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第2章ー14

 実際、5月15日のルーマニア国境方面における連合国軍の攻勢は、表面上は成功したものの、冷静に考えれば失敗と判定されても仕方のないものとなった。

 確かにルーマニア国境沿いに展開されていたソ連軍の防衛陣地を突破することには成功している。

 だが、本来は第一陣、第二陣と縦深攻撃を展開していくはずだったのだが。


「君の言う通りだな。ルーマニア軍は、我々を前線に出そうとはしないし、ノロノロとしか動かない」

 グランデス将軍は、アラン・ダヴー少佐に半ば愚痴った。

「おっしゃる通りです。これでは、どちらの味方なのか」

 ダヴー少佐の目つきも険しい物とならざるを得なかった。


 スペイン青師団は、第二陣の攻勢部隊の筈だったのだが、ルーマニア軍に阻害され、最前線に出ることが出来ない状況にある。

 だが、スペイン青師団の総兵力は、約3個師団、後方部隊まで入れても約10万人にすぎない。

 南方軍集団、約300万人余りの中では、大した力が無い。

 だから、グランデス将軍は、スペイン青師団をルーマニア軍の後方に止めざるを得ず、必然的にルーマニア軍が最前線に立ち続けるという事態が起こった。

 そして、ルーマニア軍がそのような攻勢を取った結果、幾ら他国軍、仏伊が奮闘しようとも、攻勢初日のソ連軍の損害は少数に止まった。

 

 その後、リヴォフを中心とする連合国軍の攻勢が、ほぼ予定通りの成功を収めたことから、側面を襲われることを懸念したルーマニア国境方面のソ連軍は、後退することは後退したが、完全に秩序だった撤退作戦を展開していった。

 このため、ドニエストル河をルーマニア軍の多くが渡河するのは、事前計画では5月20日の予定だったところが、5月末にまでずれ込むという事態が起きた。


 この件は、さすがに連合国軍内部でも問題になった。

 何しろ、他の4か所では順調に攻勢が展開されているのに、ルーマニア国境方面のみが、攻勢が成功しているとはいえ、ノロノロとした攻撃を行っているのである。


 その最大の原因となったルーマニア軍には厳しい目が向けられ、我々に非協力的なルーマニアにベッサラビア地方を渡すな、ベッサラビア地方はウクライナのままにすべきだ、という声が連合国軍上層部の一部から上がる有様になった。


 この言葉にルーマニア軍上層部は反感を抱いた。

 ベッサラビア地方は、我々ルーマニアのもので、ウクライナのものではない。

 それに対ソ戦争に我々は参戦して戦っているではないか。

 少々、戦果を挙げないだけで、何故にそこまで言われないといけないのか、という論理である。


 こういったルーマニア軍の反感は、ルーマニア軍の戦いぶりに反感を抱く連合国軍上層部の一部に更なる反感を招いた。

 そういったことは、まともに戦ってから言え、という論理である。

 特に直接の足を引っ張られた伊軍内部の反感が酷かった。


「全く厄介だな。伊軍については、お前が言うな、とスペイン内戦の経験からわしは言いたいが」

 グランデス将軍は、そうぼやいたが、そもそも論からいえば、スペイン本国は中立であり、下手に口を挟むと、美味しい所取りを図っているスペイン義勇兵が何を言う、という反感が、連合国軍内部において噴出しかねない。

 こうしたことから。


「裏から動いてくれないか。日仏のコネで状況を打開したい」

「分かりました」

 グランデス将軍は、本来は仏軍大尉であり、日系で「白い国際旅団」に参加していたことから、日本軍にも知り合いがいるアラン・ダヴー少佐に影働きをするように命じた。


「さて、どうするか」

 ダヴー少佐は、顔に笑みを浮かべながら、考えを巡らせた。

 もし、その顔を石原莞爾提督が見たら、さすが、サムライ、わしの弟子だ、と肩を叩いただろう。

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