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第1章ー7

 大和から武蔵に、嶋田繁太郎大将以下の日本艦隊司令部は速やかに移乗した。

 臨時戦隊を分離した後、残存する日本艦隊と仏伊艦隊は、思う存分、上陸作戦阻止のために設けられたリガ湾沿いのソ連軍と民主ドイツ軍の陣地に、砲弾の雨を降らせた。

 ルフヌ島の海岸砲台の運命が、こういった陣地の守備隊の覚悟を更に固めさせたのだろう。

 リガ湾沿いの陣地からの応射は全く無かった。


 英艦隊に襲い掛かった悲劇を聞いた日米英の三か国の空母部隊は、ルフヌ島の海岸砲台を空襲で潰そうと出せる限りの攻撃隊、800機余りを至急、出撃させたのだが、リガ湾に攻撃隊が接近する前に、日仏伊の三国連合艦隊によってルフヌ島の海岸砲台が破壊されたことを知り、急きょ、リガ湾沿いの陣地攻撃に目標を切り替えて、急行していた。


 その急行中の彼らの目に入ったのが、大和だった。

 16インチ砲弾を19発も被弾した大和の表面上の損害は酷いものだった。

 だが、大和は自力で約15ノットで航行しており、彼らの目の前で全主砲を旋回等させて見せた。

 これは高柳儀八艦長が、日本海軍の意地を示そうとしたからだが、実際、英米海軍に与えたインパクトは大きかった。


「さすが、大和」

「ビースト」

「真のモンスター」

 そう讃仰した英米海軍航空隊の搭乗員達の多くは、リガ湾沿いの陣地に対する攻撃を完了した後、大和の上空に戻り、翼を振る等して、敬意を表した。


 これが、

「戦艦が一対一で砲撃戦を行った際、大和型戦艦を沈めうるのは、大和型戦艦のみである」

 という海軍軍人等の間に遺る伝説が誕生した瞬間といえた。


 そして、この犠牲は無駄ではなかった。

 リガ湾沿いの陣地の多くが損害を被り、充分な防御態勢の再構築が間に合わないまま、日米の海兵隊6個師団を投入した上陸作戦を、ソ連軍と民主ドイツ軍は迎え撃つことになったからである。

(そのためもあって、陣地暴露の危険性を勘案した末に、日仏伊の三国連合艦隊の艦砲射撃への応射を、彼らは行わなかった)


 5月15日の朝が来た。

「結局、英艦隊が、我々の上陸作戦の支援を行うことになったのか」

 ダンツィヒに総司令部を置いている日本遣欧総軍司令部では、総司令官の北白川宮成久王大将が、石原莞爾参謀長に現状を確認していた。

「その通りです。日仏伊の三国連合艦隊は、事前の艦砲射撃で、主砲弾のほとんどを射耗。上陸作戦の支援は困難とのことで、英艦隊が日本海兵隊の支援に当たると、暗号通信がありました」

 石原参謀長は、即答していた。


「ふむ。大和が大破した等の情報が飛び込んでいることからすると、やむを得ない話か」

「やむを得ない話ではありますが、英海軍の名誉挽回も兼ねています。ルフヌ島への攻撃で、英海軍は一方的に大損害を被りました。師匠の面子に掛けて、弟子を支援しないといけないのでしょう」

 北白川宮大将の問いかけに、石原参謀長は皮肉な言葉で返した。


「しかし、英海軍と日本海兵隊は連携できるのかね」

 石原参謀長に触発され、北白川宮大将までも皮肉な言葉を言った。

「大丈夫です。英首相自ら、ガリポリの恩義を忘れるな、と激励の電文を打ったそうですから」

「それはまた」

 石原参謀長の更なる皮肉に、北白川宮大将は苦笑いせざるを得なかった。


 チャーチル現英首相が、第一次世界大戦の海相だった際にガリポリ作戦で大失敗したところを、日本海兵隊に救われたのは、世界的に半ば公知の事実だった。

 チャーチル首相、及び英海軍としては、日本への心理的負債が溜まる一方だろう。

 この度の日本海兵隊が行うリガ湾上陸作戦支援は、その負債返済の絶好の機会という訳か。


「良かろう。英海軍の支援を信じよう」

 北白川宮大将は、そう言わざるを得なかった。

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