っていた兵を投降に追い込んだ。

 敵陣地に籠って応戦してきていたのは、1個小隊にやや欠ける程度の独歩兵だったが、その内の半数近くが死傷した段階で、生き残りの最先任下士官が投降する旨を訴えて来たので、岸大尉はそれを受け入れた。

 更に川本中尉らが陣地内を捜索したところ、大量の死体や重傷者が見つかった。

 それで、岸大尉が、何があったのか、疑問に思い、その下士官を簡単に尋問したところ。


 本来は陣地全体を歩兵1個中隊で守っていたらしいが、事前に行われた艦砲射撃や空襲により、大量の死傷者を出し、生き残った兵だけで守っていたらしい。 

 そして、撤退の可否を上級司令部に問い合わせたが、通信網が寸断されているようで、上級司令部と連絡がつかなかった。

 それで、このような事態が起こっていたらしい。

(らしい、が多いが、下士官も中々、素直には話さず、岸大尉の独語も、かなり片言に近かったので、このような理解になった)


 そして、自らの中隊の現状を確認したところ、

「1名戦死、5名が重軽傷か」

 岸大尉は、内心で呟いた。

 上陸作戦の困難さを考えれば、成功したと言えるだろう。

 結果的には、自らの中隊は対ソ戦の初陣で勝利を収めることが出来た。


 更に周囲を見渡せば、第一陣部隊の上陸作戦は、ほぼ同様に終わりつつあるようで、第二陣部隊の戦車部隊等の揚陸が始まろうとしている。

「土方中尉らも上陸してくるな」

 そうなれば、戦車部隊も揃い、独ソ軍に対して、かなり強力な部隊が、リガ近郊に出現することになり、それでリガ市を確保できれば。

 第一段階は成功だな、気が早いと思いつつ、岸大尉はそこまで考えていた。


「防須少尉、何か思うところがあるのか」

「分かりますか」

 第二陣部隊の一員として、土方中尉は揚陸準備に取り掛かろうとしていたが、防須正秀少尉が屈託ありげにしているのが、目に入ったため、思わず声を掛けていた。


「いえ。本当に自分達はバルト海での上陸作戦に参加しているのだな、と思いまして。更に、英海軍の援護射撃の下、上陸作戦を展開する日本海兵隊の一員として、インド人の血を承けた自分がこの場にいることが何だか不思議で」

「確かに、そう言われてみれば、その気持ちは分かるな」

 防須少尉の父は、言うまでもなくインド人のラース・ビハーリー・ボースである。

 その息子が、日本海兵隊の一員として、バルト海上陸作戦に参加しているとは。

 人生の不思議さ、というものの現われの一つのように、土方中尉にも思えてきた。


 だが、そういったことに気を取られ過ぎては。

 土方中尉は頭を振って、自らにも言い聞かせるつもりで、防須少尉に言った。

「だが、目の前のことを今は考えよう。無事に揚陸が済み次第、独ソ軍の反撃が始まるだろう。それの応戦準備をまずは整えねばな」

「確かにそうですね」

 防須少尉も、顔の表情を引き締めながら言った。


 日本海兵隊の上陸作戦は、基本的にこのような感じで順調に進んだが、米海兵隊の上陸作戦は、苦戦を強いられる羽目になった。

 これには幾つか原因がある。

 まず、第1の原因は、独ソ軍が、西方から侵攻してくる連合国軍に対して、西ドヴィナ河を防衛線と考えたことから、リガ市の東部に比較的大規模な部隊を配置していたことだった。

 第2の原因は、結果的に日本海兵隊の方に潤沢な砲爆撃の支援が行われたことだった。

 当初は、英艦隊による全般的な露払いが行われた後、日本海兵隊を日仏伊の三国連合艦隊が、米海兵隊を米艦隊が支援する筈が、ルフヌ島の戦いにより、英艦隊は日本海兵隊の支援に結果的に向けられてしまったからである。

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