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第2章ー5

 ラセイニャイ近郊で、日ソの戦車部隊が雌雄を決した伝説の大戦車戦だが、通説では1942年5月19日に行われたとされている。

 だが、異説も多い。

 例えば、実際にこの戦闘に参加した西住小次郎大尉の回想録では、同月18日から20日にかけて、事実上は数段階にわたり行われたとなっている。

 更に公式の日本陸軍の戦史記録では、そもそもラセイニャイの戦車戦を特記していない。


 この当時、欧州にいた山下奉文大将率いる日本陸軍の上層部の面々にしてみれば、リガ市への急進撃が最も重要なことであり、その過程で起こった戦闘は一連のものに過ぎなかった。

 だから、第二次世界大戦後にしばらく経ってから、ラセイニャイ近郊での戦車戦が注目されるようになった時には、日本陸軍の公式記録は編纂済みで、今更な話になっていた。

 勿論、様々な資料は日本陸軍内部で保存されており、それらを比較対照して、正確な実態を掴もうと戦史研究者の多くが復元を試みているが、意外と苦労しているのが、現実である。


 これは、ソ連陸軍戦車部隊の待伏せを看破した日本陸軍戦車部隊が、ソ連戦車部隊を吊り出し、空爆で破壊しようとし、これにソ連陸軍も巧みに応戦して、増援部隊を投入したため、結果的に日本陸軍も予備部隊を投入して対応せざるを得なくなり、と段階的に戦闘が拡大したためである。

 そのため、どこからどこまでをラセイニャイ戦車戦と呼ぶのか、筆者によって考えが違ってくるのだ。

 以下は、現在の通説に基づく描写になる。


 5月18日午後、西住大尉の所属する戦車中隊が、ソ連戦車部隊の待伏せに気付いたのが発端だった。

 更に、相次いで、他の前衛部隊も、ソ連戦車部隊の待伏せを発見し、相次いで要撃準備を整えた。

 前衛部隊から各師団司令部へ、更に軍司令部へと情報が伝達され、航空機の支援が要請された。

 また、待ち伏せしているという事は、歩兵等の支援も充実していると推測されたため、威力偵察を行うことで、ソ連戦車部隊の釣り出しを前衛部隊の多くは意図した。


「慎重に前進しろ。敵が撃ってきたら、躊躇わずに後退しろ」

 西住大尉は、隷下にある中隊にそう命じた。

 自分達の後退に引っかかってくれ、引っかかってくれれば、百式重戦車(後期型)が待ち伏せしているところまで誘導して、十字砲火で仕留めることが出来る。

 陸軍士官学校で一期先輩になる島田豊作少佐が確言していた。

 百式重戦車(後期型)なら、KV-2といえども500メートル以内に接近すれば撃破可能だと。


「とは言え、おそらくソ連軍は引っかからない。いや、引っかかれない」

 歴戦の戦車兵として、西住大尉は、そう判断していた。

 機動力が低すぎるKV戦車は、戦場の盾として使われるだろう。

 日本の戦車部隊が幾ら引き込もうとしても、そもそも動けない可能性すらある。

 となると、こちらから腰を据えて攻めるしかない。


 T-34より古いBT戦車シリーズ等なら、日本側の戦車の質が優位を誇るが、T-34ならほぼ互角、いや戦車の質的なやや劣位を、乗員の腕で補って互角に持ち込んでいるという所、KV-1もほぼ同じ、KV-2では日本側の戦車は質的には完全に劣るが、機動戦で対処と言うのが基本である。

 そして、ソ連側もそれを熟知している以上は。


 実際、5月18日の戦闘は、西住大尉の判断通りと言って良かった。

 日本の戦車部隊が、懸命にソ連の戦車部隊を誘い出そうとしたが、ソ連軍はそれに殆ど引っかからない。

 引っかかってくれれば、それを逆用できるが、反撃してくるのは機動力に優れるBT戦車等で、日本軍の待伏せしている地点まで追撃せずに引き上げてしまう。


「強攻するしかないな」

 日本側は、そう判断せざるを得なくなった。

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