第2章ー21
ちなみに「酒匂」と2個駆逐隊がこの場にいるのには、もう少し訳があった。
5月に行われたリガ湾上陸作戦において、日本海軍は、戦艦「大和」大破という損害を被った。
また、日本海軍の「武蔵」や他の6隻の戦艦は、日本海兵隊を始めとする上陸部隊等の支援のために、主砲の砲身の交換が必要な程の艦砲射撃を行った。
そのために。
取りあえずの応急修理をして、「大和」は、本国に帰還して大修理。
それ以外の7隻の戦艦も本国に帰還して、主砲の砲身を交換するということになったのである。
だが、それでは欧州から、日本の戦艦がいなくなってしまう。
英米仏伊の戦艦がいるので、別に構わない、という主張が、他の国の海軍上層部の一部から出されたが、そうは言っても日本海軍の面子もあり、電探の改装等のために日本に残されていた「高雄」と「愛宕」、それに「酒匂」を旗艦とする第三水雷戦隊等が、欧州へと至急、赴くことになった。
そして、第三水雷戦隊等が、欧州にたどり着く頃、トルコ海軍に対する協力要請が、日本海軍に届いた。
それを聞いた第三水雷戦隊の面々が、欧州で戦わせろ、と遣欧艦隊司令部を突き上げ、第三水雷戦隊に所属する「酒匂」と2個駆逐隊が、トルコ海軍に派遣されることになったのである。
このために、ルーマニアのコンスタンツァの港は、思わぬ賑わいを見せていた。
トルコ海軍に加え、日本海軍も、この港を臨時の主な根拠地にして、オデッサ封鎖作戦に従事するという事態が発生していたからである。
「酒匂」の見張員長は、コンスタンツァの港での思わぬ光景に感慨しきりだった。
「あれが「ヤウズ」、また、あれが「エルトゥールル」だな。ここで舳先を並べるとは」
「「エルトゥールル」は、日本の「夕張」の準同型艦でしたね」
部下の一人の言葉に、見張員長は深く肯きながら、言葉をつなげた。
「黒海で、トルコ海軍と共闘できたのも何かの縁、トルコ海軍と頑張らねばな」
実際問題として、オデッサ封鎖作戦に従事しつつ、トルコ海軍の指導も行う、というのは、黒海に派遣された日本海軍の面々にとって、過労を強いられる事態ではあった。
だが、欧州で水上戦を行えるかも、という期待が、日本海軍の多くの面々の士気を高めており、過労を過労とは感じさせていなかった。
下手をすると、いわゆる燃え尽き症候群を起こしかねない話だったが、それよりも先にオデッサの戦況の方が動いてくれた。
「伊空軍の偵察報告を傍受。どうやら、ソ連軍がオデッサに輸送船を送り込むようです。なお、護衛艦隊も付随している模様。戦艦1隻を含むとのことです」
「何だと」
7月23日、コンスタンツァの港は、時ならぬ喧騒に包まれた。
今や、ソ連海軍に遺された貴重な戦艦、それを攻撃できる貴重な機会が飛び込んできたのだ。
この一報を聞いたコンスタンツァの港にいる日本海軍もトルコ海軍も目の色を変えた。
「直ちに全艦出航せよ。ソ連海軍を叩き潰す千載一遇の好機だ」
だが、コンスタンツァの港からオデッサ港までは、それなりの距離がある。
伊空軍が先にソ連の戦艦を沈めてしまうのでは、と懸念されたが、幸いなことに、伊海軍はソ連の輸送船を主に狙ったことから、戦艦は無傷でオデッサ港にたどり着けた。
そして、皮肉なことに、緊急出航準備を整えた日本海軍とトルコ海軍が、オデッサ港近くに駆けつけたのは、ソ連の輸送船団が揚陸を済ませた後だった。
だが、このままオデッサ港に止まっていては、ソ連の輸送船団が空襲等で全滅させられてしまう。
ソ連海軍は、オデッサ港近辺に駆けつけた日本、トルコ連合艦隊を強引に突破して、セヴァストポリ軍港に戻るという選択肢を選ぶしかない状況に追い込まれたのだ。
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