第5章ー5
もっとも、これは土方勇中尉レベルだから起こる錯覚とも言えた。
正確に言えば、連合国軍の第二次攻勢は、時間差で順次、発動されることになっていた。
「まず、北方軍集団が突進し、続けて、9月上旬から中央軍集団が突進、9月中旬から南方軍集団が限定攻勢を展開するですか」
「そういうことだ。我々は、ルーマニア軍と共に、クリミア半島制圧を目指すことになる。最大の目標はセヴァストポリだ」
スペイン青師団司令部では、グランデス将軍とアラン・ダヴー少佐が話し合っていた。
「セヴァストポリを仏伊が目指さないのは何故ですか。また、ルーマニア軍と我々が、セヴァストポリを目指すことは無いでしょうに」
ダヴー少佐は不遜な態度を敢えて取った。
グランデス将軍も内心では、不満を抱えており、何か吐き出したいのを察したからだ。
「仏軍のジロー将軍に言わせれば、クリミア戦争の悪夢がよみがえるだそうだ。伊軍のグラツィアーニ将軍も似たようなことを言いおった」
グランデス将軍は、かなり不満を溜めているようで、鼻を鳴らすように言った。
「クリミア戦争って、その時には伊は無いでしょうに。確かにサルデーニャ王国が参戦していますけどね」
ダヴー少佐は呆れるように言った。
「全くだ。スペイン青師団は、ルーマニア軍のお守りをしてほしい、ということらしいな」
グランデス将軍の今度の言葉は、吐き捨てるようだ。
これはかなり不満なのだな、とダヴー少佐は推測した。
もっとも、不満の内容は、当てにならないルーマニア軍と共闘せざるを得ないことにあるのだろう。
かつて、チロル=カポレットの戦いで伊軍と共闘した日本海兵隊も同様の想いをしたのだろうな。
だが、全体的な軍事戦略、作戦を考えれば、連合国軍の第二次攻勢は無難というか、妥当なものだ、とグランデス将軍も、ダヴー少佐も考えざるを得なかった。
北方軍集団の後方状況は、リトアニアやラトヴィアの住民の協力もあり、完全に整っている、と言っても良いのに対し、南方軍集団の後方状況は、まだまだで9月中旬になっても本格的な大攻勢を展開するのは、正直に言って困難だろう。
中央軍集団の後方状況は、その中間というよりも北方軍集団寄りだが、今すぐ本格的な大攻勢を展開できるか、と聞かれると9月まで待って欲しい、というのが本音らしい。
だが、泥濘の季節が迫っている以上。
まずは北方軍集団が大攻勢を展開することで、ソ連軍の目を北に向ける。
その後、中央軍集団も攻勢を展開して、スモレンスクからモスクワを目指そうとすることで、更に南方方面の部隊を北に誘引する。
これによって、南方方面が手薄になったところで、南方軍集団も攻勢を掛けようというのだ。
ただ、南方軍集団の攻勢は、北方や中央と異なり、限定攻勢規模に止まらざるを得ないだろう。
正直に言って、後方状況が大攻勢を展開できるほどには良くない。
「今年中に、ハリコフを占領し、ヴォロネジ、ロストフに脅威を与えると言ったところが、南方軍集団の実情から限界だろう。だが、それでは、南方軍集団の沽券にかかわる。だから、セヴァストポリも目指す、といったところだろうな」
「確かに」
グランデス将軍の言葉に、ダヴー少佐も同意せざるを得なかった。
だが、それならば、セヴァストポリ要塞を攻撃するために、それなりの部隊、具体的に言えば、要塞攻撃に向いた重砲部隊や工兵部隊が必要となるのだが、スペイン青師団どころか、ルーマニア軍にもそう言った部隊は乏しかった。
また、オデッサ攻防戦時と同様に、我々は、各国の軍に対して様々な支援を求めねばならないな。
そう、グランデス将軍と、ダヴー少佐は無言のままで、お互いにそう考えざるを得なかった。
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