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第7章ー7

 もし、土地の住民とそこに駐屯する兵士とに、いわゆる郷土部隊等として親しみがあれば、また、状況は違ったかもしれない。

 だが、故郷から遠く離れた兵士達に、土地の住民との連帯感を求めるのは困難な話だった。

 そうしたことから、駐屯部隊と現地住民とは相剋し合った。

 対共産中国戦争末期段階になり、駐屯部隊と現地住民が対立しあって、お互いに事実上は攻撃し合う末期的な状況が、この当時の福建省や江西省では起こるようになっていたのだ。


 更に言うならば、皮肉なことに日本軍が中々侵攻してこなかったことが、逆説的に福建省や江西省における状況を深刻化させてしまっていたともいえる。

 日本軍が速やかに侵攻していれば、現地住民と駐屯部隊は、敵である日本軍に対して、一致結束して抗戦することが可能だっただろうが、中々侵攻してこなかったために、内輪もめが起こってしまったのだ。

 その内輪もめは、極めて深刻なものとなった。


(そして、駐屯部隊の多くが現地出身で無かったことから、現地住民との間の意思疎通に困難が多発したことも内輪もめを深刻にした一因だった。

 言うまでもないことかもしれないが、単に中国語と言われるが、口語でいえば七大方言、十大方言と言われる程、多数の方言があり、日本語の方言と異なり、中国語では方言が違えば、会話がほぼ成立しない、と言ってもあながち間違いではない。

 つまり、現地住民と駐屯部隊の間で、話し言葉が違うことにより、行き違いが生じ、それが積み重なって、更に対立が深刻化していく、という事態が起こったのだ)


 共産中国政府としては、現地住民と駐屯部隊が一体となって、分離独立なり、単独での満州国、蒋介石政権への投降なり、といった事態が起こることを警戒して、このような配置をできる限り行っていたのだが、江西省や福建省等では、それが内輪もめとなり、日本軍が侵攻した時には、相剋が行きついた果てに、現地の大荒廃が起こっていたという次第だった。


「ともかく、厦門市は完全に荒廃しています。厦門市周辺の農地を復旧させ、住民が農業ができるようにして、まずは自活させ、更に厦門市を物資の集散地として機能するようにし、ということをやる必要があると私は考えます」

 今村均中将は懸命に訴えた。


「他の都市も大同小異か。生き残っていた住民、投降を決断した将兵にしても、実際には物資の欠乏から、投降を余儀なくされた、という側面が大きい。武装を解除し、当座の食糧等を提供して、自活させるにしても、その物資が膨大なものとなるな」

 岡村寧次大将は、他の部隊からの報告も得ており、現地の状況に気が重くならざるを得なかった。

 更に気が重くなることがあった。


 それは投降してきた共産中国軍の将兵を、簡単に武装解除して復員させて、故郷に帰還させるという訳にはいかないことだった。

 何しろ、皮肉なことに生き延びて投降してきた将兵ほど、共産党員、又はいわゆるそのシンパが多数含まれているのだ。

 そんな存在を、武装解除に応じたからと言って、簡単に故郷への帰還を認めたら、故郷で共産中国政府の宣伝に努め、抗米、抗日運動を草の根で展開しかねない。


 更にこれまでに共産中国軍が、現地で行ってきた民衆への弾圧という問題がある。

 それを行った単なる一般兵ならまだしも、命令を下した幹部、具体的に言えば士官級以上の実行者は、それなりに裁かないと、民衆の反感が宥められない事態となっている。


 そして、満州国政府への対応も問題だった。

 蒋介石率いる満州国政府の幹部は言うまでもないが、いわゆる中国国民党右派が占めている。

 彼らの多くが、中国共産党員を恨みの塊と見なしており、共産党員への裁判、処刑を叫んでいた。

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