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第7章ー5

 こうして、中国本土奥地、四川省や青海省に対する戦略爆撃は、米陸軍航空隊が担うことになった。

 そして、様々な準備を整え上げた米陸軍航空隊は、既に述べてきたが、大規模な枯葉剤や農薬等の散布に加えて、四川省や青海省に存在する水利・灌漑設備に対する戦略爆撃も行うことになった。

 1942年11月初め、その中でも最大の目標とされていた都江堰に対する爆撃が行われた。


「都江堰の宝瓶口を、まずは完全に叩き壊せ。他の魚嘴、飛沙堰も壊せる限り、壊すのだ」

 ルメイ大佐は、これまでの慣例に自らが従い、パスファインダー機に乗り込んで、大爆撃部隊の総指揮に当たっており、部下をそう叱咤激励していた。

 都江堰破壊のために、襄陽周辺には約1000機のB-24重爆撃機が集められて、この爆撃にほぼ全機が参加していた。

 それぞれが、2000ポンド爆弾4発を(小改造を施した)爆弾倉に積み込んでおり、それらを単純に合計すれば約800万ポンド、約3600トンの鉄の雨が都江堰に降り注ぐことになる。


 その内の4割を宝瓶口に叩きつけて破壊することで、都江堰から宝瓶口を経由して、成都平原へと流出する水量を大幅に増加させる、というのが、ルメイ大佐の第一の考えだった。

 更に魚嘴周辺に爆撃を加えることで、出来得る限り、本流を封鎖して、灌江に岷江の水全てが流れ込むようにし、飛沙堰を破壊することで、大量の土砂が本流ではなく灌江から成都平原へと流れ込むようにも、ルメイ大佐は目論んでいる。

 この計画が、完全に成功すれば、都江堰の修復は極めて困難になり、修復作業が10年単位で必要になるとルメイ大佐は見込んでいた。

 そして、米軍の爆撃は成功裏に終わった。


 数日後、爆撃後の都江堰周辺の航空写真を分析した結果が、米本国にまで報告された。

 都江堰は完全に機能を喪失し、岷江の水は全て成都平原に溢れだしている、と言っても過言ではない有様となっていた。

 勿論、洪水の結果等により、自然に低きに流れる水路ができており、最終的には岷江本流へ、更には長江本流へと、洪水の水は流れてはいる。

 だが、都江堰周辺の広大な農地が、完全に冠水してしまい、現状では農地としての機能を喪失していた。

 この状況に鑑みて、冠水している農地を再機能させるために、都江堰を速やかに共産中国政府が修復しようと試みるにしても。 


 米軍は、その修復状況を見て、再度の大爆撃を加えることが可能であることからすれば、都江堰の修復作業は、文字通り、いわゆる賽の河原の石積み作業となる可能性が高く、共産中国政府は都江堰の修復を断念せざるを得ないのはやむを得ない話だった。

 こうしたことから、第二次世界大戦中、都江堰の修復作業は為されないまま、ということになった。


 そして、共産中国政府の統治下に遺されていた領土内の都江堰以外の水利、灌漑設備も、同様に米軍の大規模な爆撃対象となった。

 このために、四川省や青海省内の農業生産は、水利、灌漑設備の大規模な破壊が行われたことや、枯葉剤や農薬の大量散布が行われたことから、1943年度の農作物の生産量は、平年の1割にも満たないと推測される惨状となった。

(推測となるのは、この時の農作物の生産量に関しては、精確な生産量が、戦禍被害もあり、推測に頼らざるを得ないからである)


 そして、この当時の四川省や青海省は、戦禍を逃れてきた大量の避難民に溢れかえっていた。

 人口が急増している所に、農作物の生産量の激減という事態が発生したのだ。

 それまでの戦禍で、備蓄されていた食糧の底が見えつつある中で、追い打ちを駆けられては。

 四川省や青海省では、食糧の値段が闇で暴騰し、更には退蔵が横行することになったのだ。

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