第3章ー7
そして、武漢三鎮に対して、日米両軍の主力(というのは、ある程度の後方警備部隊を、日米共に進軍の際に占領した地域に遺さねばならなかったためであり、直接、武漢三鎮攻略に当たっていた部隊は日米両軍を併せても約12個師団、約30万人程度の規模にしかならなかった)が合同して、攻略作戦を行うことになったのだが、その際に従軍記者達は、日本軍内では日本住血吸虫症の患者がほとんどいないのに、米軍内では日本住血吸虫症の患者が蔓延している事態に、目を見張ることになった。
中国本土奥地に対する侵攻作戦を発動してから、約2か月余りが経つ間に、日本住血吸虫症への対策を軽んじていた米軍内では、(まだまだ初期症状段階だったが)日本住血吸虫症を発症する将兵が多数出る事態が発生していたのである。
この時点で、武漢三鎮攻略作戦に当たっている米軍部隊は約8個師団、約20万名だったが、その内の約2パーセントが日本住血吸虫症を発症しており、後方警備部隊を併せるならば、約1万名余りが発症していたとされる。
一方、日本軍は、全軍を併せても発症者を100名未満に迎えこんでいた。
何故にこのような差が生じたのか、といえば簡単な話で、予防対策を周知徹底していた日本軍に対し、米軍は徹底していなかっただけなのだが、米軍側としては、そういったことを認めたがらなかった。
(なお、このような事態が発生したのは、米軍の医療衛生部隊の間では、寄生虫対策と言えば、経口感染対策という先入観が基本的にあった、というのも大きい。
何しろ、米本土どころか、米国の植民地まで見回しても、寄生虫による病気で、経皮感染する住血吸虫症が蔓延していると言えるのは、フィリピンの一部、例えば、レイテ島等に止まるのだ。
もっとも、これはこれで後に、米軍のトップのマッカーサー将軍は、フィリピン陸軍元帥でもあるのに、それを知らなかったのか、と新聞等で叩かれる要因になったのだが)
そのために。
「中国本土において、未知の生物兵器を共産中国軍が使用したという情報が真実か否かか」
「馬鹿馬鹿しいにも程がありますね」
岡村寧次大将と今村均中将は、日本の陸軍参謀本部からの照会に、回答する気にもなれない、というやり取りをしていた。
勿論、永田鉄山陸軍参謀総長にしても、いや、梅津美治郎陸相や米内光政首相にしても、同様に思っているとは思う。
だが、一応は、こういったやり取りを公式に残しておかないと、後々でトラブルが起きる可能性がある。
米本土では、米軍の被害は生物兵器によるものではないか、という疑惑が広まりつつあるらしい。
日本住血吸虫によるもの、という公式報道では納得できない、という声が上がっているというのだ。
実際、住民の間で、日本住血吸虫が蔓延しているのは、主に長江流域一帯であり、日本軍が主に進軍している地域である。
つまり、日本住血吸虫によるものなら、米軍の方に大被害が出るのはおかしい、という論理なのだ。
「そうは言っても、ただ単に日本住血吸虫対策を、我々が徹底してやっただけで、米軍が軽視したという違いに過ぎないのですが」
今村中将の半ば独り言に、岡村大将も肯かざるを得ない。
「少なくとも、日本軍の占領地域においては、生物兵器は全く発見されていない、と回答するしか無いな」
岡村大将と今村中将は、他の幕僚とも話し合い、そのように回答した。
だが、このようなやり取りは、更なる曲解を産み、米本土において、共産中国は米軍に対してのみ、生物兵器を使用している疑惑がある、という報道を産むのである。
慌てて米軍側もそのような事実は確認されていないと広報するのだが、このことは大きな波紋を周囲に広げていった。
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