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第5章ー22

 ソ連軍が、レニングラード市街の外周部を護るために築いた、いわゆる外郭陣地を巡る攻防戦は、結局、丸2日程続くことになった。

 いわゆる戦場掃除(敵味方双方の遺体の処理や、負傷者の救護等の任務)をする必要が生じ、また、兵士の心身の疲労も生じたことから、10月22日になってから、レニングラード市街に突入しての市街戦を連合国軍の兵士は挑むことになった。

 勿論、こうした状況を、ソ連軍が座視する訳が無かった。


「レニングラード市に対する救援作戦を、ソ連軍最高司令部は発動した模様です」

 10月21日の朝、土方歳一大佐は、米第9軍司令部からの電文情報を読んで、少し慌てて、総司令官である北白川宮成久王大将らに報告する羽目になっていた。

 レニングラード市街の外郭陣地は、徐々に崩壊しつつあり、今日中に制圧できる、と日本の遣欧総軍司令部は判断していた。

 だが、ソ連軍の本格的な救援作戦が発動されたとなると、そちらに一部の兵を向けるべきではないか。


「心配することは無い。米第9軍や米第1軍、米第5軍が連携して対応してくれる。我々が後ろを向く必要は全く無い」

 それを聞いた参謀長の石原莞爾中将は、即座に言い放ったが、北白川宮大将は、少し黙考した。

 腹背の敵に同時に対処する、というのは本来の兵法から言えば、厳に避けるべきことだ。

 しかし、石原中将が言う様に、米軍にはかなりの予備兵力が控えている。

 それを考えれば、後ろを我々が気にする必要は無いというべきか。

 だが、友軍同士の義理、というものがあることから考えるならば。


 その少し後に駆け込んできた続報が、結果的に北白川宮大将の迷いを断ち切った。

「アイゼンハワー将軍からの命令です。日本軍と米第3軍、及びフィンランド軍主力は、レニングラード市街制圧を最優先として行動すべし、とのことです。ソ連軍のレニングラード救援作戦には、残余の部隊が対処するとのことです」

 通信士官が、少し息を切らせて言った報告を聞き、北白川宮大将は断を下した。 


「日本軍は、レニングラード市街制圧任務を引き続き遂行する。アイゼンハワー将軍に、そのように速やかに打電するように」

 北白川宮大将は、通信士官にそのように命じ、石原中将らにそれに対応した作戦を立てて、遂行するようにと命じた。

 

 実際問題として、このソ連軍の救援作戦は決してなおざりにできるようなものではなかった。

 ソ連政府、軍としても、レニングラードに対する救援作戦を全く発動しないまま、レニングラードが陥落するという事態が起きては、ソ連の国民に対して幾ら宣伝を尽くしても、ソ連政府、軍に対する信頼が大幅に低下するという事態が起きることが分かっている。

 そのために約15個師団を各所から駆り集めて、レニングラードに対する救援作戦をソ連軍は行った。


 このソ連軍の攻勢に対応する米第9軍の兵力は、約10個師団と言ったところで、大雑把に言って兵力的には2対3の劣勢だったが。

 ヴォルホフ河を主な楯とする堅陣を構えて、ソ連軍の攻勢に対処する米第9軍の前に、ソ連軍の攻勢は難戦を強いられる羽目になった。

 特にソ連軍の悩みになったのは、戦場の航空優勢が欠けていたことだった。


「自分達は制空戦闘機の部隊では無いのだがな」

 そう口先ではぼやきつつ、実際には笑みを浮かべて、林喜重少尉は、愛機の雷電を操って、Il-2襲撃機狩りに勤しんだ。

 他の雷電乗り達も、ほぼ同様の態度だった。


 ソ連軍が攻勢を取るとなると、Il-2襲撃機の支援は必要不可欠と言って良かった。

 だが、雷電の火力等は、Il-2襲撃機にとっては、この頃でさえ疫病神であり、林少尉らはIl-2襲撃機を陰でカモ呼ばわりする有様だったのである。

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