第2章ー10
エイブラムス大尉の報告を受け、米第3軍は直ちに対策を講じた。
この戦車の壁は速やかに破壊されねばならない。
そのために。
「双胴の悪魔か」
エイブラムス大尉は、自分達の支援のために駆けつけた米軍機の姿を確認して、そう呟いた。
エイブラムス大尉の目には、米陸軍の誇る最新の戦闘爆撃機P-38、16機の姿が入っていた。
あの独特の形は間違いようがない。
更にその半数8機は、魔改造を施されたタイプのようだ。
機首が独特の形状をしている。
魔改造を施されたP-38は、一旦、ソ連軍の後方へと向かい、あらためてこちらに向かって来た。
狙うのは1点、敵戦車の車体後面だ。
あいつが積んでいる奴なら。
エイブラムス大尉は期待した。
「グッド」
エイブラムス大尉は、思わず大声を上げた。
独軍が保有していた37ミリ機関砲を転用して、P-38に搭載した対戦車型が間に合っていたか。
最初の攻撃でKV-2の内2両が炎上し、再攻撃、再々攻撃の末に全部で7両が炎上した。
とは言え。
「そうなるよな」
弾切れになったらしく、対戦車型P-38は、後方に還っていく。
対戦車型P-38の搭載する37ミリ機関砲は、そんなには弾が積めない。
更に疎林に敵のKV-2戦車がいるせいか、37ミリ機関砲弾の命中率も、そう高いとは言えない。
散々、訓練を積み重ねたとはいえ、実戦では初陣で、しかも据え物斬りでの戦果がこの結果か。
大量に対戦車型P-38が量産されるかは、微妙なところだな。
そんなことをエイブラムス大尉が想っている間にも。
残りのP-38も小型爆弾等を積んでいたようで、地上攻撃を加えてくれた。
それで、更に1両のKV-2戦車が破壊されるのが、エイブラムス大尉の目に入った。
これで残りは4両。
「自分達で残りを殺るしかないな」
エイブラムス大尉は、そう腹を括って、部下と共に再度、KV-2戦車に挑み、自分達は大量の煙幕弾を放ち、その煙幕に紛れて、味方の歩兵が、3・5インチ対戦車噴進弾を複数、叩き込むことで、ようやく残りの戦車を排除することに成功することが出来た。
だが、この戦闘の結果。
「戦車大隊の半数以上、30両が再修理不能の損害か。また、他に10両が要修理状態と」
エイブラムス大尉は、航空支援が大量に得られるという理想的な現実においても、12両のKV-2戦車によって、3倍以上の味方戦車が破壊されたという現実に恐怖心しか覚えなかった。
「街道上の怪物という極東戦線での仇名は、伊達では無いな」
エイブラムス大尉は、そう呟かざるを得ず、その呟きには、多くの同僚や部下も同意するしかなかった。
こんな出来事もあったが、米第3軍の進撃自体は、他の米軍の支援もあり、基本的には順調だった。
それこそ全てを飲み込む津波のような大進撃と言えた。
ダウカフピルス、クルストピルスという2つの西ドヴィナ河の渡河点を抑えようとい第3軍の司令官パットン将軍の意図は、十二分に達成される方向で、最終的には6月上旬までに果たされた。
これは、ソ連軍の西ドヴィナ河に第二次防衛線を敷いた上で、レニングラードを防衛するという意図をくじくものと言えた。
また、他の米軍の攻撃はバルト三国の一つ、旧リトアニア及び西ドヴィナ河以西の旧ラトヴィアの解放をももたらすことができた。
ここに、バルト三国の半分の解放を、連合国軍は果たすことが出来たと言っても良かった。
だが。
これだけの快進撃を行った米軍の被った損害も、かなりのものになった。
この1か月近い戦闘の結果、300万人近い米軍の約1割余り、約30万人程が死傷した。
パットン将軍は(少なくとも外見上は)平然としていたが、アイゼンハワー将軍は顔を青ざめさせることになった。
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