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第5章ー4

 日本軍内部で、そのような大論争が行われた後、ある程度のすり合わせが為されて、日本軍は一応は内部の意見統一が成功し、その上で、米英仏等の連合国軍と第二次攻勢について、議論を交わした。

 米英仏等の連合国各国も、それぞれの軍内部の主張(更に言うなら、連合国の多くも、日本と同様に陸海空軍内部等でも対立を抱え込んでいる)があることから、日本軍と各国軍は、甲論乙駁の議論を交わす事態が引き起こされてしまった。

 そうは言っても、時間という問題があるために。


「1942年8月25日を期して、連合国軍は第二次攻勢を発動する、と決まった」

 同月22日に、土方勇中尉は、深刻な顔をしながら、部下達に告げていた。

「何か問題があるのですか」

 土方中尉の搭乗する戦車の砲手を務める加藤軍曹が、土方中尉の表情から、何かまずいことがある、と察して、部下を代表して声を挙げた。


「この第二次攻勢は、基本的に北方軍集団のみで行うことになった」

 土方中尉が、そう言った瞬間、部下達の多くの表情も、土方中尉と同様になった。

 何か、中央軍集団や南方軍集団は、問題を抱え込んでしまったのだ。

 そのために、北方軍集団のみが攻勢を取る、というある意味、無茶な話が生じてしまったのだ。


「私のレベルでは、詳細は教えられていない。ああ、勿論、父は把握しているだろうがな」

 少しでも空気を変えようと、土方中尉は、半ば無理して少しでも明るい声を挙げた。

 その言葉を聞いて、周囲は苦笑いをした。

 土方中尉の父、土方歳一大佐は、遣欧総軍司令部の高級参謀だ。

 そういった情報を把握していない訳が無い。

 だが。


「土方中尉、憶測を話してもいいですか」

「憶測なら構わんぞ。ああ、それから、自分は本当に知らないからな」

 加藤軍曹が声を挙げたのに、土方中尉は答えた。


「やはり、中央軍集団や南方軍集団の後方整備に手間取っているというのは、本当なのでしょうね」

「だろうな。実際、オデッサが陥落したのは、今月に入ってからだ。鉄道を改軌等して、後方の鉄道、道路網をそれなりに改修しながら、進軍しないと、我々は、ナポレオンのロシア遠征の二の舞を演じる羽目になるのは必至だ。だからこそ、我々は、後方整備を重視しながら、進軍してきた。かつて、ローマ共和国、帝国が、地中海世界から西欧部を制したのは、兵站を重視したからだ。それと同様の事を、我々は当然に行わねば、ソ連には勝てない」

 加藤軍曹の問いかけに、土方中尉は答え、その答えは、周囲の下士官兵の多くを納得させた。


「それに、後方を整備するのには、もう一つ、理由がある。後方で、パルチザン等の抵抗運動が起きては話にならないからな。それを制圧するための部隊が、別途、必要になるし、更にそれは火に油を注ぐことが珍しくない。中国での戦争等で、我々、海兵隊はずっとそれを経験してきたからな。そのために、後方整備のために、一時的に前進が遅れることになっても、それはやむを得ない。基礎をしっかりしないと家は建たない。それとおなじようなものだ」

 土方中尉は、噛んで含めるように、下士官兵に説いた。


 それは半ば、自分に言い聞かせるためでもあった。

 自分も、本音では、少々後方を軽視して、レニングラード方面に突進したい。

 1940年の正月を祖国で過ごした後、ずっと祖国を見ておらず、1943年の正月を異郷で迎えるのは、ほぼ必至になっている。

 少しでも早く、この戦争を終えて、祖国、日本の土を踏みたい。

 2年以上、祖国を離れている部下の多くも同じ思いをしているのだろう。

 少しずつだが、士気、規律が緩みつつあるのは間違いないようで、自分も部下への注意が増えている有様だ。

 本当に早く終えたいものだ。

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