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第5章ー15

 土方歳一大佐の肩書だが、正式には日本遣欧総軍司令部の高級参謀と言うことになる。

 だが、実際の職務としては、土方大佐自身は知らないことだが、実は身内(息子の妻の異母弟)のアラン・ダヴー少佐が、スペイン青師団司令部でやっている職務とほぼ同様で、各国軍との折衝が主だった。


「日本軍としては、戦場における衛生の問題もあり、ソ連兵の遺体を火葬にしたのであり、決してソ連兵の遺体を粗末にしたつもりはありません」

 9月下旬から10月初めに掛け、土方大佐は、各国の軍司令部に対して弁明に歩く羽目になっていた。

 

「日本軍に悪気が無かったのは認めるが、ソ連、というより東方正教会が、それを認めるかな」

 日本軍がソ連兵の遺体を火葬にしたのを聞いた、連合国軍の最高司令官であるアイゼンハワー将軍は、そのように言い、各国の軍司令部の主な幹部の対応も同様だった。


「全く宗教のことに無頓着では困るというのに」

「全くです。ただでさえウクライナにおいて、我々と東方正教会との関係が微妙になりつつある中、敵の敵は味方で、東方正教会がソ連寄りにますますなりかねません」

 スペイン青師団司令部においては、グランデス将軍とダヴー少佐が溜息を吐く羽目になった。

 

 少し補足説明をする。

 日本ではキリスト教徒といえど、遺体を火葬にするのが当たり前だが、欧米では土葬が基本である。

 何故かというと、聖書において、死者の遺体は土葬にすべきである、と説いてあるからである。

 また、カトリック、プロテスタント、東方正教会等、キリスト教の宗派において、多少の差異があるが、この世の最後において、キリストが再臨して審判を行うとき、死者が復活するためには、土葬されねばならないと基本的に説いている。


(だからこそ、中世の欧州においては、いわゆる魔女や異端者は火あぶりにされた。

 単なる死刑に止まらず、未来における復活も絶対に許さない、という宗教的刑罰の意味もあったのだ。

 なお、近代になるにつれ、プロテスタントの多くが火葬を認める等、徐々に緩やかにはなった)


 そして、東方正教会では、この土葬という方法については、基本的に極めて厳格な考えを取っており、東方正教会の信徒の遺体が火葬にされた場合には、その信徒を破門して、また、教会での葬儀等は一切拒否する、というのが、この頃の大勢だった。

 だが、日本での東方正教会は、そこまで厳格な考えを取っておらず、信徒の火葬を認めていた。


 そのために、このルガ河での戦いが終わった後、日本軍では深く考えずに、戦場衛生の観点から、戦場に遺棄されていたソ連兵の遺体(その中には、民兵隊に編制されていた女性や10代の若者、老人も混じっていた)の多くを火葬にしたのだが。

 それを東方正教会の信徒の米軍の従軍記者が、自身の良心から、断じて許されない、東方正教会を軽んじるものだ、と世界中に写真入りで報道してしまった。

 世界中の東方正教会の信徒が、激怒しかねない事態と言えた。


 慌てて、日本の遣欧総軍司令部は、現地での宗教事情を無視して、多くのソ連兵の遺体を火葬にしたことを謝罪する声明を出す羽目になった。

 また、日本本国においても、米内光政首相の名で談話を発表する羽目になった。

 そして、土方大佐は、日本の宗教的事情、また葬儀の事情について、内々に連合国軍を構成する各国軍司令部に話して、日本軍に悪気が無かったことを説明して回る羽目になった、という次第である。


 だが、日本軍が既にやってしまったことであり、謝罪しても手遅れの感が拭えない事態でもあった。

 そして、このことは、東方典礼カトリック教会の問題も併せ、連合国軍が東方正教会を敵視しているとのソ連側の主張を強めたのだ。

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