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第2章ー25

 このような状況に陥ったことから、オデッサ防衛に当たるソ連軍司令部要員の厭戦感情は、高まらざるを得なかった。

 最早、オデッサの戦況は絶望的であり、今や海路からの撤退も不可能な状況に追い込まれつつあるのだ。

 そう言った状況にも関わらず、モスクワ、ソ連最高指導部からは、降伏を全面的に禁じて、市民全員を含めた総員が玉砕するまでのオデッサ防衛を命じてくるのだ。


(もっとも、ソ連最高指導部を敢えて弁護すれば、オデッサが英雄都市になっていることも大きかった。

 英雄都市になった都市の守備隊、住民が、ろくに戦わずに降伏しては、未だに連合国軍の侵攻に晒されていない地方の都市の守備隊、住民が、連合国軍の侵攻に晒された場合、すぐに降伏する事態が発生するという懸念があるからである。

 だからこそ、英雄都市となったオデッサの守備隊、住民に対しては、ソ連最高指導部としては、総員玉砕するまで戦え、というしかなかったともいえる)


 そういった状況を通信傍受等により掴んだ連合国軍は、投降した将兵、市民の国外亡命も受け入れるという条件での降伏勧告をオデッサ防衛に当たるソ連軍に出すことにした。


「さて、受け入れるかな」

「受け入れるでしょう。死ぬか、生きるか。人間は最後には我が身が可愛いものです。家族が犠牲になる危険があっても、自分が生き延びられるなら、そう考える人間は必ずいます。そして、そのような人間が声を挙げれば、他の人間もそう言っているのだから、自分も、という人間も出だします」

 グランデス将軍の問いかけに、敢えて冷たくアラン・ダヴー少佐は答えていた。


「君は若いのに、時として老成した冷たい物言いをするな」

「色々とありましたから」

 グランデス将軍の更なる問いかけに、ダヴー少佐はこれ以上は言いたくない、という意を言外に秘めて答えざるを得なかった。


 ダヴー少佐自身、自分の冷たい言い方に驚いていた。

 スペイン内戦以来の様々な経験が、心の何処かを荒ませ続けていたようだ。

 現状に鑑みれば、オデッサ防衛に当たるソ連軍に対し、ソ連最高指導部はこれまでの勇戦敢闘を称えて、降伏を認めるべきだろう。

 それなのに、ソ連最高指導部は総員玉砕を命じてくるのだ。

 そんな指導部に従う必要は無いし、従うようなら、そんな司令部は存在してはならない。

 そう突き放した見方を、ダヴー少佐は思わずしていた。

 そして。


「オデッサのソ連軍司令部から、降伏勧告を受け入れる旨の連絡がありました」

 8月12日、オデッサのソ連軍司令部は、降伏勧告受け入れを、連合国の各国軍に伝えた。

 そして、速やかにオデッサ守備隊の武装解除等が行われることになった。

 ここに、大雑把に言ってだが、西ドヴィナ河、及びドニエプル河以西のソ連領は、ほぼ連合国軍の占領下に置かれることになったのである。


「第1段階の侵攻作戦が終わったな」

 その連絡を受けたグランデス将軍は、青師団の司令部の面々を相手に半ば独り言を言い、司令部の面々も多くが肯いた。

「この後は、どうすべきか。いや、どう動くべきかな」

 その後のグランデス将軍の半ば問いかけに、多くの司令部の面々は顔を見合わせたが。


「速やかに越冬準備に掛かるべきですな」

 ただ一人、ダヴー少佐が即答した。

「ほう。まだ8月なのにか」

 グランデス将軍の言葉は揶揄するようだったが、裏に真剣みが籠められている。


「いや、もう8月と考えるべきです。後、2月もしたら肌寒くなります、そして、我々は」

 ダヴー少佐は、そこで言葉を切ったが、司令部の面々も分かってしまった。

 スペイン人の我々にとって、ロシアの寒さは地獄だろう。

 グランデス将軍は改めて想った。

 ダヴー少佐がスペイン軍にいて本当に良かった。

 第2章の終わりです。

 次から極東戦線の状況を主に描く第3章になります。


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