表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/120

第4章ー8

 場面、登場人物が変わります。


 土方千恵子の夫、土方勇や、千恵子の異母弟、岸総司は、後方工作支援に当時、当たっていました。

 そんな深刻な会話を、お互いの家族が交わしていること等は知る由も無く、その頃、土方勇中尉と防須正秀少尉は、岸総司大尉や川本泰三中尉らと連れ立って、宣撫工作というよりも、ラトビアやリトアニアの復興支援の援護工作に当たっていた。


「順調に鉄道の改軌も進んでいるようで、旧ドイツ領からリガまでは、順調に鉄道の運行ができるようになっています。お陰で、軍用の物資も順調に届いているので、今なら、レニングラードを目指した侵攻作戦を展開することへの不安がかなり軽減されていますね」

 防須少尉は、他の面々にそう話しかけた。


「それは良かった。幾らバルト海からの海上運送が順調に行く目途が立ったと言っても、やはり、陸路からの補給路が確立されるに越したことは無いからな」

 岸大尉は、防須少尉の言葉を聞いて、顔をほころばせながら言った。


「それにしても、ここにいる内に、ライ麦で作ったパンの味に気のせいか、慣れた気がしますね。いや、こちらの方が、自分の口に合う気がしてきました。何しろ堅いためか、腹持ちが良い」

 川本中尉が口を挟んだ。


「確かにな。自分もそんな気がしてきた。そう言えば、西欧では、小麦で作ったパンが普通だが、このあたりではライ麦のパンが当たり前だ。米国や南米諸国から提供されるのは、小麦ばかりだから、この辺りの人の口に合うのか、少し不安だな」

 土方中尉が、半ば独り言を言った。

 

 彼らは戦禍により、農地が荒れて、今年の収穫が見込めない農民相手に、食糧等を提供する任務に当たっていた。

 また、働けない農民に対して、鉄道の改軌や道路整備の作業に参加することへの勧誘といった任務も併せて行っている。

 勿論、そういった作業に対しては、ドル紙幣による報酬が支払われる旨も説明している。

 

 これは一石二鳥の効果を狙って行われているものだった。

 まず、連合国軍としては後方の輸送体制整備は、更なるソ連奥地への侵攻作戦発動のためには、必要不可欠な話だった。

 そして、この後方の輸送体制整備に、現地の住民を動員することは、それだけ遠方から人を連れてくる手間を省けることを意味していた。

 だから、一人でも多くの現地の住民を動員しようと連合国軍上層部は考え、そのように行動した。


 また、食が確保され、働く場があれば、基本的に人心は落ち着くものである。

 最初の連合国の構想では、バルト三国については、連合国軍が解放次第、独立再興という方針だったのだが、ソ連がバルト三国を併合した後、NKVD等がかつてのバルト三国の政治家や国の上級官僚を片端から強制収容所送りにしたために、国政を担ったことのない市役所が、そのまま国の政府を担うようないびつな状況に、そのようなことをしては、バルト三国は陥ってしまうことが、連合国に判明した。


 そのために現在は助言という形で、再独立を既に果たしたリトアニア、ラトビアについては、連合国政府が介入して政府を運営しているのだが、一部の民衆の間には、ソ連が去ったら、連合国が入ってきた、というように思われ、澱のような不満が醸成されつつあるらしい。

 その不満を宥めるためにも、連合国は食を提供し、働く場を作っていた。

 そうは言っても。


「それにしても、天国、天国。中国やソ連極東部での戦争に比べれば、幸せだ」

 中国での従軍経験のある岸大尉は、周囲を見回しながら半ば独り言を呟いた。

 その言葉に、土方中尉や川本中尉も同感の顔をしたが、防須少尉は意味が分からないような顔をした。

 この二人は、それなりに自身の戦争経験もあり、他の従軍経験者との交流も既にあるのに対し、防須少尉は、そこまでの経験がないので、後方の民衆が敵に回った戦場というのに実感が無いのだった。

 ご意見、ご感想をお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ