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第2章ー22

 暦が変わり、7月24日の午前1時になろうとしていた。

 オデッサ港近郊で警戒している日本艦隊は、軽巡洋艦「酒匂」を旗艦とし、それに吹雪型駆逐艦8隻によって編制されているが、敢えて電探を落とし、逆探のみを働かせての警戒に努めている。


「第19駆逐隊旗艦「綾波」から、ソ連艦隊発見の連絡です」

「予想通りだ」

 通信士官の報告に、田中頼三提督は喜色満面となった。

 日本艦隊が敢えて電探を落としていたのには、理由があった。

 電探が闇夜の提灯となり、トルコ海軍の方に、ソ連海軍が向かうことを懸念したのだ。

 だが、日本海軍が電探を落としていたことから、ソ連海軍は、トルコ海軍の戦艦「ヤウズ」に先に気付いて、そちらに気を取られ、こちらに向かってきたようだ。

 それを「綾波」の見張員は、目視により先に発見することが出来た(らしい)という訳だ。

 やはり、ソ連海軍は、日本海軍よりも夜戦の練度は劣っていたらしい。


「全艦、電探作動、日本海軍の怖ろしさを、ソ連海軍に教えてやるぞ」

 田中提督は、そう言いながらも、血が騒ぐのを感じた。

 40年近く前の日露戦争時に、対馬海峡において、ナホトカに向かうバルチック艦隊を、日本の連合艦隊は見過ごさざるを得なかった。

 その無念さを少しでも晴らす、絶好の機会ではないか。

 事前情報によれば、ソ連海軍は戦艦1、駆逐艦8隻から成り、空襲の被害を免れた輸送船4隻と共に出航してくる筈だ。

 戦艦がいる以上、昼間ならば怖れるべきだが、夜戦なら、敵が輸送船を護らねばならない以上、こちらの勝算が高い。


 ソ連海軍も、こちらに気が付いたようで、直ちに発砲してくる。

 だが。

「完全に闇夜の鉄砲だ。あんなの当たるか」

 田中提督は、味方の士気を鼓舞するためもあり、敢えて敵を侮辱した。

 実際、見当外れとしか、言いようのない所に、敵の砲弾の多くが落下している。


「最大戦速で接近して、敵を狙うぞ」

 一時、構想されていた次発装填装置がついていれば、また、酸素魚雷が実用化されていれば、という想いが、田中提督の心の中で浮かんでくる。

 現在、この場にいる吹雪型駆逐艦8隻には、対潜能力向上のための改装が行われた結果、魚雷は1隻当たり6発、この「酒匂」を含めても、56本しか魚雷は積まれていないのだ。

 だが、この56本の61サンチ魚雷が、敵に向かって放たれれば。

「距離5000です」

 電探担当士官の報告を聞いた田中提督は号令を下した。

「各艦、雷撃を開始せよ」


 トルコ海軍の将兵にしてみれば、目を疑う光景だった。

 ソ連海軍が、戦闘を避けるのは半ば分かっていた。

 何しろ輸送船と言う守るべきものがあるのだ。

 とは言え、敵は旧式とはいえ戦艦を含む艦隊だ。

 日本海軍が、こちらとの連携を半ば無視して、勇敢に突撃するというのは予想外だった。

 そして、その突撃の結果。


「戦艦「セヴァストポリ」大破炎上中。駆逐艦4隻が消えました。恐らく轟沈したようです。輸送船も1隻が消えました。恐らく同様に轟沈したものと。また、1隻が炎上しています」

 見張員が半ば呆然としながら報告するのを、この場にいたトルコ艦隊の最高司令官ビルゼル提督は、旗艦「ヤウズ」の司令塔の中で半ば聞き流していた。

 我がトルコ海軍の宿敵、「セヴァストポリ」が、このような運命に遭うとは。


「ソ連艦隊が全滅するまで攻撃を行え、我が「ヤウズ」は、「セヴァストポリ」を砲撃する」

 恐らくその必要は無いだろう。

 だが、「セヴァストポリ」を沈めたのは、我がトルコ海軍だ、という形は遺したい。

 それに戦艦を沈めるのは、戦艦であるべきではないか。

 ビルゼル提督は、そんなことを想いつつも、日本海軍が友軍としてこの場にあることに心からの感謝の念を抱いた。

 作中に出てくるソ連戦艦の名前が、旧称の「セヴァストポリ」なのは、この世界ではフランスが完全な敵国なので旧称に戻した、ということでお願いします。

(他の名前も考えたのですが、どうにもしっくり来なくて。

 かといってフランスがソ連に侵攻してきているのに、「パリジスカヤ・コンムナ」をそのまま名乗っているのもどうかと)


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