第1章ー12
ともかくこういった事態から、リガ市街を護る独ソ軍、それを攻囲する日米連合軍、更にその攻囲を破り、リガ市との連絡を回復しようとする独ソ軍、更にソ連とポーランドの国境線から独ソ軍を破り、リガ市を目指そうとする日米連合軍という、錯綜した戦線が北方戦線においては、展開される羽目になった。
この戦線においては、上層部はともかく、現場の多くの兵員にしてみれば、正面のみならず、背後も気にしなければならない、という事態が多発した。
「あの艦砲射撃の威力、武蔵が援けてくれたのでしょうな」
土方勇中尉の搭乗する零式重戦車の傍で、防須正秀少尉が呟いていた。
5月末になり、いくら北に位置するとはいえ、夏の暑さを感じつつある現状の下、土方中尉は、リガ市救援を図る独ソ軍の攻撃に対処するための予備部隊の一員となっている。
予備部隊とはいえ、最前線が崩れた場合の即応部隊としての配置であり、最前線部隊救援のための艦砲射撃の威力を肌近くで感じられる状況だった。
「いや、あの艦砲射撃の威力は、武蔵ではない。仏か、伊の戦艦だな」
防須少尉の言葉を聞いて、心強く思っている兵の心情を考え、そう土方中尉は心の中だけで呟いた。
防須少尉と比較すれば、実戦経験を積んでいる土方中尉の目からすれば、その威力の違いが分かる。
それでも、戦艦の艦砲射撃であることに変わりはない。
独ソ軍の攻勢は、艦砲射撃の支援もあって頓挫させられたようだ。
「何とかこのまま防衛戦を展開出来れば問題ないか」
土方中尉は、そう想いを巡らせた。
リガ市を死守しようとしている独ソ軍。
そして、補給港を確保しようとリガ市への攻勢を取る日米の海兵隊。
リガ市への独ソ軍の救援を阻止しようとする日米の海兵隊。
更に、リガ市への救援に総力を挙げる独ソ軍と四重の部隊が折り重なっている。
リガ市にある港(厳密に言えば、リガ市は西ドヴィナ河に面した都市であり、河口から約15キロ程遡ったところに港も位置しているので海港都市とは言い難い)を、日米の海兵隊は共同して占領しようと奮戦している。
ロンメル将軍を総司令官とするリガ市防衛軍は、本来の指揮系統からすれば、民主独軍とソ連軍の混成なので、指揮統制が困難そうだが、ロンメル将軍の陣頭指揮等もあり、日米の海兵隊の奮戦を連携して巧みに凌ごうと苦闘している。
だが。
リガ市民の多くが、戦の風向きを完全に読んでおり、更に祖国ラトヴィアの独立を願っていることもあって、独ソ軍の防御の裏、欠点を苦心しながらも、日米の海兵隊に内報することが続発している。
そのために、ロンメル将軍が苦心しながら作った防御陣地も、その効力を半減させているらしい。
それで、日米の海兵隊の攻勢は優位に進んでおり、一部の部隊は市街戦を展開するまでになっていた。
また、リガ市救援を図る独ソ軍の背後に西方から日米の陸軍部隊の進撃が続いている。
日米軍と言うより、ソ連西方国境全体で発動された連合国軍の最初の大攻勢に伴う突破により、ソ連軍の多くの部隊が崩れ立っており、
「幅3000キロに及ぶソ連軍の戦線を完全に連合国軍は崩壊させた」
と連合国の各国の新聞が報ずる有様になっていた。
これぞソ連軍の縦深攻撃を咀嚼した連合国軍の攻撃の真骨頂と言えた。
これだけ広大な幅の戦線が完全に崩壊しては、少々の予備部隊でその穴を埋めることは不可能である。
しかも、その攻撃の奥行きは数十キロに達するのだ。
そうは言っても、ソ連の国境からリガ市まではかなり離れているので、、日米の陸軍が快進撃を続けてはいてもまだ離れてはいるが、リガ市救援の独ソ軍が背後を徐々に気にしないといけなくなりつつある。
土方中尉は戦況の好転を感じていた。
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