第2章ー13
東方典礼カトリック教会は、歴史的経緯もあり、ウクライナ西部においては、ウクライナ東方カトリック教会として存在している。
そして、ウクライナ東方カトリック教会は歴史的宗教的連帯精神から、ポーランドやローマ教皇庁との連携関係が従前から強かった。
また。
ソ連を民族的、宗教的に揺さぶって分裂崩壊させようという連合国の大戦略から言っても、ウクライナ東方カトリック教会のウクライナ人信徒は、民族的(ロシア人に対するウクライナ人)、宗教的(正教会に対する東方典礼カトリック教会)に最も手を組みやすい相手の一つだった。
現に西ウクライナが、ソ連にとって不穏になりつつあるのは、ウクライナ東方カトリック教会の信徒の動きのお陰と言った側面が強かった。
こうしたことから、仏伊、スペインも必然的にウクライナ東方カトリック教会に肩入れしていた。
しかし、これをルーマニア人の大半が占めるルーマニア正教会の信者から見れば、異端者である東方典礼カトリック教会に、カトリックの信徒である仏伊、スペインが肩入れしていると見えるものであり、更にルーマニア東方典礼カトリック教会の信徒が、仏伊、スペインに保護を求め、ウクライナ東方カトリック教会の問題からしても、仏伊、スペインがむげにはできないのを見せられていては。
(更に言えば、ウクライナの多くの住民(ウクライナ正教徒も、ウクライナ東方カトリック教徒も)本音としては、ベッサラビア地方はウクライナの領土というところがあり、ルーマニア人の多くもそれを察しているという事情が加わってくる)
「あちらを立てれば、こちらが立たず、厄介な話だな。成程、ダヴー少佐が公言できないという訳だ」
グランデス将軍は、報告書を読み終えた後、解決困難な問題に頭を抱えざるを得なかった。
グランデス将軍は更に想いを巡らさざるを得なかった。
考えてみれば、ルーマニアを主な拠点としている仏伊、スペインは全員が歴史的にすねに傷を持つ身だ。
仏は、東方正教会にしてみれば、もっとも重要な土地の一つ、コンスタンティノープルを攻撃して、東ローマ帝国を一時的に滅亡に追い込んだ第4回十字軍の際に主力をなした面々だ。
もし、第4回十字軍が、コンスタンティノープルを攻めずに、予定通りにエルサレム救援のためにエジプトへ向かっていたら、東ローマ帝国は延命し、東方正教会の運命は大きく違っていただろう。
そして、ルーマニアがトルコの侵略にさらされる事態も無かったかもしれない。
伊も、ローマが首都で、カトリックの総本山と言ってよく、ヴェネツィアを領土にもしている。
熱心な東方正教徒になるほど、同じキリスト教徒とはいえ、好感を持つどころか、異端の総本山であり、歴史的経緯からして、反感しか覚えないだろう。
我がスペインに至っては、イエズス会の主な創設者の出身地であり、反宗教改革、東西教会の合同を積極的に推進したという歴史的経緯がある。
かと言って。
「スペイン内戦の経緯、その際のローマ教皇庁の支援だけでも、東方典礼カトリック教会に、我がスペインは肩入れしない訳には行かないし、ルーマニア人の多くもそう見るか」
グランデス将軍は、思わず口に出し、憂愁の想いを深めざるを得なかった。
敵の敵は味方、ということで簡単に団結できればいいのだが、これはルーマニアは、同じラテン民族だからという理由で、熱心に自分達と共闘するという事はあるまい。
とは言え、味方である以上、そう斬り捨てる訳にも行かない。
仏伊等は、この辺りの事をどこまで考えているのだろうか、そんなことまでグランデス将軍は考え、不安の念を抱え込んだまま、5月15日の侵攻作戦発動の時を迎えることになった。
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