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第6章ー1 対ソ欧州戦線における第二次攻勢(中央及び南方戦線)

 第6章の始まりになります。

 11月22日の昼、アラン・ダヴー少佐は、スペイン陸軍の兵士用の外套を羽織って、最前線の視察に赴いていた。

 ダヴー少佐が、士官用の外套を持っていない訳ではない。

 妻カテリーナが見立てた新品のフランス陸軍の佐官用の外套が手元に届いているし、それこそ4年前に仕立てたフランス陸軍の尉官用の外套も、まだまだ現役だった。

 だが、自分の現在の立場、スペイン青師団の広報参謀という職務から考えるならば、フランス陸軍の士官用外套を着て出歩くことは躊躇われるものがあった。

 それに。


「スペイン兵の間で噂が流れていますよ。兵士の外套を着ているから、と言って、見知らぬ兵に気を許すな、実は高級士官が抜き打ち査察に回っているとね」

 腹心の部下であり、似たような立場でスペイン陸軍に出向しているフリアン曹長が、共に歩きながら、そっとダヴー少佐にささやいた。

 フリアン曹長が共にいるのは、ダヴー少佐の陰の護衛としてだった。

 最前線に赴く以上、護衛は必要不可欠だ。


「自分には、そんな気は無いが。兵士の声に耳を澄ますのに格好だと思っただけなのだがな」

「兵はそんなふうには想いませんよ。それにしても、何かあったのですか」

 ダヴー少佐の言葉に対し、フリアン曹長は質問を発した。


「どうしてそう思う」

「いえ、兵士の外套を着ているのが、私にとっても不思議で、理由を教えていただけたら、と」

「兵士の声に耳を澄ますためと、最前線の視察の際に狙撃を避けるためだ」

 ダヴー少佐は、建前上の理由を通すことにした。


「分かりました」

 ダヴー少佐の答えを聞いたフリアン曹長は、それ以上に問い詰めても、本当の答えが得られないと判断したのか、そう言った後、周囲を警戒するふりをして、ダヴー少佐から目をそらしながら、独り言を呟いた。

「奥さんの外套を大事にしてくださいよ。別の女性を愛人にしたみたいだ」


 ダヴー少佐の妻カテリーナは再婚であり、初婚の相手、ドゼー中佐はスペイン内戦時に「白い国際旅団」の中隊長として戦死した身だった。

 その時、ダヴー少佐もフリアン曹長も、ドゼー中佐の部下だったのだ。

 それを知っているフリアン曹長は、それも引っかけて、独り言を言っていた。


 その言葉に、ダヴー少佐は胸に刺さるものを感じた。

 このスペイン陸軍の兵士用の外套は、ある意味で特別な品だった。

 スペイン青師団は、表向きは義勇兵だが、実際にはスペイン陸軍の部隊と言ってもよいくらいだった。

 とは言え、表立ってスペインの国家予算から、スペイン青師団の経費をそうそう出す訳には行かない。


 そうしたことから、対ソ戦争に志願した義勇兵を応援しよう、ということで様々な募金活動等が、スペイン国内で行われており、その募金活動で買われた外套だったのだ。

 こういった場合、募金活動を行った団体等の名前が、外套には入っているのだが。

 ダヴー少佐の外套には、

「バレンシア、饗宴」

 と入っていたのだ。


 さすがに娼館とは入っていないが、分かる人には分かる名前だった。

 フリアン曹長は、ダヴー少佐が利用したことがある程度にしか思っていないが、ダヴー少佐にしてみれば、自分の子を身籠ったカサンドラがいた娼館であり、つい、その思い出に惹かれたことから、この外套を見つけた際に、佐官の権限を半ば乱用して、自分のものにしたのだ。


 ダヴー少佐は、フリアン曹長とのやり取りで、そのことにあらためて想いを馳せた。

 あの時の自分の子は、男か女かも分からないままだ。

 あれから4年余りの歳月が経つのか。

 カサンドラは、今はどうしているのだろうか。

 そう言えば、姓を知らないままに彼女とは別れてしまった。

 できれば彼女と自分の子を探し出したいものだが、今となっては難しいだろう。

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