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第2章ー17

 アラン・ダヴー少佐は、スペイン軍のアラン・ハポン少佐と名乗って、トルコの首都アンカラにあるトルコ軍参謀本部を、6月半ばに訪問していた。

 言うまでもなく、グランデス将軍の親書を持参している。

 その親書の効果か、トルコ軍参謀本部は、チャクマク参謀総長自ら、ダヴー少佐に面談してくれた。

 余りの待遇に、ダヴー少佐は恐縮したが、それには裏があった。


「ふむ。アラン・ハポン少佐か。正直に本来の官職姓名を名乗るべきでは。アラン・ダヴー仏陸軍大尉、いや日系なのも明かすべきかな。「白い国際旅団」の一員として戦ったとも聞いているが」

 トルコ参謀本部の一室において、チャクマク参謀総長に顔を合わせた瞬間、共に現れた陸軍少将(後にハリルという名で、トルコ軍情報部の部長だと、ダヴー少佐は知ることになる)に、いきなり自らの素性を明かされ、ダヴー少佐は背中から冷や汗が出る想いがしながら、考えを巡らせた。


 これは一発、はったりをかまされたな。

 トルコ軍の情報収集能力を軽視していたようだ。

 確かにトルコにしてみれば、情報収集能力を磨かねば、自国の生存はできないだろう。

 宗教や民族の国内対立に加え、ソ連を始めとする諸外国の脅威もあるのだ。

 自分の素性くらい、掴むのは訳が無いことだ、と暗に言っている。

 ここは開き直るか、それにトルコ軍の面々の目に、自分に対する敵意はないようだ。


「いかにも。ですが、そう考えて頂いた方が、私の提案に乗りやすいのでは」

 ダヴー少佐は虚勢を張った。

「ほう。どういう理由で」

 ハリル少将は辛らつな言葉を発した。


「仏とトルコの関係は、伝統的に友好的なものだった筈です。また、日本とトルコの関係も友好的でした。先の世界大戦の時には、不幸にも敵対関係になりましたが、今、ソ連を敵に回し、貴国と日仏等は共闘関係を築くことになったのです。日仏からの提案と思って、私の話を聞いていただけませんか」

 ダヴー少佐は懸命に弁舌を振るった。


「ふむ。少なくともスペインからの提案と思うよりは、確かにマシだな。話を聞こうか。親書に内容は書いてあったが、口頭でしか言えないこともあるとも書いてあった」

 チャクマク参謀総長が口を開いた。

 ダヴー少佐は、あらためて提案を行うことにした。


「現在、黒海においては、ソ連黒海艦隊が猛威を振るっています。特に、ソ連潜水艦艦隊は、貴国の沿岸航路についてまで、通商破壊を試みる有様です。これに対処するために、日本海軍から軍事顧問団、更に駆逐艦等を提供しましょう。言うまでもなく、駆逐艦の乗組員は、対潜作戦の経験豊富な者が多くを占めます」

「ほう。日本海軍が、そこまで便宜を図るとは。スペインは何を差し出した」

 ハリル少将の口調は相変わらず冷たかった。


「さて、私には教えられていません」

 ダヴー少佐は惚けた。

 その言葉に、ハリル少将は鼻を鳴らした。

 

 ダヴー少佐は、本当は知っている。

 スペイン内戦時に日本等は国粋派、フランコ総統支援のために武器等を提供したが、それは無償ではなく、何れは代金を支払うという約束だった。

 その未払い代金が、一部とはいえ、前倒しで支払われるのだ。

 ハリル少将も(チャクマク参謀総長も)、その態度から本当は知っているのだろう。


「その代りに、我々に何をしてほしい」

「言うまでもなく、オデッサ封鎖に協力していただきたい」

「成程な。オデッサを我々が封鎖し、それで、ルーマニア軍等がオデッサを攻撃して陥落させる。確かに戦理にかなった話と言えるな」

「オデッサ陥落により、西黒海において、ソ連黒海艦隊の脅威は軽減されます。トルコにも利益がある話ではありませんか」

 ダヴー少佐の言葉に、チャクマク参謀総長は終に説得された。

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