第3章ー2
とは言え、中国奥地は広い。
更にチベットやウイグルまで、日米(満韓)連合軍が侵攻せねばならないとなると、補給等の面で極めて困難な問題が生じるのは避けられない。
そのために、日米(満韓)連合軍は、正面からのみならず後方からも、共産中国に脅威を与えることで、侵攻作戦を成功させようと計画を立てていた。
その具体的な計画というのは。
言うまでもなく中国で大半を占めるのは、いわゆる漢民族であるが、ウイグル族やチベット族等の少数民族が中国国内にはそれなりにいるのだ。
従って、ウイグルやチベットの分離独立を認める、と日米(満韓)連合軍が宣伝を行い、更に実際に武器等の援助をウイグル族やチベット族に行い、それによって、ウイグルやチベットの民族主義者が武装蜂起を計画する事態に至るならば。
共産中国は、重大なジレンマに悩む事態が発生する。
ウイグルやチベットにおける民族運動を厳重に取り締まるか否か、というジレンマである。
厳重に取り締まるとなると、それなりの戦力をウイグルやチベットに向けねばならない。
従って、日米(満韓)連合軍の侵攻作戦を食い止める戦力が減少することになる。
そして、厳重に取り締まれば取り締まるほど、ウイグルやチベットでは共産中国への反感が高まり、民族運動が過激化しかねない。
更に過激化した民族運動を鎮圧しようとすればする程、更なる戦力を向けざるを得なくなり、必然的に日米(満韓)連合軍に対して対応する戦力が削られてしまうのだ。
かと言って、厳重に取り締まらずに放っておいては、民族運動が野火のように広がるリスクを看過するという事になってしまう。
本来からすれば、このような事態を避けるために、ウイグルやチベットにある程度の自治を認める等、民族運動の過激化を防ぐためのいわゆるアメを共産中国は示して、民族主義者が日米(満韓)連合軍側に奔る事態が起こらないようにすべきだったが、それは中華民族主義を唱えて漢民族の支持を集めている共産中国には、基本的にできない話だった。
(中華民族主義とは、思い切り要約するならば、中国は中華民族という単一民族の国家であり、異民族は存在しない、という主張である。
従って、ウイグルやチベットといった民族を中国国内で認めることは基本的にできないのだ)
そのために、共産中国は、日米(満韓)連合軍のこの作戦に苦しむことになった。
だが、その一方で、日米(満韓)連合軍も、この頃のインド情勢の思わぬ悪化に困惑していた、というのが現実というものだった。
日米(満韓)連合軍の中国奥地への侵攻作戦発動前、インドでは、ガンジーやジンナーといったインドの指導者層が相次いで、宗教、民族対立から暗殺されてしまい、騒乱状態が発生したと言っても過言ではない状況に陥っていた。
このためにインドも基地として、チベットやウイグルの民族運動を煽ろうという作戦は、発動前から断念せざるを得ず、下手をすると日米(満韓)連合軍のウイグルやチベットへの武器援助が巡り巡って、インドへの武器流入につながる危険も考慮しないといけない事態が発生していた。
その一方で、ソ連からインドの宗教、民族対立を煽るための武器等の提供が、巡り巡って、ウイグルやチベットにまで流れ込んでいるという状況もあった。
この頃の中央アジアを中心とする状況は錯綜しており、現地においては、本来からすれば敵同士の筈なのに、現在の状況に応じて、各種勢力の間で、一時的な妥協、提携関係が発生するという事は珍しくないどころか、日常茶飯事と言って良い有様だったのである。
こうした状況に、日米(満韓)連合軍や共産中国、ソ連等は結果的に翻弄される事態が多発するのである。
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