第5章ー12
こういった状況から、詳細な状況は不明だが、ルガ河防衛線に投入できる民主ドイツ軍の将兵は、30万人余りにまで落ち込んでいたらしい。
それにエストニア方面での実態があることから。
「どうやら、民主ドイツ軍の将兵は、後方に送られているみたいですね」
日本空軍の航空偵察等の様々な情報を精査した結果、日本の遣欧総軍の情報士官は、そのように総司令官である北白川宮成久王大将に報告することになった。
それを横で聞いた参謀長の石原莞爾中将は、
「自分でもそうするな。また、戦場で寝返られてはかなわん」
と半ば独り言を呟き、北白川宮大将も、その言葉に無言で肯いた。
実際、ルガ河防衛線に民主ドイツ軍は配置されず、後方に送られていた。
だが、このことはただでさえ兵力不足のルガ河防衛線の兵力を減らすことになった。
そのために、ソ連軍が考え付いたのが。
「森林や湿地帯を利用した非正規戦を展開している部隊がいるだと」
日本軍からの情報提供を受けた米軍上層部の1人、米第3軍のパットン将軍は、渋い顔をしながら、その情報を聞く羽目になった。
「ええ、おそらくは5000人程度の規模には達しているようです。様々な破壊工作の規模や手口から、そのように推定されます」
日本軍の情報を受けた情報士官は、そのようにパットン将軍に報告していた。
「その部隊は、正規の軍人なのか」
「明らかに非正規戦の訓練を、かなり受けた部隊ですね。いわゆる特殊部隊です。一部の部隊が、日本軍の後方警備部隊と不期遭遇戦となり、複数が負傷して捕虜となったり、遺体を遺したりしたことからも、この情報は確実です。捕虜がほとんど口を割らないので、捕虜からの情報がほぼ取れていませんが」
パットン将軍の問いかけに、情報士官は更に言った。
「しかし、それだけの部隊を動かすとなると、補給等も問題になるだろう」
「糧食等は、地元のロシア系の住民や東方正教会が、水面下で協力しているのでは、と日本軍は推定しています。勿論、空中補給も使っている可能性があります。いわゆる夜の魔女が暗躍しているのでしょう」
二人は、更に会話を交わし、パットン将軍の渋面は酷くなった。
少し補足説明を加える。
ここで言う、夜の魔女とは、言うまでもなく、実際の魔女のことではない。
ソ連空軍のPo-2練習機(?)のことである。
ここで、(?)を付けたのは、言うまでもなく、実際にはPo-2は、練習機以外の任務にも、多々使われたからに他ならない。
夜の魔女の異名の下になった、夜間の爆撃(襲撃)任務。
また、上記に書かれているように、戦線後方のゲリラ(特殊)部隊との連絡や空中補給任務。
更に戦術偵察や弾着観測射撃の観測、といった任務にも、Po-2は投入された。
そして、カタログデータ等だけの性能からすれば、旧式の複葉機に過ぎないが、実戦では。
「あれ程に落としにくい航空機は稀だった。ともかく低速で、木製布張り構造のために、電探も中々探知しない。地表スレスレを、消音器を付けたPo-2が飛んだ場合は、夜間爆撃を受けることで、こちらがPo-2に気付くことは稀な話では無かった。また、こちらの夜間戦闘機が、Po-2を攻撃しようとすると、相手が低速すぎて、失速しかねない事態が多発する。また、複葉機だけあって、旋回性能等は抜群で、こちらの攻撃は巧みに回避される。勿論、こちらの夜間戦闘機が落とされることはまず無いが、Po-2も落とされないのだ。色々と厄介な敵機だった」
そう井上成美空軍大将(最終階級)は、回想録等で述べており、他の日本空軍の面々や、更に言うなら他の連合国空軍関係者も、ほぼ同様の意見である。
パットン将軍が渋い顔になるのも当然だった。
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