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エピローグー5

 そんな気まずい空気を、ちょうどかき消すかのような声が、グランデス将軍とアラン・ダヴー大尉に掛けられてきた。

「ダヴー大尉ではありませんか。ということは、傍におられるのはグランデス将軍閣下ですか」

 誰の声か、とダヴー大尉が声の方を見れば、声を挙げたのは土方勇中尉だった。

「お久しぶりです」

 堪能な日本語で、ダヴー大尉が即答すると、土方中尉は顔を綻ばせて言った。

「遥々、ようこそ。サンクトペテルブルクに」


「サンクトペテルブルクですか。この市の名前が旧称に戻っていたとは知りませんでした」

「正式には、来年の1月1日を期してですけどね。でも、色々と準備も進んでいますし、多くの者が旧称で呼ぶようになっていますよ。それに」

 ダヴー大尉の問いかけに、土方中尉は訳知り顔をしながら言葉を続けた。

「ここはもうすぐ首都に復帰する予定ですから」


 半ば公然と話される話題にはなっていたが、土方中尉の言葉を聞き、そのために来たにも関わらず、ダヴー中尉はその言葉の裏の重みをあらためて感じざるを得なかった。


 ソ連軍の将軍でありながら、連合国に投降してきたウラソフ将軍を中心にロシア解放軍が制式に編制されようとしているのだ。

 だが、それでは軍隊だけに過ぎない。

 ロシア諸民族解放委員会が組織され、その委員会の下、現在、ソ連政府の統治下に置かれている諸民族が独立しての民族国家樹立が画策されているのだ。

 そして、サンクトペテルブルクは、ロシア諸民族解放委員会本部が置かれ、更にロシア民族国家の首都となることが内定している。


 当然、現ソ連政府は、このような政府、国家を認めないだろうが、連合国側はそれは織り込み済みだ。

 現ソ連政府の完全な解体が連合国側の目標である以上、その受け皿を準備する必要があるからだ。

 ロシア諸民族解放委員会は、第二次世界大戦後を見据えた、そのための受け皿だった。

 そして、来年、1943年1月1日に連合国の主な政府、軍の首脳がサンクトペテルブルクに集い、そのための宣言をすることになっており、グランデス将軍はその一員として、ダヴー大尉はその随員として、この場に来たという次第だった。


「それにしても、多くの血がこの世界大戦で流れています。少なくとも3億人、いや4億人の血がそのために流れているとも言われているのに。後、どれくらいの血が流れるのか、と思ってしまいます」

 久々に(表立って言えないとはいえ)義弟にして親友に逢えたという想いから、土方中尉は思わずそう半ば嘆くように言った。

「全くですね」

 ダヴー大尉も同感だった。


 戦争というのは直接、戦場の死をもたらすだけではない。

 飢餓や疫病等を引き起こし、それによっても大量の死をもたらすのだ。

 特にこの第二次世界大戦では、宗教や民族の対立もあり、それによっても大量の死者が出ている。

 本来の戦場とは遠く離れたインドやパレスチナ等でも、大量の死者が出ているのだ。

 独ソ等での迫害から逃れたユダヤ人が、パレスチナでは弾圧側に回る等、単純に加害者、被害者に分けられない複雑な状況も引き起こされている。

 その結果、世界中で少なくとも3億人と推定される関連死者が出ている。

 二人の間に重い空気が流れた。


「すみませんが、日本遣欧総軍司令部に案内していただけませんか。グランデス将軍が、北白川宮成久王大将と会う約束をしているので」

 空気を変えるためもあり、ダヴー大尉はそう示唆した。

「失礼しました。すぐに案内します」

 確かに将軍が傍にいるのに失礼な話だ。

 それに気づいた土方中尉は、慌てて二人を日本遣欧総軍司令部に案内することにした。


 土方中尉は歩みながら想った。

 早く戦争が終わり、犠牲者が少しでも減って欲しいものだ。

 これで第13部を完結します。

 最終部予定の第14部については、1月程後に投稿開始予定です。


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