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第6章ー2

 もっとも、スペイン陸軍の兵士用の外套が、何とも皮肉なことにアラン・ダヴー少佐の持っているフランス陸軍佐官用の外套よりも防寒性能において勝っているのも事実だった。

 幾ら何でも、欧州各国の陸軍の防寒外套で、本格的なソ連の寒さに対応できる外套を装備している国は数少ない存在になる。


 中でも伊陸軍上層部は、

「極寒のアルプス山脈の中でも耐えられる世界最高峰の防寒外套を我が軍は装備している」

 と半年程前には豪語していたが、実際のこのソ連の寒さの前に、前言を撤回して、

「これ程の寒さは想定されていなかった」

 と事実上の敗北宣言をして、他の連合国軍の上層部に陰で失笑される始末だった。


 だが、スペイン陸軍(青師団)は、ダヴー少佐の裏工作もあり、シベリアでの冬季戦を長年にわたり、真面目に考慮してきた日本軍の防寒装備を参考にして積極的に導入していた。

 また、スペインは知る人ぞ知る、世界の羊毛界における羊の大品種メリノ種の原産国でもあり、お国自慢になる国産ウールをふんだんに使った防寒装備を調えられたのである。

 それもあって、仏伊、ルーマニアといった他の南方軍集団の面々が羨む防寒装備を、スペイン青師団は装備することに成功しており、ダヴー少佐はその役得を活用していたという次第でもあった。

 それはともかくとして。


 少し気まずい空気が流れたことから、ダヴー少佐は、別の話をフリアン曹長に振った。

「ともかく、クリミア半島をほぼ制圧し、更にケルチ半島のこの場所に、現在の我々は立つことができた。そして、この寒さの中で、ソ連軍の攻撃を阻止できている。胸を張っていいことではないかね」

「そうですね。確かに胸を張れますね」

 フリアン曹長も、幾ら長年にわたり、気心の知れた上官とはいえ、少し立ち入り過ぎた、と思っていたのだろう、ダヴー少佐のあからさまな話の切り替えに乗ってきた。


「更に言えば、先日、レニングラードが、我が北方軍集団の手に落ちた。どうも色々と問題が起きているようだが、今となっては取り返しがつかないことばかりのようだ」

 ダヴー少佐は、それとなくかなりまずいことが起こったことを、フリアン曹長に示唆し、フリアン曹長は思わず息を呑んでしまった。


 先日、日本軍が、戦場に遺された民兵を含むソ連兵の遺体を火葬にしたことで大問題が起きたことは、フリアン曹長の耳にまで届く有様だった。

 ダヴー少佐と同様、フリアン曹長も「白い国際旅団」の一員だったし、日系仏人である。

 父の国である日本への思い入れは強いものがあった。


 何が起こったのか、フリアン曹長は思わず、ダヴー少佐を問い詰めたくなったが、ダヴー少佐は更に話を切り替えてしまった。


「中央軍集団も、南方軍集団も奮闘を続けているが、来春までは守勢に切り替えざるを得ないだろう。何しろこの寒さだ。こんな厳寒の中で攻勢を執るのは、ソ連軍ならやれるだろうが、我々はやれない話だ」

 ダヴー少佐の言葉に、フリアン曹長は無言で肯くしかない。


 ソ連欧州部において、クリミア半島は相対的にだが、暖かい地方の筈である。

 それなのに、そのクリミア半島でさえ、最高気温が氷点下、最低気温に至っては零下30度の極寒になることが、冬季にはあるのだ。

 だから、それより北の欧州部において、ソ連軍に比較して寒さに弱い連合国軍が冬季に攻勢を発動するのは自殺行為だと、上は連合国軍最高司令官であるアイゼンハワー将軍から下は末端の新兵までが判断しているという現状だった。

 誰しも、ナポレオンのロシア遠征の二の舞を演じたくはないのだ。

 春まで我々は攻勢を執れない、防御に徹するしかない、というのが、連合国軍全体の見解と言ってよいのが現状というものだった。

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