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第4章ー3

 そんな風に異母姉妹は、お互いの事を想いながら、会話を暫く交わした後で別れた。

 村山幸恵と土方千恵子が逢ったのは、横須賀の馴染みの喫茶店だった。

 千恵子は、幸恵と別れた後、あらためて横須賀の街中や、日野の自宅への帰途の列車の中、更に日野駅から自宅までの道すがらで、周囲を改めて見つめ直した。

 

 幸恵と会話を交わしたせいか、本当に以前と比べて、外を出歩いた際に、自分の目に入る人々は、女性が増えてしまったような気がする。

 男性が自分の目に入らないことは無いが、その年齢は、どう見ても40歳代以上の中高年か、10代半ば以下の少年ばかりだ。

 たまに目に入る20、30歳代の男性は、どこか怪我をしている傷痍軍人ばかりになっているようだ。

 千恵子は、昏い気持ちになった。


「何事もなかったか」

 千恵子が自宅の玄関に入ると、待ちかねたように土方勇志伯爵が声を掛けてきた。

「そう心配しないでください。完全に安定していると、お医者様は言われていますし、ただ知人に会いにいっただけですから」

 千恵子は、義祖父をあやすように言った。


「分かってはいるのだが、心配でな」

 土方伯爵は、どうにも不安らしい。

 それを見かねた義祖母、大姑が千恵子に加勢した。

「本人が大丈夫と言っているのです。それに、列車に乗る等するとはいえ、隣の県に日帰りで出掛けてきただけではありませんか。大げさすぎますよ」

「分かった、分かった」

 大姑は、土方伯爵とは屯田村で共に生まれ育って以来の知り合いだ。

 それだけお互いの気心は知れている。

 大姑の言葉に、土方伯爵は落ち着きを取り戻したらしく、それ以上の追及は一旦、止んだ。


 そして、千恵子は着替えた後、あらためて、新聞記事の整理を始めた。

 千恵子自身のそもそもの性格もあるのだが、妊娠しているためか、更に夫や弟のことが心配なためか、どうにも落ち着かないのだ。

 かと言って、一般の家事は女中もいるし、それに義祖父が過保護なので、やることがない。

 娘の和子にしても、通いとはいえ子守りがいるので、昼間は手が掛からない。

 結果的に、千恵子は暇になり、時間を潰すためもあって、新聞記事の整理をすることが増えている。


 それに、これは千恵子自身の職場復帰に備えた行動でもあった。

 出産が間近くなったので、義祖父の貴族院議員の公設秘書としては、千恵子は休職している身である。

 だが、出産後しばらく経てば、再度、復職する予定だった。

 その際に情勢を完全に把握しておかねば、公設秘書として役には立てない。

 千恵子は、それもあって新聞記事の整理をしていた。

 

 とは言え、先程の幸恵との会話が、千恵子の頭の片隅に残っており、どうにも今日の新聞記事整理の手が進まないようだ。

 千恵子は、発想を変えて、ここ1年余りの日本国内の労働、経済の記事を拾い読みすることにした。

 考えてみれば、自分は世界大戦の具体的な戦況に注目する余り、日本国内の労働、経済については余り調べてはいなかった。

 貴族院議員の公設秘書の職務の一環として、労働、経済に関する記事は、一応は整えてある。


 国家総動員法の現在の運用状況だが、相変わらず財界と労働界の主張は対立しているようだった。

 この辺りは、平時でもそう変わらない問題だ。

 財界としては経営者として利益を優先したい、労働界としては労働者の権利保護がある。

 更にこの非常時だからこそ、できるのでは、という思惑もある。

 とは言え、女性が働く場所をきちんと作れ、という意識だけは、労使ともにある程度は共有されている。

 そのために女性の労働者が増えていることが統計からは確認できたし、更に女性労働者保護のために労働法も改正され、例えば、3か月程だが産前産後休暇が認められた。  

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