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第5章ー19

 10月15日、地上では泥濘が更に酷くなっており、陸軍部隊等が自在に機動作戦を展開することは困難な話になっていたが、ここでは全く関係が無かった。


「行くぞ」

 バルト海を航行する日本海軍の誇る空母機動部隊の一角を占める空母「瑞鶴」からは、零式艦上戦闘機部隊が、納富健次郎大尉の号令の下、相次いで飛び立った。

 言うまでもなく、彼らの任務はソ連バルチック艦隊にトドメを刺そうとする攻撃隊を直援することだ。

 納富大尉は、自らの視界に入る攻撃隊の規模を見て思った。

 鶏を割くに焉んぞ牛刀を用いん、のことわざ通りの行動だ。


 連合国海軍により行われた、ソ連欧州本土侵攻作戦発動前のソ連バルチック艦隊撃滅作戦の一環として起きた、いわゆる「クロンシュタットの惨劇」等を生き延びたソ連バルチック艦隊の生存艦のほとんどは、レニングラード攻防戦を前に、レニングラード港に投錨していた。

 何故なら、彼らにとって、最早、そこにしか安住の港は存在しなかったからだ。


 ソ連バルチック艦隊の生存艦ほとんどが集まっていたとはいえ、この艦隊の旗艦は駆逐艦「ストーイキイ」であり、それが生存艦の最大の軍艦であった、しかも整備不良等もあり、旗艦にも関わらず、最大速力24ノットが限界であったといえば、どういった惨状に、この当時、レニングラード港に投錨していたソ連バルチック艦隊が遭ったのか、大体の想像は付くと思う。

 そこに連合国海軍の誇る空母機動部隊の総力を挙げた総攻撃が加えられたのだ。


 皮肉なことに既にレニングラードは孤立しつつあり、レニングラード近郊に作られていたソ連空軍の飛行場からの大規模な迎撃戦闘は、補給の問題もあり、ほぼ最後になりかねない、と上層部に判断されつつあった。

 そのために、どうせ地上で失うくらいなら、と失われつつある艦隊を護るために、ソ連空軍は最大規模の迎撃を試みることにもなった。


「凄い。ラグにヤク、ソ連空軍の大戦闘機部隊が上がっている」

 納富大尉は、独り言を呟いた。

 納富大尉が、日本空軍の面々から聞いた話だと、ヤク戦闘機は爆撃機の護衛が主な任務で、迎撃戦闘に使われる戦例は少ないとのことだが、レニングラードに対する連合国海軍の空母部隊による大規模空襲の前には、そのようなぜい沢は許されず、ヤク戦闘機まで迎撃に駆り出されたようだ。


「こちらも派手にやらせてもらうか」

 日米英の最新鋭戦闘機、零式艦上戦闘機にF4F、シーファイアがこちらにいるのだ。

 納富大尉はそう言いながら、積極的に迎撃することにし、他の戦闘機乗り達も同様に行動した。

 片方だけでも数百機、双方合わせれば、延べ1000機以上の戦闘機がぶつかり合う史上最大の航空戦がこの日、行われることになり、お互いに数百機を落としあった、と主張することになった。

 だが、実際の双方の損失からすれば、実際には併せて100機に達するか否か、といったところだった。

(それでも、双方が派手に空戦を行ったことに違いは無いのだが)


 その間に爆撃機の部隊は、レニングラード港に在泊するソ連海軍の艦艇に容赦のない爆撃を浴びせた。

 港内という限られた空間では、回避運動もままならない。

 ソ連海軍の艦艇は相次いで被弾し、レニングラード港内に着底し、上層構造物を破壊されていった。

 

 艦載機部隊によるここまで容赦のない攻撃が加えられた要因だが、ソ連海軍の艦艇による地上部隊への艦砲射撃支援の可能性をできる限り削る、というものが最も大きかった。

 また、艦艇が着底したという光景を実見させることで、レニングラード市民の士気を低下させるという効果も狙われていた。

 実際、このソ連海軍艦艇が着底した光景は、多くの市民の士気の低下を招いた。

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