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第4章ー1 1942年8月のある日、日本等では。

 第4章の始まりになります。

 1942年8月半ばのある日の昼下がり、まだまだ残暑が厳しい中、土方千恵子は、横須賀にいる異母姉の村山幸恵の下を訪ねていた。

 千恵子は妊娠9か月を過ぎ、いわゆる臨月が近い体型になっている。

 そのために幸恵も妹に気を使い、自分が訪ねようか、と提案したのだが、千恵子は謝絶して、幸恵の下を訪ねていた。

 それというのも。


「我が儘を通して、女中1人とだけで出掛けられて、息抜きが出来ました。一息付けます」

 姉に逢って早々、千恵子は愚痴った。

「そんなに過保護なの」

「もう完全に上げ膳、据え膳の世界です。跡取りの曾孫が産まれるのではないか、と土方伯爵が目の色を変えて、私を大事にする有様で」

 幸恵の問いかけに、千恵子は即答した。


「それは大変ね」

 幸恵は、そう答えながら想いを巡らせた。

 全く苦笑いするしかないが、千恵子は紛れもなく両親の血を引いている。

 千恵子の初めての子の和子は、結婚早々にできた子だし、今、妊娠している子は、夫の勇と僅か2日程、頑張ってできた子の筈だ。

 千恵子自身、1回の関係で出来た子の筈で(それを言い出したら、幸恵自身もそうらしいのだが)、世の中で不妊に悩む夫婦が、完全に羨望の眼差しを向ける存在と言って良い。


 本当に(自分が異母弟ではないか、と疑っている)アラン・ダヴーも、スペインで子どもを作っているのではないか。

 千恵子の子作りの現実を見ると、そう思えて仕方がない。

 いや、彼はスペインにいないのだった。


「それにしても、びっくりしたわ。アラン・ハポンが変名なんて。まあ、半公然の事実らしいけど」

「ダヴーが、どこの国に忠誠を誓っているのか、不思議に思えてきます。スペイン内戦の際には、白い国際旅団の一員でしたし、そして、フランスの軍人、今はスペイン義勇兵ですから。上からの命令ですけど」

 幸恵と千恵子は、訳知り顔の会話をした。


 アラン・ダヴーが、スペインに派遣されたことまでは、以前に二人に分かっていた。

 その後、(二人にしてみれば)暫く消息が途絶えていたのだが、オデッサ陥落を伝える報道の中で、スペイン軍の参謀の一人として、アラン・ハポン少佐の名が出て、土方伯爵が、それはアラン・ダヴーの変名で、その名でスペイン義勇兵、スペイン青師団の一員として、今は奉職していると千恵子に明かし、それを今、千恵子は幸恵に明かしたのだった。


 私に明かしていいのか、と幸恵は少し疑問に思ったが、別に機密情報とかではないし、3人の写真の一件を知った土方伯爵が、弟の親友なのだから、幸恵にも話してやれ、と千恵子の背を推したという。


 幸恵は想いを巡らせた。

 それにしても、千恵子さんは、自分のことになると途端に鈍くなるものだ。

 どうして、アラン・ダヴーが弟ではないか、と疑念を持たないのだろう。

 土方伯爵が、私にも伝えろ、という時点で察してもよさそうなものだが。

 もっとも、そろそろ話を変えないとまずいか。

 

「勇さんや総司は、相変わらずなの」

「ええ、リトアニアとラトビアの宣撫工作、及び後方整備に主に当たっているようです。総司は中国にいましたからね。あの時とは、天と地ほどの差がある。塩とパンで出迎えられることが、しょっちゅうだと嬉しそうに、総司は6月に書かれた手紙に書いていました」

「塩とパン?」

「向こうの習慣で、あなた達を歓迎します、という意義のあるものだそうです。その代りに、提供された以上の麦等を提供しているらしいですが」

「色々と大変そうね」

「全くです」


 二人は久々に心温まる会話を交わしていた。

 実際、日本の国内外の状況は、そろそろ戦争に倦みつつあり、また平和を希求しつつある。

 それもあって、勝利を収めつつも暗い空気を二人は共に感じていた。

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