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第5章ー21

 10月19日早朝から、連合国軍の嵐のような砲爆撃が、レニングラード外周部のソ連軍陣地に対して大量に降り注いだ。

 その日の昼前までに、ソ連軍のかなりの陣地が砲爆撃の効果によって破壊されたと判定されて、日米フィンランド軍等は、レニングラードへの直接攻撃を開始した。


「戦車と歩兵の連携を忘れるな」

 土方勇中尉は何度目かの注意を部下にしつつ、零式重戦車に搭乗して、ソ連軍陣地への攻撃を開始した。

 対戦車用、対人用地雷が、ソ連軍の陣地前に地雷原として大量に埋設されていることについて、自分は覚悟を固めている。

 事前の砲爆撃で、かなりの地雷が破壊されていることを、後は自分は祈るのみだ。


 更に厄介なことに、これまでの天候や砲爆撃の影響によって、ソ連軍の陣地前は、完全に泥の海と言って良い状況になっている。

 泥の海なので、各種地雷が作動しにくくなる代わりに。


「足回りが泥に取られます」

 操縦手からの半ば悲鳴のような報告がなされる。

「少しでも良さそうなところを見極めながら進め」

 自分でも半ば無理を言っている、とは思ったが、土方中尉としては、そう言って進むしかなかった。


 泥の海に悪戦苦闘しながら、ソ連軍陣地に、日本海兵隊の各部隊が躍り込み、ソ連兵に対して、白兵戦を挑もうとするが、多くの兵が、一瞬、躊躇った。

 何故なら。


「外郭陣地には民兵隊を配置していたのか」

 部下と共にソ連軍陣地に躍り込んだ岸総司大尉は、吐き気が出るような想いがした。

 女性や老人、10代の若者を最前線送りにする等、本来は許される話ではない。

 だが、強制されたのか、自ら志願したのかは分からないが、女性や老人、若者と言えど、こちらに銃を向けている以上は。


「容赦なく撃て。死にたくないのなら」

 部下の兵の躊躇いを捨てさせるため、敢えて岸大尉は怒号する。

 実際、民兵隊に入って、武装している以上、相手が女性と言えど、武器を捨てて投降しない限り、こちらは攻撃しても構わない筈だ。

 岸大尉の怒号を受けて、部下は躊躇いを捨てて、民兵に対する銃撃、また、突撃を開始する。

 それでも、多くの民兵が退却しようとしない。

 退却しようとすると。


「狂っている」

 泥の海に足回りを取られたことから、結果的に遅れて、ソ連軍陣地にたどり着いた土方中尉は、そう言わざるを得なかった。

 退却しようとする民兵ごと、容赦なく後方のソ連軍陣地から、機関銃による銃撃や迫撃砲による砲撃が試みられるのだ。


 日本空軍等による戦闘爆撃機部隊が、後方のソ連軍陣地に銃爆撃を行うことで、制圧を試みる一方で、砲兵隊も、後方のソ連軍陣地の制圧砲撃を試みる。

 土方中尉も、個人的な怒りもあり、後方のソ連軍陣地に主砲弾を浴びせることにした。

 土方中尉の登場している零式重戦車は後期型で、ソ連軍の野砲連隊が装備しているM1936野砲を、スペイン内戦の経緯から日本が入手し、(表向きは参考にしただけだが)事実上は国産化した砲を主砲として搭載している。

 だから、ソ連軍陣地への制圧効果は、それなりのものがあった。

 更に、土方中尉の行動を見た他の日本戦車も、同様の行動を取るようになる。

 そうなると、後方のソ連軍陣地も日本軍の攻撃の前に制圧されつつあるようだ。


 こういった状況を見て、武器を捨てて、投降の路を選ぶ民兵が複数出だした。

 一度、そのような者が出だすと、周囲の者からもそれにならう者が、徐々に増えていく。

 岸大尉は、完全に武器を捨てて、両手を自分達の目に見えるところに出した民兵に対する攻撃を止めるように指示を出し、周囲の士官達も、同様の指示を相次いで下した。

 

 こういった光景は、同じ日に米軍やフィンランド軍の攻撃が行われたところでも見られたものだった。

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