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第5章ー20

 嵐のような空襲(?)が、昨日、10月17日は行われた。

 だが、レニングラードからの応答は全く無い、と言っても過言では無かった。

 レニングラード市街を望もうと思えば望める地点にまで前進していた日本遣欧総軍司令部は、その情報を重く受け止めざるを得なかった。

 いや、日本遣欧総軍司令部以外、米第3軍司令部やフィンランド軍総司令部といった面々も、同様に重く受け止めざるを得なかった。


「爆撃を行う代わりに、大量の伝単を撒いて降伏勧告をしたが、全くの無駄だったという事か」

 参謀長の石原莞爾中将が重い口調で言い、その言葉に多くの参謀が無言で肯かざるを得なかった。

 肯いた参謀のほとんどが、本音では何か言いたかった。

 だが、何を言おうとも、現実が変わらない、という重みの前に沈黙してしまったのだ。


「やむを得ない。レニングラードに対する最終攻勢の作戦計画を発動せざるを得ない」

 遣欧総軍の最高司令官である北白川宮成久王大将が発言した。

 実際問題として、ほぼ不眠不休で各国軍の作戦計画のすり合わせが進められた結果、それは十二分に完成しているといって良い。

 また、フィンランド軍総司令官のマンネルハイム元帥や、米第3軍司令官のパットン将軍も承認しており、連合国軍最高司令官のアイゼンハワー将軍からも承認を受けたのだ。

 その作戦計画を、今更、発動しない、という選択肢は基本的に無い筈だった。

 それでも。


 本音では、レニングラードに対する最終攻勢の作戦計画発動は、この場にいるほぼ全員が、やりたくないものと言って良かった。

 もし、発動された場合、レニングラードが更地になるのは、ほぼ確実、とこの場にいる面々の多くが見ていたからだ。

 そして、どれだけの民間人が犠牲になるのか等、考えたくもない、とほぼ全員が考えていた。

 

 それなら、レニングラードに対する最終攻勢を発動しなければよい、と言われそうだが、遠巻きにレニングラードを攻囲するだけ、というのも、大量の民間人を犠牲にすることに変わりはなかった。

 これまでの経緯からして、ソ連政府は市民を盾として、宣伝等に駆使するだろう。

 レニングラードが攻囲されたままでは、冬季になるにつれて食糧や燃料の欠乏が進行し、大量の市民が飢餓や寒さに苦しみ、餓死や凍死が大量に発生し、ソ連政府は、市民を苦しめる連合国政府の悪逆非道ぶりを宣伝するのは間違いない。


 また、第二次世界大戦勃発から約3年が経ち、米国の国内等では、第二次世界大戦が長引いていることから、厭戦感情が徐々に広まりつつある。

 更に、これまでの戦争で、米国の民間船舶等に被害は出ているが、米国の国土自体が独ソ中に攻撃されたわけではない以上、そろそろ講和をしてもいいのでは、という声が、厭戦感情の高まりに伴い、米国の国内等で高まりつつあるのだ。


 そうした中で、大量の市民、民間人に犠牲が出かねない作戦を長期にわたり、連合国軍側は採用する訳には行かなかった。

 だから、芝居じみたやり取りまでして、レニングラードに対する強攻策が採用されたのだが。

 そうは言っても実際に作戦を発動するとなると、最高司令官の北白川宮大将でさえ、レニングラードの市民に大量の被害が出るのが確実である以上、気が重いのだ。

 だが、発動しない訳には行かない。


「前線部隊に、明日、10月19日早朝から砲爆撃を始め、昼前には総攻撃を開始すると伝えるように」

 北白川宮大将は、最終決断を下した。

 通信士官が、その旨を米軍やフィンランド軍等に伝える。

 しばらく経つと、米第3軍やフィンランド軍からも同様に攻撃を加える旨の連絡が相次いで届いた。


「最早、引き返せなくなった」

 そう会議の場にいた面々は、そう無言のまま思った。 

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