第1章ー2
そんな想いを、上陸部隊の将兵がしているのを知ったら、上陸作戦を支援する部隊の将兵は、心外極まりない話だ、とほぼ全員が激怒しただろう。
それくらい、この時の上陸作戦を支援する連合軍の海空戦力は充実したものだった。
「日米英仏伊、5か国の空母部隊が集結していますからな。各国の艦上戦闘機による制空権確保も余裕をもって行えますな」
「今では、電探による眼まであるからな。尚更、安心できる」
参謀長の吉良俊一提督の言葉に、にこりともせずに日本海軍の空母部隊を統括する第一航空艦隊の司令官を務める小沢治三郎提督は答えた。
日米英仏伊の5か国の空母部隊の搭載機数は、2000機余りと公称されている。
日本海軍の8隻の空母だけでも、500機を超えているのだ。
これだけの空母部隊を攻撃するとなると、ソ連空軍もかなり大規模な攻撃部隊を投入しないと、実際の戦果が挙がらないだろうが、ソ連空軍はこれまでの航空消耗戦で、かなりの打撃を被っており、少数部隊による五月雨式の攻撃を掛けてくるだけのようだ。
勿論、大規模な攻撃部隊をソ連空軍が編成するとなると、大規模な航空部隊の移動が、ある程度は必然的な話となってしまうので、それを通信傍受や現地諜者によって掴まれてしまうという問題がある。
特にバルト海沿岸の一帯は、ロシア系民族の住民が少なく、一番多いのがバルト系民族の住民であり、バルト・ドイツ系の民族の住民もかなりの割合を占めるという問題があった。
そのために、確かに独ソ側の住民もいたが、戦後を見据えてバルト・ドイツ系の住民の一部さえも、自由ドイツの存在から連合国側に通じており、実際の現地住民は、連合国側に味方する者が多かった。
それで、ソ連による連合国側の現地諜者狩りは上手く運ばなかったのだ。
そして、ソ連空軍の大規模な航空部隊の移動を、連合国側が掴んだ場合、移動先の飛行場等は大規模な連合国側の航空攻撃が行われるのが常だった。
懸命に偽装等にソ連空軍が努めても、住民に紛れた現地諜者の目や航空偵察等を完全に眩ますのは、困難と言うか、無理に近い話だった。
そのために、今、史上最大の上陸作戦を前にして、ソ連空軍の対艦攻撃部隊は、各地の飛行場から分散しての小規模な攻撃を繰り返さざるを得なくなり、連合国側の空母部隊が連携して投入する戦闘機部隊の前に圧倒されていたのである。
「リガ湾において、上陸作戦を障害する構造物ですが、余り確認されていません。精々が野戦陣地を強化した程度と、航空偵察も現地諜者も述べています。ただ」
吉良提督は、自分自身でも考え過ぎと思いつつ、小沢提督に進言した。
「唯一、ルフヌ島の現状が分かりません。それが不安要素になっています」
「ルフヌ島か」
小沢提督は想いを巡らせた。
リガ湾に浮かぶルフヌ島、以前はエストニア領であったが、その当時は無防備極まりない島だった。
ソ連がエストニアを併合した後、島の住民全てを追い払って、守備隊を置いた為に、現地諜者では探ることはできなかった。
ただ、航空偵察によると、要塞砲を配備した砲台が設置されたのでは、という推測が為されている。
だが、航空偵察では、それ以上のことが分からなかったのだ。
「リガ湾全体への攻撃を優先する必要から、ルフヌ島に対してはそんなに爆撃が加えられていません。一応、米海軍の攻撃隊が、2000ポンドの徹甲弾を含む水平爆撃を、同島のソ連軍の砲台に浴びせていますが、延べ約50トンの爆撃にもかかわらず、目につく程の損傷はないとのことです」
吉良提督は、補足説明をした。
「ふむ」
小沢提督は、その説明を聞いて、不安を急に覚えた。
まさか戦艦級の要塞砲が待ち構えているのではないか。
ご意見、ご感想をお待ちしています。