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第3章ー6

 そう中国本土における日本陸軍の最高司令官である岡村寧次大将は、憂鬱な想いに駆られつつも、武漢三鎮を目指して、隷下にある部隊を進軍させていた。

 時期は5月から7月へと夏の暑さを感じさせつつあり、当然のことながら、隷下にある部隊では、少しでも涼しさを求める事態が発生してしまった。


「暑いのう。水浴びをしたいものだ」

 進軍中のとある部隊で、一人の軍曹がぼやいていた。

「全くです」

 昨年末までソ連本土での戦いに参加していて、中国本土の侵攻作戦のために移動してきた古参の上等兵が、その下士官に同調した。

「いっそのこと。こっそり水浴びをしませんか」

 ある一等兵が、追従もあり、二人を唆したが。


「バカモノ。腹を膨らませて死にたいのか」

 その会話が耳に入った鬼の特務曹長が、その三人組を叱り飛ばした。

「お前らが病気になって死にたいのは、別にわしは構わんが、その治療のために、周囲にどれだけ迷惑をかけると考えておる。この辺りで水に入るのは、寄生虫にやられて、腹が膨らんで死ぬことになるぞ」


 特務曹長は、ある意味、一般の下士官や兵にしてみれば、中隊長以上の存在である。

 一般の歩兵中隊内では、最も古株の人間であるのが通例で、軍隊の表と裏を大抵は知り尽くしている特務曹長の目を掠めての悪事等、大抵は不可能なのが現実というものである。

 その特務曹長の怒声を聞いて、その三人組は縮み上がった。

「はっ、心得違いをしておりました」

 異口同音に、三人がほぼ揃った返答をしてしまい、暑さに汗を拭いつつの進軍を続けることになる。

 とは言え。


 特務曹長自身も想いを巡らさざるを得なかった。

 この暑さだ。

 自分も水浴びをしたいものだ。

 中隊長に、今日の駐屯地において、ドラム缶風呂の設置を進言しよう。

 水を入れて、湯を沸かして、それくらいのことをしないと、中隊員の不平も溜まる一方だろう。


 そんな想いをしつつ、日本軍は進撃をしていたのだが。

 同様に武漢三鎮を目指している米軍では。


「自分達は最前線部隊ではないし、ちょっと位、いいだろう」

「やはり水浴びをしたいよな」

 そういう会話をして、水浴びをしたり。


「やはり河や田んぼにある程度は浸かるのは仕方ない」

 現場の判断で、敵兵捜索のために直に水に入ったり、する例が多発していた。

(なお、敵兵捜索のためでも、日本軍は直に水に入るのを基本的に忌避していて、ゴム長靴等を装備した上での行動を徹底していた)


 この差は、徐々にだが、後になって、てき面に現れることになった。


 広州方面と南京方面から武漢三鎮へ進む日本軍、北京から開封へ、更に襄陽、武漢三鎮へと進む米軍。

 この複数方面からの進軍に対し、共産中国軍は正面から戦おうとせず、基本的に民兵隊を督戦して、日米軍に当たらせた。

 女性や子どもまで含む民兵隊が、最前線で抵抗するという現実に、日米両軍の将兵に対する精神的打撃は大きかったが、それで日米軍の進軍が食い止められるか、というと、そんなことはなく、日米両軍は武漢三鎮へと、ひたひたと進撃していった。


 その過程で、日米両軍の進軍過程にある市や町、例えば、長沙市等が日米両軍の攻撃や共産中国軍の焦土戦術によって灰燼と化す事態等が発生し、日米と共産中国は、お互いの行動が原因だと、非難合戦を繰り広げる事態も発生した。

(どちらの行動が、主原因なのかは、どちらに立つか、によって歴史家の間でも見解が分かれ、21世紀になっても議論が続く事態になっている。

 だが、多数説では、共産中国軍の焦土戦術によって、長沙市等は灰燼と期したとされる)


 7月半ば、武漢三鎮を前にして日米両軍は合同し、武漢三鎮を大包囲下に置くことになった。

 ここに武漢三鎮攻防戦が本格化した。

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