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第2章ー9

 だが、その一方、ラセイニャイ近郊での戦闘が、日本陸軍にとっては、リガ市にたどり着くまでで最大の戦闘になった。

 この後は、日本陸軍の前面にいたソ連軍は、基本的に一部の部隊を足止めにして、大部分を西ドヴィナ河渡河しての撤退へと向けたからである。

 これは、複数の要因が絡み合ったものだった。


 まず、リガ市を巡る戦闘がソ連側に不利になる一方であったことである。

 このためにソ連軍は、後方を完全に切断されることを懸念せねばならなかった。

 また、後述するが、一時的に痛打を与えることはできたものの、第3軍を中核とする米軍の進撃も順調そのものであり、こうしたことから兵力温存のために西ドヴィナ河以西から、ソ連軍は速やかな撤退を図らねばならなかった。

 更に、リトアニア人やラトヴィア人からなるレジスタンス部隊の蜂起により、西ドヴィナ河以西のソ連軍の補給が途絶しがちになっていたことも、ソ連軍の撤退を促した要因だった。

 そして、前面のソ連軍が退いていった結果。


「ここで無事に、陸軍と海兵隊が握手できてよかったです」

「こちらこそ、本当に良かった」

 リガ市において、6月5日、海兵隊の北白川宮成久王大将と陸軍の山下奉文大将は握手を交わしていた。


「リガ市近郊の西ドヴィナ河に掛かっている橋は、無事に確保されています。また、リガ港の港湾設備も、ほぼ無傷で手に入りました。ここからレニングラード、いや、サンクトペテルブルクへの進撃に、大きな足掛かりができました」

「それは、更にいい話です」

 北白川宮大将から、あらためてその話を聞き、山下大将は、顔を更に綻ばせた。

 この瞬間、日本軍にとっては、第一段のソ連欧州本土への侵攻作戦は、事実上の終わりをつげ、後方の独やポーランドとの連絡線確保のための奮闘が始まることになったのだ。


 さて、日本軍の上層部が、そんな会話を交わしていた時から、少し時をさかのぼり、ラセイニャイ近郊で日ソの戦車部隊が激突していた頃、クルストビルスを目指していた米軍の戦車隊の一部は、KV-2戦車と初めての戦闘を交わし、「街道上の怪物」の洗礼を受けていた。


「極東戦線の経験者から、ソ連軍にはモンスター戦車があるとは聞いていたが」

 米3軍に所属する第4機甲師団の戦車中隊長のエイブラムス大尉は、呻いていた。

 本来のM3中戦車の57ミリの主砲では榴弾威力が不足する、というベルリン攻防戦等の戦訓から、QF75ミリ砲に主砲を換装、搭載したM3中戦車が自分達に交じっているのさえも、恨めしく思えてくる。

 QF75ミリ砲は、榴弾威力と引き換えに対戦車威力が落ちるからだ。

 

「たった12両、されど12両か」

 疎林までも利用して、クルストビルスへの進撃を阻止するKV-2戦車12両による壁が作られている。

 盾の壁(シールドウォール)ならぬ戦車の壁(タンクウォール)だ。

(勿論、戦車間には適宜の間隔が開いており、ずらりと12両のKV-2戦車が並んでいる訳ではない)

 

 自分の憶測だが、極東戦線における戦訓から、KV-2戦車の機動力の低さに業を煮やしたソ連軍の指揮官は、発想を変えて壁として使うことを考えたのだろう。

 本来からすれば、戦車の機動力を殺す全くの愚策だが、悪い言葉を使えば、KV-2戦車の機動力の低さから割り切ってしまったともいえる。


 急ぐ余り、いつの間にか前方偵察がおろそかになっていたことを、深く自省せねばならない。

 自分が所属する戦車大隊の約50両の中の4割近い19両の戦車が目の前の戦車の壁とソ連軍歩兵の連携の前に破壊されてしまった。

 一方、目の前のKV-2戦車は、自分の見る限りは全くの無傷だ。

「ガッデム」

 怒りの余り、エイブラムス大尉は叫んだ。

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